07.転生王子、勉強を頑張る
さあ!お勉強の時間だよ!
と言っても、ベディのお勉強とは別の、ボクのね。
毒殺未遂からお休みしていた家庭教師によるお勉強の時間が復活したんだ。
前にもチラっと言ったと思うけど、この国の貴族の子は12才から全寮制のアカデミーに入る。あ、平民でも裕福な家庭の子も入るよ。貴族限定、て訳ではないんだ。
じゃあ何で裕福な家庭の子だけなのかって言うと、12才までに家庭教師による基礎的な勉強をしておく事が前提だからだ。だから基本家庭教師を雇える家庭の子しか入れない。
夢の中の世界で言うなら、小学校っていうのをすっ飛ばして中学校からスタートなのだ。小学校で習う様な事は全部分かってないと無理だよね。
じゃあお金に余裕が無い貴族や平民はまったく学校に行かないのかって言ったら、そうではない。そういった平民向けの学校もある。
ただ、平民となると家の手伝いをしなきゃいけない子も多いからどうしても授業時間も内容も落ちる。授業料もその分安いんだけど。
学校は8才から12才までで、アカデミーが12才から18歳まで。
つまり家庭教師を雇う余裕のない貴族も、学校に通って頑張れば、何とかアカデミーに入学できる程度の学力は身に付く。死ぬ気でやればね。
学校もだけど、アカデミーも将来の国を支える者の育成って事で、国から補助金が出るから。これが貴族だとちょっと多いので、家庭教師は雇えなくても何とか払える貴族も出てくるって訳。
話をアカデミーに戻すと、アカデミーが全寮制なのは社交性を磨くためと将来につながる人脈作りってのも重要視されているかららしいよ。小さな社交界とも呼ばれているよ。
そんでもって、15才からは学部分けがされていて、それが将来の職業にも直結する。
学部は『文官コース』と『騎士コース』、それから土地持ちの貴族やボクみたいな王族向けの『領主コース』がある。ここで同じ進路の者同士の交流も深めろってのもあるのね。
でも将来が変わる事は多々あるだろうから、コースを掛け持ちする事も出来るんだ。
たとえばフィレデルス兄様は文官コースと領主コースを掛け持ちしているし、オリヴィエーロ兄様にいたっては、3つのコース全部を取られる予定らしい。オリヴィエーロ兄様なら大丈夫だと思うが、同い年の第四王子も同じ様に取らさられるんだろうなというのは簡単に予想がつく。予想がつくが……あの人ちょっと脳筋寄りだから、文官コースは無理なんじゃないかな……。
まぁまだまだ先の事だし、ボクには関係ない話だからどうでもいいんだけどね!
で、家庭教師の話に戻るんだけど、つまりアカデミー入学までの学習は家庭教師に掛かっているんだ。
それによってうちの権力争い兄弟には、それぞれ選りすぐりの家庭教師が付けられている。オリヴィエーロ兄様なんかは5人付いているらしいし、第二、第三夫人陣営も負けていないし、アンネ様もお金に物を言わせてディートハルト兄様に3人の家庭教師を付けているらしい。
ボク?もう分かるよね。
「さあリエト王子、問題集は出来ましたか?」
ウェーブのかかった白髪交じりの髪を払いながら面倒臭そうにボクを見下ろすこの人こそ、ボクの唯一の家庭教師であるマチェイ先生だ。
「はい先生。ここが分かりません」
ボクが質問すると、マチェイ先生は大げさなため息を吐いた。
「こんな問題も分からないのですか。ディートハルト王子でしたら数秒で解かれる問題ですよ?」
「でも先生、ボクこれまだ習ってないと思うんですが……」
「そんなものは本を読んでご自分で学びなさい」
そう言うと、マチェイ先生は再び大げさなため息を吐き、首を振った。
「ああ、何が悲しくてこんな出世に関係ない末王子の家庭教師になどなったんでしょう……。私はアカデミーを首席で卒業したのに、誰もかれも見る目が無い。やっと王子の家庭教師の話がきたかと思ったら、出自のはっきりしない下の下の王子だという……。ああ、不幸だ……私はどうしてこんなに運が無いんだ…………」
マチェイ先生は白髪交じりで疲れた顔をしているから見えないけど、年はまだ33歳なんだって以前聞いた覚えがある。
つまり、アカデミー首席卒業は15年も前の話だ。
原因はそういう所じゃないかな、とボクは思う。
聞くところによるとディートハルト兄様の家庭教師の先生たちは皆スパルタらしいし。それとろくに授業もせずにグチと過去の栄光の話ばっかりしているマチェイ先生じゃ比べるのもおこがましいって言うか……。
あと普通に不敬罪だけど、ボクの周りの大人って大体皆こんな感じだからそれは置いておこうか。
だってうちが雇える家庭教師ってマチェイ先生くらいなんだよ。
お爺様のコネを使おうにも、お爺様のコネって軍部ばっかりだし、その流れで引っ張るとこっちの足を引っ張る気満々の人しか出てこない。
まだやる気はないけどウソは教えないマチェイ先生の方がマシってもんだ。
マチェイ先生は見ての通り要領が悪くてどこの派閥にもハマれなくてはぐれ者と化していた上に、アカデミー首席卒業の栄光を見てボクのお爺様と母様が優秀だと思って声を掛けたんだよね。この辺のザル人事もうちがバカにされる所以だと思う。
でもそうも言ってられないんだ。
「先生、これで合ってますか?」
ボクが再び差し出した問題集に、マチェイ先生はグチを止めてチラリと疲れた目を向け、その目を見開いた。
「……合っていますね」
やったね!昨日メリエルに教えてもらいながら予習した甲斐があった。
「リエト王子は計算問題はお嫌いでしたが、どういう風の吹き回しですか?」
そうなんだ、ボクってあんまり勉強は得意じゃなかったし、特に計算問題とかは好きじゃなかった。
でも毒殺されかかって、夢の世界を見て、幸せな家庭を持つという夢を持ってからは勉強もがんばろうって思った。
勉強は大事だ。色んな女の子とお話しするために!
「ボク、死にかけて目標が出来たんです。
たくさん勉強をしたいので、マチェイ先生ボクに勉強を教えてください」
「そ、そうですか……。まぁそういう事なら……私に出来る事なら……」
マチェイ先生はあまり人に頼られた事が無いのか、しどろもどろになりながらも了承してくれた。
ボクは将来誰と政略結婚するか分からないから、誰と結婚するにも対応できるようにしておかなければいけない。未来のお嫁さんにガッカリされない為にも!
「それで、どんな事をお勉強したいのですか?」
まずは国外に同盟の為の婿に差し出される事を考えて
「異国の言葉が勉強したいです!」
◇◇◇
無事、マチェイ先生がちゃんと勉強を教えてくれる事になったけど、学習準備がいるっていうのでいつも通り、計算とこの国の歴史と字の勉強をした。
マチェイ先生に教えてもらうのを待つだけじゃなくて、ボクも自分で予習しようと側室棟の図書室に向かった。まずは基礎的な事が知れればいいから、本棟の図書館までいかなくても良い。
他国との同盟を結ぶための婿入りだったら、やっぱり第二夫人のエデルミラ様の故郷の島国と隣の国辺りが可能性が高いかなと、その二国から勉強する事にした。何よりも兄様関係でその国の女の子と関わる可能性もあるからね!
その時に、自国の言葉で自国の話題を出されたら、好印象なんじゃない?ドキっとしちゃうんじゃない!?
という訳で、まずはその国の基礎的な歴史の本と、あいさつとかの簡単な会話文が載っている本を借りて自室に戻る事にした。あんまりアチコチ行ってると、護衛をやらせてもらえないベディが心配するしね。
薄い本だけど、4冊ともなると5才のボクには結構な重さで、よろよろと歩いていたら、前を見ていなかったので何かにぶつかってしりもちをついてしまった。
「ああ、これは失礼いたしました、リエト王子。
お小さいあまりに視界に入りませんでした」
全然悪いと思っていない顔で手も貸さずにそう言ったのは、ノエル兄様の護衛の騎士だった。
「ううん、ボクも前をちゃんと見てなかったからごめんね」
実際に大した衝撃じゃなかったから、意図的にけがさせないようにぶつかって来たんだろうと予想できたので、ボクはすぐに立ち上がった。
あ、それよりも本が汚れていないかな。
慌てて本を拾ってたら、最後の一冊に手が届く前に違う手に持って行かれた。
見上げると、ノエル兄様が隣国の会話文の本を持って眉をしかめていた。
「お前、アルダの言葉の本なんてどうするつもりだ?」
アルダっていうのは、お隣の国の名前だね。
「(女の子と)仲良くなるには、その国の言葉で話した方が良いと思って勉強を始めました」
「っ!?」
アルダとは国交があるしお隣だからね、パーティとかあればあちらの国の貴族も参加する事も多いから出会いも多いだろう。
まぁボクまだ5才でデビュタント前だから、パーティあっても出れないんだけどね!
ちなみにデビュタントは8才だから、3年間で喋れるようにがんばるぞ~!
「……勝手にしろ」
白い肌を赤らめたノエル兄様が、乱暴にボクに本を押し付けて、足早に去って行った。風邪でも引いているのかな?まぁいいや。
「はい、がんばります!」
ノエル兄様の後ろ姿にそう声を掛けて、ボクも自分のお部屋に帰った。
部屋では、ボクの護衛未満が5才年下の女の子に半泣きにさせられていた。
一緒にがんばろう!
おさらい
第一王子:フィレデルス (17) 小国の姫である第二夫人の息子。無気力。
第二王子: ? (15) 自国の侯爵家の娘である第三夫人の息子。ちょっとグレている。
第三王子:オリヴィエーロ(13) 自国公爵家の娘である正妃の息子。真面目で優しい?
第四王子: ? (13) 第二夫人の息子。フィレデルスの同腹弟。脳筋気味。
第五王子:ディートハルト(10) 元商家の新人貴族の娘である側室の息子。賢くて目が死んでる。
第六王子: ? (9) 第三夫人の息子。第二王子の同腹弟。
第七王子: ノエル (7) 隣国アルダ王国の公爵家の娘である側室の息子。ツンツン美少年。
第八王子: リエト (5) 田舎男爵家の娘で押しかけ側室の息子。幸せな家庭を築くため、日々努力中。