ただ喜んでいた
入学式当日は霞かかった空を称えていた。快晴であればなおよかったが、ぼんやりとした背景でも、満開の桜と新入生の声は鮮やかな輪郭をもっていた。
中学三年の春以来、私は大介とともに登校した。
父は「送るよ」と言ってきたが、私は恥と彼との約束からそれを拒否した。
久しぶりに彼とともに歩む道は、過去の経験があるのにもかかわらず新鮮だった。それは彼の横顔が一年前のそれとは異なっていたからだろう。頬はやつれ、目元には深いクマが刻まれ、彼の顔貌はより不健康になっていたのだ。
新入生で混み合う校門を抜けると、合格者名簿が張り付けられていた看板がいまだそこにあった。人混みを形成しているそれに、彼は「まだ片してなかったのかよ」と呟き、一瞥することなく立ち去ろうとした。私も後に続こうとしたが、記載されている内容を見るや否や立ち止まった。
私は彼の手を取った。彼は「なんだよ」と、私の手を払い、眉間をしかめた。
「クラス名簿だ」
私の指によって指示された看板に、彼は大きな目を細めた。
「お前と同じ四組だ」
私が探し終える前に彼は自分と私の名前を見つけ出した。私は彼の指示することを疑っていたわけではないが、確認のために名前を再度探し始めた。
私は自分の名前をなかなか見つけられなかった。目は文字の上を滑り続けた。私のどんくさい態度に痺れを切らしたのか、「そこの三行目だ」と、看板を指さしながら彼は素っ気なくつぶやいた。彼の導線に従い、視線を動かすと『一年四組』の欄に、私の名前があった。名簿の上の方を見ると、彼の名前も書かれていた。
「よかった」
「俺と一緒がそんなにうれしいか?」
「同じ中学出身だし」
「そうだよな」
視線を下に向けた彼は私を置いて昇降口に向かった。私は遠ざかる彼を足早に追った。