44.転生王子、手紙をもらう
ある日のお昼寝後、主塔の従者がボクの部屋を訪ねて来た。
メリエルが対応しているのを、何だろって覗いていたんだけど、従者の人はすぐに出て行った。
「メリエル、何それ」
「起きておらえたのですが、リエト様」
ボクがまだお昼寝中だと思っていて呼ばなかったのか。
まぁね、子供は寝るのが仕事だからね!
寝ないと背が伸びないって言うから、ボクはしっかりお昼も夜も寝るよ!
「リエト様にお手紙です」
「お手紙?」
またエアハルト兄様からのお誘いの手紙かな。
この間もっと早く温室に来てよって言われたけど、「お昼寝があるから」って断ったし。
メリエルから差し出された封筒を受け取ろうと手を出すと……何か大きくない?
通常のお手紙よりも一回り大きくて、なおかつ厚みがある。
受け取って差出人の欄を見ると、オリヴィエーロ兄様のお名前が。
ボクは合点がいって大きな声が出た。
「あ~、オリヴィエーロ兄様、本当に書いたんだ」
お食事会の次の日、お礼を言われた後にオリヴィエーロ兄様に言われた『お願い』。
それがこれ、手紙のことだった。
「アカデミーから手紙を送るから、返事をくれないか?」
兄様は従者たちに聞こえない様に、ボクにこっそりとそう言った。
ボクとしては全然構わないし、むしろアカデミーの話とか知れるかもとオーケーしたんだけど、相手はあのオリヴィエーロ兄様が……次の王様に一番近くて、いつも周囲に人がたくさんいる、つまりとっても忙しくてボクへの手紙を良しとしないであろう人が多い中では無理なんじゃないかって半分諦めていた。
でもアカデミーに旅立って数日でこうやって手紙が届くという事は、すぐに書いて送ってくれたのだろう。
でも、何でこんなに分厚いのかの謎は解けていない。
メリエルにペーパーカッターで封を切ってもらって中を見て、それは判明した。
手紙の中に、また手紙が!
正確には封筒が4枚出てきた。
どういう事だろう?
オリヴィエーロ兄様4枚も手紙を書いたの?
まとめてじゃダメだったのかな、とよくよく見ると、全部字が違った。
「あれ?」
不思議に思ってその手紙たちを裏返すと、そこには最初の大きめの封筒に書いてあったオリヴィエーロ兄様の名前が一通。
それから、フィレデルス兄様、アルブレヒト兄様、ラウレンス兄様の名前がそれぞれ書いてある。
「え?」
これって、アカデミーに行っている兄様全員だよね?
え?なんで???
よく分かんない。とりあえずオリヴィエーロ兄様のお手紙から開けて読んでみることにした。
『リエトへ
この手紙が君に届いている時、君はとても驚いているだろうね。
君への手紙を送ると言ったら、皆が賛同してくれたので同封しました。』
そんな書き出しから始まった手紙は、アカデミーの授業のことやアカデミー校内のことが書いてあった。とても勉強になる。なるけど。
(みんなが賛同、て言うのは嘘じゃない?)
思い浮かべる他兄様たちの誰も、お手紙を進んで書きそうにない。絶対に無い。
特にアルブレヒト兄様。次点ラウレンス兄様。
「ん~~なんで?」
オリヴィエーロ兄様は、正妃の一人息子で、このまま順当にいけば王位継承権を得られるはずだ。
本人も品行方正成績優秀で何の問題もないし、血筋も良いし、政治的にもお強い陣営の方である。
ちょっとばかし周囲の従者とかも同じ様にえらいと思ってふんぞり返っている人たちが多いけど。それは政治的地位が高い陣営に入っていることってステータスだから、仕方がないと言えば仕方がない。
うちの陣営では与えてあげられないメリット?恩賞?である。
そんなオリヴィエーロ兄様が、わざわざ他の兄様たちに声をかけて、ボク宛ての手紙を書かせて送ってくるってどういう意味があるんだろ?
「兄弟みんなで仲良くしたいからじゃないんですか?」
ボクがオリヴィエーロ兄様からの手紙を持ってうんうん唸っていたら、ベディがそんな事を言ってきた。
ボクはベディを振り返って笑った。
「何言ってんのベディ。そんな訳ないじゃない!」
全くもう!ベディったらいつまでたっても王族貴族の感覚が分からないんだから~!
そんな普通のこと、この王家であり得る訳ないじゃない!
「そんな誰の得にならないこと、何でするの~」
「え。いや、兄弟協力した方が、色々出来るんじゃないんですか?」
ベディがメリエルに難しいテストを出された時みたいな顔をして、ボクとメリエルを交互に見ながら言う。
「あはは、兄弟って、何人いると思ってるの~。みんなで協力なんて無理に決まってるじゃない」
別の国まで絡んでいるし、その上ヴァルテ国内貴族の陣営同士でもギスギスしてるって、このあいだエアハルト兄様も言っていたじゃない。
「?」
ベディだけじゃなくて、メリエルからも何か変な空気を感じながらも、ボクは別の兄様の手紙を開けた。
『リエトへ
鍛錬やってるか!?
俺はまだ騎士コースが取れる学年じゃないから、鍛錬足りずでつまんねぇ。空いてる時間で護衛騎士を付き合わせてるけど、なかなかお前のところのクバラ出身のやつみたいに本気にはならないな。次帰ったら、俺もクバラ式鍛錬に混ぜろよ』
ラウレンス兄様からの手紙は、鍛錬一辺倒だった。
『リエトへ
私がいない間も植物の勉強は捗っているか?
アカデミーにも王宮ほどではないが広い庭があり、温室もある。気候が違うので、そちらには無い植物もある。必要であれば書き記しておく。
私がいない間に何か用があれば、イェレに言うがいい。それから~~~』
フィレデルス兄様からは、アカデミーの温室の話とか、ボクの体を心配するようなことが書いてある。結構長くて便せん2枚もあった、意外。
で、最後に。
『お前に言う事なんてねーよ。』
アルブレヒト兄様はこれだけである。
うん、ボクもそう思う。
むしろ予想通りでホッとしたまである。
「さて、どうしよう?」
全部の手紙を読み終わってボクが悩むのは、お返事のことだ。
オリヴィエーロ兄様は「返事をくれないか」と言っていたし、そうするとこの四通の手紙全部にそれぞれお返事を書かないといけないという事だろうか?
オリヴィエーロ兄様だけだと思っていたから、アカデミーの情報が知れてラッキーくらいにしか考えていなかった。
「うーん」
少し考えて、エアハルト兄様からもらったカードを思い出す。
ハッ、そうだ!
モテる男は、こういう時にさらっとお手紙を書ける男だ!
いずれ未来のお嫁さんとお付き合いをする、もしくはするかしないか微妙な時など、お手紙交換をする機会だってくるはずだ!その練習にもなるじゃないか!
あと単純にボクの字と文章の練習にもなる。
いいことづくめじゃないか!
ありがとうオリヴィエーロ兄様!
そうとなったら、こうしちゃいられない!
早速エアハルト兄様に教わったテクも使わなければ!
お花を刷り込んだ紙というのを入手するには、時間が掛かりそうだ。そうなると、もう一つの「香水を振りかける」だね。
もちろんボクは香水なんて持っていないけれど、持っている人が身近にいる。
「ベディ! 付いて来て!」
∑
「香水……でございますか」
「うん! 母様の香水をちょっとちょうだい!」
ボクがやって来たのは、母様のお部屋だ。
と言っても母様はお出かけ中で、ボクは母様の侍女であるマルヤを捕まえておねだりをした。
マルヤは母様が子供の時、オーバリにいた頃から仕えている侍女で、輿入れの時に一緒に王宮に来た。母様が小さい頃から大人だったから、年齢は40は越えているはずだ。
オーバリ地方らしい黄みがかった肌色でに黒い髪、少しふくよかでとても安心感のある女性だ。母様もマルヤの言う事だけは素直に聞く。
「香水なんて、坊ちゃまにはまだ早うございますよ。何にお使いになるんですか?」
「お手紙にね、シュッとひとかけするんだって。少しだけでいいから!」
分かるよ、香水って高価な物だもんね。
それを5才男児が欲しがるなんて、無駄になる未来しか見えないよね。
「まあ。ずいぶんシャレた事をなさるんですね」
マルヤは目を丸くした後に、おかしそうに体を震わせて笑った。王宮内ではあまり見ない笑い方で、ボクはけっこう好き。
ひとしきり笑った後に、マルヤは衣装部屋に入っていき、しばらくした後に手に小さな小瓶を持って戻って来た。
「こちらでしたらよろしいですが、大丈夫ですか?」
小分けに小さな瓶に移してくれた上に、ボクが「シュってする」と言ったから、瓶の上に丸い押すやつが付いているのに入れてくれている。さすがマルヤ!出来る侍女だよ!
一度、軽くぽふぽふした丸いやつを押してくれたので、その香りを嗅ぐ。
爽やかな緑の香りだ。
うん、いいね!
「テレーゼ様は子供っぽいからってあまり使われないので、バレないでしょう」
母様ったら、緑の香りはオーバリを思い出すからかな?
「ありがとうマルヤ! ボクはこの香り大好き!」
ボクがそう言うと、マルヤは嬉しそうにニッコリと笑って香水の瓶をくれた。
∑
「うん、順調順調~」
確実にモテ男の階段を上がっていってるぞ!
ボクがごきげんに廊下を歩いていると、向こう側から見覚えのある騎士が一人で歩いてくる。
ベディが警戒する様に、ボクの前に出る。
あれは確か、
「ローレンツ」
「こんにちは、リエト王子。少しだけお時間よろしいでしょうか?」
細められたボクと同じ青灰色の瞳は、近くで見ると全然笑っていないんだって気付いた。
瓶に丸いポフポフが付いているのは『バルブアトマイザー』というらしいです。




