20話
禍々しい魔力を帯びた光弾が人々の頭上へ。
指示はまだだが体が勝手に動いた。着弾点へ向けて一足飛びに距離を詰めるリーシュ。
しかし光はその頭上で炸裂し、雨のように周囲へと降り注ぐ。
「なっ──?」
予想と異なる展開にリーシュは慌てて振り返った。
細かく分裂した光は、轟音とともに石畳が敷き詰められた広場を叩き、巻き起こった砂煙でたちまち視界が奪われる。
「セシリア、これは──」
「咆哮じゃない!」
それが直接的な破壊行動で無いことを、彼らはすぐに悟った。光の着弾点からそれぞれ沸き起こる、異常な生体反応──。
「仲間を呼んだのか!」
現れたのは魔物の群れ。その数は優に百を超える。
種類も様々で、あらゆる生態系の垣根を取り払って悪戯に再構成したようだ。
無理矢理例えるなら足のあるヘビ、直立するカエル、巨大すぎるアリ等々。そして不自然な位置に覗く無数の眼。
呼んだという表現が適切かは分からない。確かに、上位のアウトサイダーが下位のそれを使役したことは過去にもあった。
だがそれが召喚なのか分裂なのか、或いは生殖だという説すらあるが、結局何一つ解明されてはいないのだ。
「まずい──」
アウトサイダーとの戦いは理解不能な事象との戦いでもある。実質的にその専門部隊となった〈焔〉ならいざ知らず、宮殿守備を主とする兵士の中には初めて敵を見る者も多い。
標的が増え戦場が複雑化した事で、パニックが発生する──確信に近い危惧を持って味方を見渡すセシリア。
しかしそうはならなかった。
「二足歩行に〈平衡麻痺〉、四足には威嚇で〈火炎弾幕〉!」
砂煙が晴れ全容が視認できた瞬間、魔法通信による断定的な指示が飛んだ。
動揺や恐怖、緊張さえも飲み込んで、兵士達全員の判断をたった一人で代行する若き参謀長。
訓練通りに体が動く。
分かり易い特徴で区別された敵へ、躊躇なく魔法が乱れ飛ぶ。
突然現れた標的は、己の存在を誇示する間もなく体勢を崩して尻餅を尽き、或いは背を向けて後退した。
「手足が無い小型は城壁に向けて跳躍する。弓兵、十分に引き付けてから撃て」
それは指示というより予言であった。
実際にソフィアの言う通り敵は動き、これまた言葉通り動いた兵士達に撃退されたのだ。
予想外の事態で崩されるどころか、まるで想定された演習さながらに。
「なんや今日のソフィアはん……いつも以上にキレッキレやんけ」
槍を構えたまま、半ば呆然としながらも歓声を上げるジェイ。
一方セシリアは困惑する。
(確かに正確無比な指示──だがどういう事だ)
個人的な感情は抜きにして、彼女にしてもソフィアの力量は認めている。
しかしその多くは戦略に関するもので、直接的な戦闘経験が物を言う戦術に関しては、現場に及ばないというのがこれまでの彼女の評であった。
(現状把握から指示までが早すぎる。更にはこの精度……団長以上か)
「いける! こりゃいけるで」
不意討ちしたはずの敵を制した事で士気が上がり、明確に役割と相手が定まった各隊は完全に混乱から立ち直った。
敵は攻撃するどころか味方同士でぶつかり、転び、次々と追撃の餌食になる。
下は任せても大丈夫。ならば上へ──セシリアが自身の役割へと頭を切り替えたその時、リーシュは既に彼女の視界から消えていた。
空中浮遊の魔法が使えない金髪の騎士は、魔力で作った足場を階段のように蹴って宙へ。無論、その視線の先にいるのは竜種のアウトサイダーだ。
「おらっ」
斬った──ように見えた。
少なくとも硬い鱗に弾かれたようには見えなかった。
だがベリアルは怯むことなく、鋭い尾の先でリーシュを貫こうと体勢を変え、リーシュもまた更に高く飛んでそれを躱す。
「魔法部隊、援護!」
間髪入れず、火炎系を中心とした攻撃魔法が一斉にベリアルを捉える。
数十人の魔法士による集中攻撃。塵すら残るまいと思えるだけの威力が確かにあった。
しかし雄叫びを上げて身体を震わせると、払われた爆炎から何事も無かったかのようにベリアルが姿を現す。
そしてゆっくりと旋回しながら、改めて眼下を窺い静止した。
「無傷──やと? あれを受けて?」
「炎槍、横薙ぎ!」
喜色から驚愕、そして畏怖へ。忙しく表情を変えるジェイのすぐ傍らで、セシリアはヒートソウルを一閃、手近な敵を一掃した。
「集中しろ、ジェイ。部隊がリーシュの援護に動く時は地上をフォローだ」
飛び抜けた腕力がある訳では無い。戦士にしては魔法の造詣が深いが、それでも専門の魔法士には及ばない。
〈焔〉での存在感を高める為に、入隊以降とにかく戦術眼を鍛えたセシリアの視野は広かった。
そして──そんな彼女だからこそ、誰よりも先に異変に気付く。
(何かいる──!)
上空の怪物が余りにも強大な魔力を放っているが故に、地上は有象無象の集まりと誤認されても仕方がなかった──がそうではなかった。
Eランクが大半の敵の中で、一体だけ異質な魔力を放つ者がいる。
ランクで言えばCは確実。敵が多すぎてすぐには特定出来ない。
「ジェイ、気を付け──」
言い終わる前に、一筋の光弾がジェイの身体を貫いていた。




