05.転生王子、温室に居座る
ここで第二夫人のエデルミラ様と故郷のお国の説明をちょっとするね。
エデルミラ様の生まれられた国は、ヴァルテ国より南東に浮かぶ島国だ。島国のせいか、独特の文化が発展している上に、お船を作ったり操縦するのがとっても上手で、どんな荒海も越える技術で近隣諸国の海運事業を牛耳っている。
つまり、とーっても珍しくて、強くてお金持ちの国なのだ。
エデルミラ様はそこの現王の第三王女様だった。生まれた時からお父様への嫁入りが決まっていた方なんだけど、持ち前の積極性でお父様のハートもガッチリキャッチして初めての御子を産んだアグレッシブな方だ。
見た目はクールな女性なんだけどね、高貴な生まれの方特有の気品と同時に、お国柄なのかその瞳には力強さが溢れている方っていうのがボクの感想。
強い女性も良いよね!頼もしくて素敵!
で、ボクを見下ろす瞳に何の感情も載せていなくて、ガラス玉みたいになっちゃってるのがそのヴァルテ国待望の第一子にして第一王子、フィレデルス兄様。
フィレデルス兄様は、やっと生まれた第一王子なもんで、ヴァルテ国の、いやエデルミラ様の国も含めてそれはもう期待の星だった。フィレデルスって、エデルミラ様の国では『一番輝く星』って意味なんだって。
名前の通り、フィレデルス兄様は次期国王として、物心つく前から英才教育を受けた。
で、2年後第三夫人のマルガレータ様が御子を産んで、ちょっと雲行きが怪しくなった。
第二夫人のエデルミラ様の方が立場は上だけど、やっぱり他の国よりも自分の国の純血の方が王様が良いって人が結構いたんだ。自分らで他国からお嫁さん呼んどいて、勝手な話だよね。
王宮内は、他国とのハーフの第一王子vsヴァルテ国純血の第二王子で分かれたらしい。
それで、あれだよ。
純ヴァルテ産第一夫人の子である第三王子、爆誕。
しかしエデルミラ様も負けじと根性で(?)同年に第四王子を出産。
こうして、王位継承権第一位の第三王子と同年に異母兄弟の王子という図が出来た。周囲の目はもちろんこの2人の王子のどちらが優秀かって比べまくるよね。
さて問題です。
以上の事で、一番割を食ったのは誰でしょう?
答え、4才まで次期国王として英才教育を詰め込まれてたのに、第三王子が生まれた途端にその座を引きずりおろされ、両親も周囲の関心も弟に行ったフィレデルス兄様でーす!
まぁフィレデルス兄様がどう思っているのかは、フィレデルス兄様にしか分からないけどね。
ちなみに同じくどっちが王位を継ぐかって一部に持て囃されてた第二王子はそこそこグレたよ!
逆にフィレデルス兄様はね、何だろう?とっても静かな人。ボクも一言二言しか話した事が無い。
エデルミラ様譲りの異国情緒のある肌と髪は、どこか妖しい美しさがあって、とってもミステリアスな雰囲気。
あ、ちなみにフィレデルス兄様は今17歳だから来年アカデミー卒業だね。何で全寮制のアカデミーの学生が王宮内にいるかっていうと、今が長期休暇だからだね!
帰ってきていたのは知ってたけど、ほとんど接点が無いから久しぶりに見たよ。
まぁまずはご挨拶だよね。
ボクはフィレデルス兄様に見えるように、植え込みをくぐってフィルデルス兄様の足元に出た。
「フィレデルス兄様お久しぶりです」
「っ!」
フィレデルス兄様はちょっとビックリしたみたいで、目を見開いた後、再びガラス玉にしてボクを見下ろした。
「リエト……お前だったのか。誰の許可を得て入って来た?」
え!? 温室って許可がなきゃ入っちゃいけなかったの!?
植物園の入り口の兵士さん達も何も言ってなかったけど……。これが第一夫人の個人的な温室とかなら話は別だけど、ここは王族の人なら誰でも出入り自由のはずなんだけど。
「だれの許可がいりましたか?」
「私だ。私がいる時は別の場所に行け」
えー! じゃあ誰の許可でもダメじゃん!フィレデルス兄様の許可が無いなら!
え、これトンチ?トンチの話だった?『このはしわたるべからず』の『はし』は『橋』じゃなくて『端』でしょとかいう。あれ何でひらがなで書いたのかな?最初から端じゃなかったら渡って良いよってメッセージだったのかな?それなら
「そ、そもさん?」
「何を言っている」
違った!トンチ合戦の誘いじゃなかった!
「うぅ……でもフィレデルス兄様、ボクもこの温室に御用があるんです」
兄様が一人になりたいって言っても、ここは公共の場だし、ここの温室に一番毒草が多いからボクはしばらく通わなきゃ。
「温室に用?どんな」
「この王宮内にある毒草について調べるんです」
「毒草……?そんなもの調べてどうする。誰かに盛るのか」
ちがいますー!
盛られたんですー!
この様子、どうやらフィレデルス兄様はボクが毒を盛られて先週まで生死の境をさまよっていた事も知らないみたい。本殿の方々は本当にボクに興味が無いのが丸わかりだよねぇ。
「ちがいます。予防です。
フィレデルス兄様のおジャマはしませんから、温室内で調べていて良いですか?」
「いるだけで邪魔だ」
あ、そういう事言う?
「ボクが声を上げるまで、ボクの事気付かなかったじゃないですか」
それなのに、いるだけでジャマっておかしいよね~。
「………………」
黙っちゃった。
「なるべく静かにしていますから、ダメですか?」
フィレデルス兄様がいない時間に来れば良いんだけど、この感じ、この人ずっといるような気がする。他に気が休まる所が無いのかも。
でもボクもボクとベディの命が掛かってるからね!引けないよ!
それもこれもベディがおバカなせいなんだけどね!でもボクにとって今後現れないかもしれない護衛兼毒見係なので、大事にするよ。
「…………勝手にしろ」
フィレデルス兄様はそれだけ言って、またテラスに戻って行かれた。
やったー思ったよりも簡単に許してもらえた!
「ありがとうございます!」
◇◇◇◇
図鑑とメモした紙を持って温室から帰ろうとしていたら、前から廊下の真ん中を歩く集団がやって来た。
おりしも別棟への廊下はそこを通らないといけないし、何よりも集団の先頭を歩く人とバッチリ目が合っちゃってるから隠れるわけにもいかず、ボクは廊下の端に避け、礼をした。
「顔を上げろ」
声変りが始まったばかりの、まだ高さがところどころに残る少年の声に、ボクは顔を上げる。
艶やかな黒髪に、パイナップルみたいな黄色い瞳は切れ長で、キリリと整った顔立ちに加え全身から自信が溢れているその人こそ、第三王子にして王位継承権第一位である、オリヴィエーロ兄様だった。
まさかフィレデルス兄様に続いて、二人も主塔の兄様に会うとは思ってもみなかった。
オリヴィエーロ兄様は、さっきも言った通り待望の第一夫人の御子で、なおかつ同年に異母兄弟がいるので常に競い合いを強いられている大変なお立場だ。
噂に聞く限りでは、文武両道で模範的に優秀な方で、周囲からも次期国王にふさわしいとの太鼓判を押されている。と同時に、対立勢力からは面白みのない、真面目すぎると粗探しの様な意見があるが、つまり総合すると真面目な優等生だ。
それでも次期国王として、こうして血がつながっているかどうかもあやしい弟にも声をかけてくれる位には頑張ってる。
「死にかけたと聞いていたが、元気そうだな」
「はい。ご心配ありがとうございます」
ボクが死にかけていたのもちゃんと把握しているみたい。さすが次期国王確実と言われてるオリヴィエーロ兄様。
どうでも良いけど、後ろの護衛の人と兄様と同年代らしき側近の方に睨むの止めてもらって良いかな?
「こちらで見るなど珍しいな。何の用だ?」
「あ、はい。温室で植物を見てました」
「温室? あそこは……」
オリヴィエーロ兄様が何か言いかけたその時、
「あ!いたいた坊ちゃーん!!」
ウソでしょ、ボクの視界、次期国王の兄様の向こう側にうちの護衛が手を振って走ってきてるのが見えるよ。
第一王子:フィレデルス(17) 小国のお姫様の第二夫人の息子。不思議ちゃん。
第三王子:オリヴィエーロ(13) 正妃の息子。真面目。
第五王子:ディートハルト(10) 元商家の娘の側室の息子。賢い。目が死んでる。
第七王子:ノエル(7) 隣国公爵家の側室の息子。美少年でキツイ。
付いてこれてます?