表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

14話

 既視感(デジャヴ)と呼ぶには記憶が近い。

 初めて姿を見せた時のように、イリアは弾ける笑顔でリーシュへダイブ。そのままベッドに押し倒した。


「ふが──」


 豊満な胸に顔が埋もれる。息が詰まるも(よこしま)な幸福感によって払い退けることができない。

 しかし冥府へ落ちる前にリーシュは解放された。馬乗りになったまま、イリアが至近距離に顔を寄せる。


「えへへ。来ちゃった」

「おま……何で?」

「神殿で暮らすのが無理なら、私がこっちに来るしかないでしょ」


 答えには全然足りない。頭の中を疑問がぐるぐる回っていたが、辛うじてその一つを捕まえリーシュは叫ぶ。


「どうやって来た!? ここエデンだぞ?」

「びっくりした? 召喚魔法を使ったんだよ」


 だから答えになっていない。

 エデンには強力な結界が無数に張られている。例え翼があっても侵入できないのだ。

 確かに召喚魔法自体は可能だが、それにしても召喚士が結界内に居る必要がある。

 複雑に空間転移の魔法を仕込んだ〈(ゲート)〉、唯一それだけがエデンへ立ち入れる方法のはずであった。


「エレナに呼んでもらったの。可愛いでしょ? お友達の精霊なんだよ」


 イリアが床を指差すと、その先で毛玉がぐったりしていた。召喚のショックで気を失ったのだろうか。


「……ああ、良かった。俺はてっきりまた……」


 混乱よりまずほっとしたリーシュ。

 クレセント教国で遭遇した暗黒召喚士のように、エレナは自身を犠牲にして召喚した訳ではないようだ。


「やっぱりリーシュは優しいね。さっきまでケンカしてたのに」

「そりゃ、あんなの見せられて気分がいい訳無いからな……じゃなくて!」


 再び頭が回転を始める。


「こいつが精霊? だったら普通逆だろ。精霊に召喚されたってどういうことだよ」

「だ、か、ら。神殿で会った時に、この子の因子をこっそりリーシュに付けといたの。リーシュが一人になったのを感知して、元に戻した。その後私が異界に飛んで、そこからエレナに召喚してもらったって事。そうすれば結界なんて関係ないもん」

「……??」


 しつこいが答えになっていない。

 まず、因子だの元に戻しただのがよく分からない。更に遠く離れたクレセント大神殿からエデンに居るリーシュの行動を補足したという時点で、感知能力として異常だ。

 まして召喚とは異界の精霊を現世──召喚士の傍へと呼び出す魔法である。エレナがイリアの召喚した精霊だとするなら、呼び出された側が呼び出した側を召喚し返すなどあり得ない。

 自ら異界に飛ぶ事でそれを成したようだが──問いを重ねる度に、余計に頭がゴチャゴチャになっていく。


「お前、精霊だったのか」

「違うよ? でも異界には行けるし、戻る時に座標をずらせば空間転移と同じことができるの。その場合誰かに召喚してもらわなきゃ、だけどね」


(全っ然分かんねえ……)


 リーシュは理解することを放棄した。

 イリアに関しては「こういうもの」として無理矢理納得するしかなさそうだ。そう考えると不思議と落ち着いてきた。


「それって、お前以外にもできるのか」


 異界旅行に逆召喚。それで何処にでも移動できるなら、帝国が誇るエデンの守りは崩壊したも同然である。

 だが幸い、聖女はそれを否定した。


「無理だと思うよ。特に異界へ行くのは」


 つまりイリアが悪用しない限り、安全は確保されたままということだ。

 リーシュは一つ息を吐き、溜めに溜めた疑問を遂にぶつけた。


「なあ……イリアって何者なんだ? 俺らのことを知ってたり、不思議な力を持ってたり……まさか〈創世神〉の生まれ変わりとかじゃないよな?」


 するとイリアは真剣に考え込んで、少し間を空けた後に答える。


「違う……と思う。〈創世神〉とか言われてもよく分かんないし」

「じゃあ、歳は?」

「知らない。()()()()()()()()から」


 例え信心深くとも、聖女の神々しい伝説をそのまま信じている者は少ないだろう。「そう言われるくらい」高貴な存在だと認識されるのが大半ではなかろうか。

 だが実際に触れるとそうはいかない。何よりリーシュの目に映るイリアは、とても嘘を言っているようには見えなかった。

 リーシュは諦めて質問を変える。


「ところでさ……何で、その……俺の事をそこまで? 悪いけど全く身に覚えが無くて」


 不安が半分。しかし残り半分の期待に釣られて聞いてみた。

 イリアはパッと笑顔を戻して、


「カッコいいから!」


 と即答した。


「勿論それだけじゃないよ。強くて、優しくて。私はリーシュが大好き!」


 至って普通の理由だ。聖女が見た未来に、何か感動的なエピソードでもあるのかと考えたリーシュはやや拍子抜け。


「今度こそもう離れない」


 そう言うとイリアは再びリーシュに抱きついた。

 同じ年頃──少なくとも見た目は──の可愛らしい女性にここまで好意を寄せられて、男として嬉しくない訳は無かった。が、やはり困惑もする。


「くっつきすぎだっての」

「いいじゃない、ずっとこうしてよう?」


 そんな甘い時間のせいで、リーシュはすっかり忘れてしまっていた。

 彼は〈(ステラ)〉に呼ばれていたのだ──()()とともに。

 ノックも無くドアが開く。


「リーシュ、起きてるか──」


 朝が苦手なリーシュの寝顔を見るのが密かな楽しみ。だから小さく声を掛け、そろりと入ってきた。


「わあっ」

「な──!」

 

 まさかの光景に絶句したのはセシリアであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ