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【書籍化】転生第八王子の幸せ家族計画【コミカライズ】  作者: 八(八月八)


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56.転生王子、暴露する

 ずっと、不安だった。

 ずっと、分からなかった。


 自分の立ち位置、というものが。


 生まれたのはヴァルテ。ヴァルテ王の七番目の王子として、ノエルはこの世に生を受けた。

 だが、周囲は口をそろえて「アルダの王族の血を引く者」という。

 アルダの服。アルダの本。アルダの装飾の入った家具に、勉強もアルダ語が優先だ。


 自分はヴァルテの王子で、ヴァルテに住んでいるはずなのに。


 お母様は大好きだ。

 優しくて、綺麗で、あたたかい。

 お父様も好きだ。

 僕を見るといつもにこにこしている。

 お母様も、お父様が来ると顔には出さない様にしているけれど、嬉しそう。


 でも周囲は言うんだ。

 お母様はかわいそうなお姫様だって。

 僕も、かわいそうな王子だって。


 側近はアルダから来た人間と、ヴァルテの人間が半分ずつくらいいた。

 アルダから来た人間はお母様のことがみんな大好きみたいで、僕にも同じように接して来る。


 ヴァルテの人間は、まるで腫れ物に触るかのように、ビクビクしながら接して来る。

 僕が、ヴァルテの王子ではなく、アルダから来ている王子の様に。


 でも僕は、生まれてから七年、ヴァルテから出た事がない。

 アルダの山も、湖も、絵でしか見た事がない。お母様から聞くお話でしか知らない。


 ずっと思っていた。



 僕は、何なんだろう。

 


「ノエル兄様は、ヴァルテの第七王子で、ボクの兄様じゃないですか」





 ガタンッと馬車が急に揺れ、止まった。


「わわっ」

 座席から体が浮いて、落ちる!と思ったら向かいに座っていたノエル兄様が引っ張って抱き留めてくれた。

「あ、ありがとうございます兄様」

 お礼を言いながら顔を上げると、ばちっと兄様の紫の瞳と目が合った。

 あれ?兄様とこんなに目が合う事って、あったかな?


「いや……それより、何があった?」

 ふいっと逸らされた視線が馬車の窓に向くが、相変わらず隠されていて見えない。

 でも、耳を澄ますと馬や人の怒鳴り声が聞こえる。

 盗賊……?いや、アルダ方面の治安はいいはずだから、そんなことはないと思う。

 じゃあもう国境に着いた?


 しばらくの後、扉がガタっと揺れ、鍵が外される音がする。

 ボクらは扉から一番離れた場所へ下がり、兄様がまたボクの手を握ってくれた。今度は震えていなかった。


 ガタンッ、バン!


「坊ちゃん! 無事でよかった!!」

「ベディ!?」

 まさかのベディ登場に、ボクも思わず大きな声が出た。


「ノエル王子!」

「お前……ローレンツ?」

 ベディの後ろから、ローレンツも顔を出し、ノエル兄様が警戒をにじませながらも返答する。


「坊ちゃん、もう大丈夫です。あいつらはそこで寝転がってますぜ」

「え!」

 得意気なベディに、ボクは慌てて開かれた扉から馬車の外を見ると、そこにはうずくまって縛られている、クルトとカジマールの姿があった。

「兄様!」

 振り返ると、ノエル兄様もボクの後ろまで来ていて外の様子を見て、ホッと息を吐いた。

 ボクらはそれぞれ抱きかかえられながら馬車を降り、あたりを見渡す。

 薄暗くなっている景色は、見覚えが無く、王宮もここからでは見えない。ずいぶん遠くに来たものだ。


「よくここが分かったね、ベディ」

「ああ、坊ちゃんの紙を見つけられましたしね!」

「あ、見つけられたんだアレ」

 ダメ元だったけど、ボクが通路で香水の瓶を落として割っていたのと、便せんにも香水を振りかけていたのが良かったらしい。

 猟犬を手配して、服にも同じ匂いが付いているかもしれないと追っていたのが紙を見つけられたそうだ。


「でも少ししかなかったのに、よく追えたね」

「アルダの国境に向かったであろう予想は付いたので、ルートの選択の参考にはなりましたぜ。それに、そのルートもかなり絞れていたので……」

 ヴァルテからアルダへは、お隣の国だけあって行くルートはいくつもある。アルダが細長いお国で、その片面全てがヴァルテに面しているからね。

 そのルートが絞られるって、どういう事だろう?


「勘が良くて、人望のあるお兄様方が協力くださったんですよ」


 なんと!聞けばボクらがいなくなったと焦って探している途中に、ディートハルト兄様とエアハルト兄様に遭遇したらしい。

 そう言えば、昨日今日と温室に行っていなかったから、心配させてしまっていたのかもしれない。

 ベディは上手く誤魔化したつもりだったが、二人の兄様にはすぐにバレたらしく、ベディとローレンツが情報を集めてボクらを追おうとしていた時に、大量の目撃情報を持って来てくれたらしい。


「さ……さすが国一番の商会の孫と、コミュ強兄様……」

 二人とも、すぐに手を回して商会の情報と、エアハルト兄様は領地持ちのお友達に連絡して、関所を通っていないかの確認を取ったらしい。

 なんというシゴデキ感!

 弱冠十才にて、すでに自分が使える人脈と情報をじゅくちしてる!すごすぎないか、兄様たち!


「帰ったらお礼を言わなきゃね」

「そうですね」

 誘拐犯ふたりは捕まえたし、あとはもう帰るだけだ。

 もう外は暗くなりかけている。

 これから帰るとなると、夜になってしまう。ボクは多分大丈夫だと思うけど、ノエル兄様がいないと気付かれると、大騒ぎになっちゃうからね。

 誘拐犯二人を拘束した状態で馬車の中に放り込んで、ボクとノエル兄様はそれぞれの護衛騎士の馬で行くのが一番速いかな。

 ベディに提案すると、それが一番いいでしょうという事になり、さっそく二人の拘束をさらに強くしようとしていたら、目を覚ましてしまった。


「ノエル様! 私は本当に、ノエル様のために……!」

 カジマールが必死な様子でノエル兄様に追いすがろうとするが、ノエル兄様はもう動揺しなかった。

 クルトは肩を震わせながら、気弱そうに縮こまっている。

「私も、ノエル様のためにと思いましたが、出過ぎた真似をしてしまいました……」

「嘘だね」


 クルトの消え入りそうな声に被さる様に、ローレンツが渇いた笑いと共に、否定を口にした。

「は……? ローレンツ、あなた何を……」

「へー、うそなんだ。どのへんが?」

 戸惑うクルトよりも、ボクはローレンツがそう断言した根拠の方が気になって駆け寄った。


「こいつはね、自分の地位向上のためなら手段を問わない奴ですよ、昔から。実力もあるんで、王子付きの従者にもなれたし、筆頭従者にもなったけど、それじゃあ満足出来なかったんでしょ」

「な……そんなことは……」

「側妃の、しかも他国の血の入った王子の筆頭従者では、という事か」

 ノエル兄様の呟きに、その通りとでも言いたげにローレンツがウインクをする。こいつも不敬で罰していいんじゃないのかな。

 つまりは、主塔の正統な王子……出来れば王位継承権がもらえる王子の従者になりたかった様だ。


「それで、ノエル兄様に王宮からいなくなってもらおうとしたってこと?」


 すごい上昇志向だね。

 そこではたと、思い出した。


「なんだと、クルト貴様……っ」

「ち、違う! 私はそんな……!」

「カジマール、お前はその視野の狭い狂信っぷりを、まんまと利用されたってわけだ」

「クルトォォォォ」

 カジマールがぐるぐる巻きにされているというのに、ものすごい力で立ち上がろうともがき、ベディがそれを止めに入る。

 なるほど、そういうことか。


「それでマチェイ先生のこと覚えてないって言ったんだね!」


「は?」

「え?」

 ボクの声に、一瞬辺りがシンとなる。

 カジマールは何の話だと言わんげに眉をひそめ、ベディは何でここでマチェイ?という顔をしている。

 ノエル兄様もキョトンとしていて、ローレンツはボクの次の言葉をにやにやした顔で待っている。


 クルトだけが、顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。


「だってマチェイ先生アカデミー首席卒業だもんね! クルトと同級生ってことは、クルトを抑えて、首席卒業を勝ち取ったってことで、そりゃあ恥ずかしくて言いたくないよね!」

 マチェイ先生は、クルトは学生時代ずっと成績は一番でクラスの中心だったって言っていた。

 それが、卒業試験は一番が取れなかったのだ。マチェイ先生のせいで。


 これだけ一番になりたい人にとっては、人生の汚点、てやつだ。

 だからマチェイ先生の話が出た時、知らないふりをしたんだ。


 いや~なっとくなっとく!

 ずっと気にかかってたんだよね。いくらマチェイ先生が天性の陰キャでコミュ障でも、首席卒業したのに同級生が覚えていない事ってあるかなって。

 でも良かった。マチェイ先生だけが意識して、クルトにはスルーされてると思っていたけど、ちゃんと覚えてた、て言うか、一番記憶に刻み込まれてたよマチェイ先生!


「だ……だまれだまれだまれ!! あんなものはまぐれだ!! ずっと私が! 私が一番だった!! 昔も今もこれからもだ!! 敗戦国からの側妃の王子など、一番の私にふさわしくないだろうが……っ!!」


 激昂するクルトが叫んでいる途中で、ローレンツが剣の柄を使って意識を刈り取った。

 うーん、こういう価値観で生きている人もいるんだな。勉強になったなって思ってると、ローレンツがボクを見て笑って言った。


「自白が取れましたね。さすが、オーバリの王子です」

 

「ん?」


 何それ。

 ローレンツはボクから視線をそらし、ベディとノエル兄様に向かって声を上げた。

「とりあえず、早くこの場を離れましょう。アルダとの国境が近いので、迎えに来ているアルダ軍がいるのなら、見つかる可能性があります」

 ああ、もうここアルダへの国境近くなんだ。

 あ、じゃああの遠くに見える山が、アルダの大事な山かな。なんてのんきに見ていたら、ノエル兄様がローレンツの前に進み出てきた。



「アルダの軍が……ブノワ大叔父様が近くにいるのなら、僕はそこに行きたい」

 

 え?

 えええええ!!???


活動報告にも書きましたが、『転生第八王子の幸せ家族計画』2巻が8月12日発売です!

カバーイラストが公式アカウントで見れますので、ぜひ!

山田J太先生のキラキラ美少年が見れますよ! → https://x.com/8pri_GA/status/1938522692665176177


コミカライズ1巻も同じく8月発売予定ですので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
「マチェイ先生だけが意識して、クルトにはスルーされてると思っていた」 マチェイ先生、ごめん。私もそう思ってた。 そして、ローレンツ。以前リエトへの暴言吐いた時に、ハゲろ!なんて呪ってゴメン。 なんか…
 なるほど、ずっと一番だったから、最後にほんの少し慢心してかっさらわれた、と…m9(^д^)'`,、'`,、  マチェイ先生にいい土産話ができたな!
ノエル王子クルトのお兄様発言で決心ついたみたいですね でも、アルダ側では諦めないのでは 多分、アルダのほうでも王位継承問題があるだろうし、な ノエル王子行かないほうが絶対いいよね それにしてもロー…
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