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青春讃歌  作者: 鍋谷葵
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敗北、涙、成長

 中学三年生の初夏、私の所属していたサッカー部は地区予選の二回戦で敗退した。六対〇の惨敗であり、試合直後は涙さえ流れず、泥で汚れたチームメイトたちと「負けちったな」、「あいつら強かったな」と軽口を飛ばし合っていた。私たちは笑っていたし、その瞬間に悔しさや悲しみは全くなかった。


 私たちは各々の道具を整理し、笑いながらベンチを後にした。土と汗の臭いを纏う私たちはグラウンド脇で最後のミーティングを始めた。


 部長の脇坂、副部長の滝藤、それから三年生各人が後輩たちに向け、年長者らしい激励を飛ばし、私も彼らに倣って「二年は最高学年となって後輩を引っ張っていかないとだし、一年は来年に向けて二年生の背中を追って先輩らしさを学ばないといけないと思う。大変なこともあると思うけど、これからも部のために頑張ってくれ」と、引退の挨拶らしい挨拶を軽い笑みとともに、夕暮れ時の日差しを浴びる後輩たちに送った。


 青臭い挨拶を受け取った後輩たちは、「やっと自由だ」と目を輝かせる者と、「先輩がいなくて不安だ」と顔に影を宿らせる者に分けられた。もっとも、スタメンで出場していた三人の二年生は、例外的にわなわなと体を震わせていた。


 ミーティングは外部から招聘した五十過ぎの監督の言葉で締めくくられた。厳格な態度で厳しい練習を強いてきた男の口から紡がれたのは、「お前らを都大会まで連れて行ってやれなくて申し訳ない」という謝罪だった。


 それを聞いた瞬間、そして白髪交じりの頭を監督が下げた瞬間、私は涙を零した。それは私以外の三年生も同様であった。私たちはこの刹那に初めて、中学校生活を彩った部活動が終わったことを理解した。


 嗚咽と涙に溢れた私たちは、茜色の夕陽を背に帰った。


 帰路の最中、彼らと言葉を交わすことはなかった。


 私は胸を引き裂かれそうな思いとともに、帰宅し、風呂に入り、親とも言葉を交わさず、微睡を貪った。

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