33.転生王子、またしても絡まれる
書籍1巻発売中で、一部アニメイトさんで等身大に近いポスターも展示していただいております。
リエトと兄王子の身長差のリアルを見たい方は是非☆ → https://x.com/8pri_GA/status/1868863039321391523
フィレデルス兄様との植物のお勉強を終えて、温室を出た。この後はお昼寝タイムだ。
何と言っても、成長期だからね!
やりたい事はいっぱいあるんだけど、寝る子は育つと言うし、どんどん寝てにょきにょき伸びて、未来のお嫁さんにカッコいいって言われる様にならなきゃ!
「オイ、チビすけ」
未来の自分のかっこいい体型を想像して歩いていたら、前からまさに理想の体型の王子が現れた!
ボクを名前で呼ばない筆頭、アルブレヒト兄様である。
「アルブレヒト兄様。ボクの名前はリエトです」
「知ってるよ」
無駄だと分かっていても、一応言ってみるが、案の定軽く流された。
相変わらず不機嫌そうな顔でお供の一人も連れていない。そしてここで話しかけられるのも二度目だから、ボクとしても大体の予想はついていた。
「フィレデルス兄様なら、中にいらっしゃいましたよ」
そうやって教えてあげたら、目を吊り上げてボクの襟首を掴んで吊り上げた。ああ~。
「フィレデルスは関係ねぇだろうが。余計な事言うな」
いやいやいや、どう見てもフィレデルス兄様目的でいつもこの辺をうろついてるし、ボクに接触してきてるじゃないですか。ボクは背後でオロオロしているベディの気配を感じながら、呆れた目になっていたと思う。
う~ん、“ツンデレ”ってのはむずかしいね。
ボクの将来のお嫁さんが“ツンデレ”だったら、うまくコミュニケーション取れるかな? そこは愛の力でどうにか出来ると信じたいね。
で、ボクとの間に愛も何もないアルブレヒト兄様だけど。
「昨日のアレ、何だったんだよ」
昨日と言えば、お食事会の時の踊り子さん毒殺未遂事件。
そう言えばアルブレヒト兄様も、あの時まで部屋に残っていて踊り子さんが倒れる所も、それをボクが連れて行った所も見ている。その後にボクの秘密の粉を取ろうとして、フィレデルス兄様に注意されていたから、兄様の言う「アレは」は秘密の粉……木炭の事だろうね。
でもあれは、仕方ないからおじいちゃん先生には見せたけど、ボクにとっては大事な“保険”だから、あんまり周囲に知られたくない。
だって毒をなるべく吸収しないように木炭を持ち歩いているってバレたら、ボクを毒殺したい人にまた対策されちゃうでしょ?
いや別に、アルブレヒト兄様がボクを毒殺したがっているとは思ってはないけどさ、周囲の人とかいずれそういう考えになっても不思議じゃない。なんせ、みそっかすで、いるよりいない方が王室的にも良いと言われる王子ですから!
「ヒミツです」
「あ?」
プイっと横を向いてそう答えたら、ドスのきいたって言うの?低い声でアルブレヒト兄様が凄んでくる。名門侯爵家出の王子様なのに、なんてガラの悪さだろう。小さい子なら泣いちゃうんじゃない?
「……今も持ってんだろ、見せろ」
言うや否や、ボクの首元のスカーフをぐいと引っ張る。ぐえ。
「やーめーてーくーだーさーい!」
ボクはじたばたするも、十歳の差は埋められるはずもなく、軽くいなされた。
さすがにこれは手を出してもいいのではないかと、ベディから出る雰囲気が、戸惑いから仕事モードに移行するのを感じたが、その前に救世主が現れた。
「リエトに何してるの、兄様!」
高く鋭い声のあと、アルブレヒト兄様より金色に近い髪色をキラキラさせて、エアハルト兄様が駆け寄って来た。
そのままの勢いでアルブレヒト兄様の腰をドンと突き飛ばし、少しだけ体制を崩したアルブレヒト兄様からボクをひったくった。
「いってぇな、何すんだエアハルト」
「何すんだはこっちのセリフだよ!小さいリエトをいじめて、何してるの?」
ボクをぎゅうと抱きしめながら、いつもニコニコエアハルト兄様が珍しくおめめを吊り上げている。お二人のお母上であるマルガレータ様もよくする表情だ。こういう顔をすると、この兄弟よく似てるかも。
て言うか、エアハルト兄様いつもと感じが違うね? ボクはベディに大丈夫のサインを出しながら二人を見た。
二人が一緒にいるのを見る事自体が、ボクにはあまり機会がないのだけれど、こんな感じなんだ?
お二人は同じ母上を持つ同陣営の兄弟だから、てっきりそれなりに仲良くやってるのだとばかり。
だってあのフィレデルス兄様だって、ラウレンス兄様に対しては言葉も返すし、中良さそうだよ? …………あれはフィレデルス兄様に冷たくされてもラウレンス兄様が気にしないからかもしれない。相性ってやつだね。
となると、こっちの同母兄弟は相性が悪いのかも。
何せ、絶賛反抗期中でお友達もお供も連れないアルブレヒト兄様と、常に人に囲まれているエアハルト兄様だ。言われてみれば、合わないかもしれない。
それにしてもエアハルト兄様……基本的にニコニコキラキラしているか、たまに空虚なお顔をするのしか見た事なかったけど、アルブレヒト兄様には何だか勝ち気で年相応の少年に見える。仲は良くなくても、やっぱり身内感はあるのかも。
「そいつに用があんだよ。返せよ」
「リエトは物じゃないし、まだ小さいんだよ? 乱暴な事しないで」
「してねぇだろうが……いつからそんなにそのチビ助に構う様になってんだよ」
襟首掴んで持ち上げて、スカーフを引っ張るのはアルブレヒト兄様的には乱暴な事の内に入らないらしい。基準がむずかしいね。
「いつでもいいでしょ。リエトは僕の弟なんだから」
エアハルト兄様がそう言ってもう一度ボクをぎゅっと抱きしめる。
あれ、いつの間にか「王家の恥」から格上げ?と思ったけど、思い返してみればエアハルト兄様は最初からボクの事を「僕の弟」と言っていた。
認められなさ過ぎて、認められているのを忘れてたや。
「弟だからって……」
「兄が弟を構うのは当然の事でしょ?」
おお!?
これはもしや、エアハルト兄様からアルブレヒト兄様への牽制か、もしくはフィレデルス兄様に構われないアルブレヒト兄様への嫌味!?
もしくはダブル!?
ダブルでカウンターパンチしてるの!?
エアハルト兄様口撃力強くない!?
考えてみれば、エアハルト兄様が周囲に人がいつもいて皆から好かれているのは、よく周囲を見ているからかもしれない。
これが……コミュ力…………!!
師匠と呼ばせてほしい!
そしてこれが……コミュ力の差…………。
「わ」
言い返せなくてぐぐぐとなっているアルブレヒト兄様へ憐みの視線を向けたら、すぐに気付かれて何かを指で弾いてボクの頭に当てようとしたみたいだけど、その前にベディの大きな手に素早くキャッチされて、ますます顔をしかめた。
「くだらない事するからだよ」
そんでもってエアハルト兄様に咎めるように言われ、舌打ちをして踵を返していった。
「行っちゃった」
「放っておけばいいよ、いつまで経っても子供なんだから」
なんて言うエアハルト兄様は御年9才だから……アルブレヒト兄様の6才も下なんだよね~。
これが夢の世界で言われていた「出来の悪い兄を持つと弟は賢くなる」ってやつなのかな。
何はともあれ、アルブレヒト兄様による吊り下げからは助けてもらったので、改めてエアハルト兄様にお礼を言った。
「さっきはありがとうございました」
「え、ああ、ううん。こっちこそ、あんな兄でごめんね」
で、エアハルト兄様が何でこんなナイスタイミングで助けに来てくれたかと言うと、ボクを探してたんだって。
「この間、おしゃべりしようって言ってたでしょう?」
キラキラ笑顔でお誘いを受けたが、困ったな。
「ごめんなさい兄様。ボクこの後はお昼寝の時間って決まっているんです」
なんせまだ5才のもので、お昼寝を欠かすと夕食辺りですごく眠くなっちゃって予定が狂っちゃうしご飯もあんまり食べれなくなるのだ。
「あ~そうか、リエトはまだ5才だもんね」
申し訳なさそうに言うと、エアハルト兄様が納得した様に頷いてくれた。
さすが協調性を重んじるエアハルト兄様、理解が早い!アルブレヒト兄様なら絶対「知るか、こっちが優先だ」って言うね!
「そっか、残念だけどしょうがないね。どうせもうすぐ上の人達は、アカデミーに行くからそしたら僕とおしゃべりの時間も作ってよ」
そうだ、もうすぐ月が紫色になる頃。
アカデミーの新学期が始まる季節だ。
書籍1巻のAmazonでの特典SSでは、エアハルト視点のSSとなっていまして、そちらでチラリと書いていましたが、アルブレヒトとエアハルトの兄弟関係はこんな感じです。
奇跡的に相性が良い第二妃兄弟と、相性が悪い第三妃兄弟。
まぁアニキが長兄ばかり見て反抗期爆発させていたら、弟としては嫌でしょうね。
そしてはちプリの世界では、月の色が比喩ではなく本当に変わる世界となっております。




