決戦
大きな机の後ろで、椅子が回転する。そこに座っていたのは魔王...いや、高級スーツに身を包んだ中年の男性だった。
「僕は...魔王を倒しに来たんです」タカシは躊躇いがちに言う。
男性は微笑む。「そう、物語通りにね。でも、ここでは私はCEOさ」
「CEO?魔王企業の?」
男性は軽く笑う。「魔王企業。悪くない響きだ。でも違うんだ。この物語全体のCEOさ」
「物語?」
「ああ、君はまだ気づいていないのかい?」CEOは立ち上がり、窓の外を指さす。「見てごらん」
窓の外には、無数の物語が浮かんでいた。本、映画、演劇、すべてが混ざり合い、渦を巻いている。
「我々は皆、物語の中の存在なんだ」CEOは説明する。「君が勇者で、私が魔王...いや、CEO。そう設定されているからね」
タカシは混乱する。「でも、僕には自由意志が...」
「あるのかい?」CEOは問いかける。「君がここに来たのは、物語がそう決めていたからじゃないのかな。それとも、君自身がそう決めたのかい?」
その瞬間、オフィスが溶け出す。タカシは再び、白い空間の中にいた。
「違う!」彼は叫ぶ。「僕は自分の意志で行動している!」
すると、空間に亀裂が走る。そこから、色とりどりの光が漏れ出す。
タカシは亀裂に手を伸ばす。触れた瞬間、彼は無数の可能性の中に投げ込まれた。
彼は勇者として魔王と戦い、
彼は魔王として世界を支配し、
彼は王として国を治め、
彼は農夫として畑を耕し、
彼は宇宙飛行士として銀河を旅し、
彼は作家として物語を紡ぐ。
無限の人生、無限の可能性。すべてが彼の中に流れ込む。