彼女と、私と、恋慕
告白のあと、私と彼女は一緒に帰った。
初めてのデートは放課後だったのだ。
どんよりとした灰色の雲が空を覆い、冬の冷たい空気を閉じ込めていた。だけれども、私と彼女の間に出来上がった熱い関係は冷めなかった。
部活で仲良くしていたということもあり、恋愛関係が私たちの関係にズレを生み出すことはなかった。緊張もなく、下校の道を普段と変わらない少し気怠い調子で歩き、とりとめのない会話を笑みとともに交わした。違う点を挙げるとするなら、それは互いの体温を確かめ合うように手を固く握り合っていたことだろう。徐々に溶け合って一つになっていく温度に、私は幸福を覚えた。
暖かい心持を携え、私と彼女は駅前のマックに入った。店内には高校の連中が半分、仕事終わりの大人が半分といった具合で混み合っていた。
「俺、注文しておくから席取っておいてよ」
「わかった! じゃ、ホットコーヒーとチョコパイね」
「了解」
注文を言い残した彼女は嬉々として席を探しに行った。私は行列のレジに並びながら、人ごみに消えていく彼女の小さな背中を見つめていた。
コーヒーとチョコの大人っぽい香り、ハンバーガーとコーラのジャンクな匂い。それらが一緒くたになったトレイをもって、私は彼女を探した。狭い店内を少しばかり徘徊すると、窓辺の二人席に彼女が座っていた。彼女はスマホを弄りながら心の底から楽しそうに笑っていた。
視界の隅に私が入ったのか、彼女は手を大きく振って場所を知らせた。小さな手が元気いっぱい動くさまはかわいらしく思えた。
「ごめん、ありがと」
「こっちこそ、席取らせて悪かったよ」
「そんなことないよ。あっ、お金」
「一応、彼氏になったんだ。奢らせてよ」
彼女は私の一言に申し訳なさそうに微笑んだ。そのいじらしい表情に私の心は熱を帯びた。入店するまで鎮静化していた恋慕の情は、再び熱を帯びたのであった。
心に籠る熱は私の口に制限を与えた。言葉は滑らかさを失って、ブツ切れの耳障りな音へと変化した。これまでと変わらない他愛のない会話を交わしていたはずなのにもかかわらず、私の声は平衡感覚を失ってしまった。
私の変化に彼女は気づいていた。「公彦、もしかしていまさら緊張してるの?」と揶揄ってきたのだから。
甘い香りを漂わせながら目を猫のように細める彼女に私は愛おしさを覚えた。それは一種の苛立ちでもあった。
彼女の話は女子高生らしく校内の噂話や部内の恋愛関係に関する話題が多かった。私自身その内容に興味を持てなかったが彼女の話に相槌を打ち、ころころと変わる彼女の表情を見ているだけで楽しかった。何より視線が合って互いに頬を赤らませる瞬間は快かった。
そんな時間はあっという間に過ぎ去った。
「あっ、もう八時じゃん」
手元のスマホに視線を落とすと二十時を示していた。
「帰ろっか」
「うん」
寂し気に頷いた彼女は私と同時に立ち上がり、私と一緒にトレイを片付けた。
店内を出ると夕方より一層寒い風が吹き抜けた。彼女は「さっむ」と自分の体を自分の腕で抱きしめた。
「今日はありがと!」
冷気のために赤らむ頬を携えた彼女は、白む息を吐きながら来た道を帰っていった。