09.転生王子、第二王子に絡まれる
そう言えば昨日タイムリーにベディにお話ししたヘルツシュプルング侯爵家のマルガレータ様がお母様なのが、このアルブレヒト兄様だ。
アルブレヒト兄様は、ボクよりちょうど10才上だから今15歳だね。
フィレデルス兄様も背は高いけど、アルブレヒト兄様はそれよりも少しガッシリしている。夢の中の世界で言うなら、運動部って感じ!
アルブレヒト兄様はアカデミーで領主コース以外に騎士コースも取っていたはず。
だからボクの事も片腕で持ち上げちゃうんだね。すごい力持ちだね!ボクも将来こんな風にたくましくなって、未来のお嫁さんに頼られたいね。
「聞いてんのかよ、チビ助」
未来の自分に思いをはせていたら、アルブレヒト兄様が苛立ったように顔を近づけてきた。
うーん、キレイ系のフィレデルス兄様にかわいい系のノエル兄様とも違う、カッコいい系の美少年である。
やっぱりお母様方がそろいもそろって美女なだけあって、兄様たちは皆「雰囲気」じゃない正真正銘のイケメンってやつで、美幼児「風」なボクはちょっと落ち込んじゃうね。
「おい、聞いてんのかって言ってんだよ」
「あ、はい!聞いてます!
アルブレヒト兄様お久しぶりです」
前に会ったのは、兄様がアカデミーに行く前だから半年前だと思って挨拶をしたら、呆れた顔をして地面に下ろされた。ちょっと遊具みたいで楽しかったので残念。
「調子狂うチビだな」
ボクの身長は年齢で考えれば標準なんだけど、ずっとチビチビ言われてて、もしかしてボクのお名前覚えていないのかな?言った方が良いんだろうか。
「兄様、ボクの名前はリエトです」
「知ってるよ、チビ」
覚えてた。覚えてた上でのチビ呼びだった。
「お前の名前なんかどうでもいいんだよ。
それよりお前、今温室から出て来ただろ」
お庭から入ってすぐのこの位置からだと、温室の入り口辺りがよく見える。
「はい」
「今日だけじゃなくて、昨日も一昨日も温室に行ってたな」
「毎日見ていたんですか?」
気付かなかった。
「俺の事はいいんだよ。質問に答えろよ」
毎日見ていたんなら、もう知っているんじゃないかなぁ?
「はい、行ってました」
ボクが頷くと、知ってたはずなのに、アルブレヒト兄様は眉間にしわを寄せて変な顔をした。何かショックを受けているようにも見える。何だろ?
「あそこはあの時間……フィレデルスの場所だろう……。何でお前が入れるんだ」
え?フィレデルス兄様も最初に言っていたけど、本当にフィレデルス兄様だけの場所だったの!?
「えっ!温室って王族なら出入り自由って聞いていました!いつからそうなったんですか!?」
ボクだけ知らなかったのかな?それならフィレデルス兄様にも悪い事しちゃった!謝ったら許してくれるかな。
「ちが……っ、それは、暗黙の了解って言うか……」
「え?違うんですか?」
「違う。違うけど、フィレデルスの奴が他の人間がいるのを許さないだろ。
何でお前は追い出されないんだ」
「アルブレヒト兄様は追い出されたんですか?」
「なっ……!!」
図星らしい。
アルブレヒト兄様は言葉が出てこないらしく、顔を真っ赤にして、とりあえずボクを睨んでいる。
でも確かにボクも追い出されそうになって、静かにするからいさせてってお願いしただけだからなぁ。ボクは温室の植物にご用があったから、初日と今日以外は挨拶しかしてないからジャマにならなかったんだと思う。
アルブレヒト兄様も温室にご用があるなら、そう言ってお願いすれば良いのに。
でもアルブレヒト兄様と植物……あんまり結びつかないな。アカデミーの宿題とかかな?
「アルブレヒト兄様は、温室に何のご用があるんですか?」
もしよかったら、ボクが代わりに見てきますよ、って言ったら「用なんかねぇよ」と言われた。あれ?でも温室に行って、フィレデルス兄様に追い出されたんだよね?あ。
「ご用があるのは、フィレデルス兄様?」
「ぐっ……ち、ちが……」
明らかに動揺する姿に、当たりだと確信した。
でも、アルブレヒト兄様がフィレデルス兄様にご用ってなんだろう?
ここでおさらい。
第一王子のフィレデルス兄様はエステリバリ王国のお姫様である第二夫人の息子。
現在17歳で、アカデミーでは領主コースと文官コースを選択。
対して、第二王子のアルブレヒト兄様は、家柄主義のヘルツシュプルング侯爵家の娘である第三夫人の息子。
現在15歳で、アカデミーでは領主コースと騎士コースを選択。
年齢もアカデミーでの授業も、派閥も違う2人。
ついでに言うならタイプも全然違う。
物静かで無表情でミステリアスな美人系のフィレデルス兄様。
常に不機嫌そうでちょっとグレてる男前系のアルブレヒト兄様。
共通点がなさすぎる。
あ、1つだけ。
『第三王子が生まれて、王位継承権順位が下がった』くらいかな。
「何でお前だけ……」
そういえば、アルブレヒト兄様から見たらフィレデルス兄様は唯一の兄様だ。
ボクみたいに血がつながってるかどうかもあやしい兄弟ではなく、母様は違っても正真正銘の兄弟だから、もしかしたら兄弟同士では仲良くしたかったりするのかも。
「アルブレヒト兄様、フィレデルス兄様はご本の話や植物のお話しでしたら聞いてくれるかもしれませんよ」
なんて、ボクも今日初めてまともに会話しただけなのに、ちょっとアドバイスなんてしてみる。アルブレヒト兄様は嫌そうな顔をしている。何でさ!
「植物なんて興味ねぇよ」
えー! 相手に合わす気もないのに仲良くなろうとしてるの!? 無理じゃない!?
ボクは未来のお嫁さんの話には何だって合わせれるようになるよ!
「それじゃあ仲良くなるのは難しいですよ……」
思わず本音で答えちゃったら、アルブレヒト兄様はこう言うんだ。
「別に仲良くなりたい訳じゃねーよ!」
ボク知ってる。
これツンデレっていうやつだよね?
◇◇◇
物心ついた頃には、お前は将来王様になるんだよと言われていた。
母上もだけど、もっとは周りの大人達。
2才上の異母兄は、この国の血を半分しか引いていないから、俺の方が王にふさわしいって。
だから絶対に負けてはいけない。そう言われ続けていたのに。
4つになった時、世界がひっくり返った。
正妃に子供が生まれたのだ。しかも男児。
この国の風習なのか、権力争いの相手からの攻撃を恐れてか、ヴァルテ王室では子供が生まれても2才になるまで公表されない。
これは王室内にも同じくで、だから俺は4才になった時急に2才の弟が出来た。
しかも正妃の息子だから、次の王様候補一位の弟だ。
周囲はそれはもう嘆いた。
しかし偶然なのか、情報が漏れていたのか、第二夫人の二番目の子も2年前に生まれていた。
そうしたら今度は、正妃の息子と第二夫人の二男とを競わせようと周囲が盛り上がり始めた。
正妃はこの国の公爵家で第二夫人が他国の姫という事で、新しい派閥争いが始まったのだ。
今まで次期王になるためにって、色んなことを俺に強要していたのなんて、すっかり忘れたみたいに。俺は突然周囲に見放された気分だった。
でも俺は一人じゃなかった。
俺と同じ様に、いや、第一王子として俺よりも長い間同じように次期王と言われ続けて持ち上げ続けて、そして見放された異母兄がいたからだ。
だから一人になって、自由になった俺は、兄に近づこうとした。
日の光でキラキラと輝く髪も、深い海みたいな瞳も、何でもそつなくこなしていた姿もずっと遠くから見ていた。
やっと近くに行ける。そう思ったのに。
兄の目に俺は映らなかった。
傷の舐め合いがしたかったけど拒否されてグレた第二王子と、無になった第一王子。
兄達と仲良くなるのを既に諦めている第八王子。
ヒュー!殺伐王家!