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01.転生王子、家庭の殺伐さにちょっと引く

ムーンからの移動です。

 灰色の大きな四角い建物の中、灰色の壁、灰色の机、灰色の箱に向かって灰色の板を叩いている。

 男の人のほとんどは灰色の服を着ていて、女の人は青いベストとひざ丈位のスカートで皆同じ格好だ。


「あーあ、今度の日曜子供の運動会なんだよな。朝から場所取りだよ」

 隣の席でそう嘆くのは、仲の良い同僚だ。もう上の子が幼稚園とは早いものだ。

「大変だな」

「まぁビデオカメラも新調したから、前の方の席取れる様に頑張らなきゃな」

「新調したのかよ」

「これから行事がどんどん増えるから、ズーム良いやつ要るだろ」

 大変なんて言いながら楽しそうに同僚は話す。子供がかわいくて仕方ないのだろう。


「あ、そうだ。俺今度結婚するんで、結婚式の招待状送って良いですか?」

 向かいの席の後輩にそう言われ、めでたい事なのでもちろん祝うが、こう結婚式が続くと出費がかさむなと思いながらも返事をした。

 最近職場では結婚ラッシュだ。

 地元の友達はほとんど結婚していて、子供がいるのも多い。


「いいなぁ……」

 それにひきかえ俺は、年齢=彼女いない歴という事実。

 かわいいお嫁さんにかわいい子供がいる家庭を持つ同僚友人がうらやましくて仕方ない。

 女性に全く縁が無かった○○年だが、俺だって幸せな家庭を持ちたい。

 世界にはこんなに女性がいるというのに、なぜ俺は一人なのだろう。

 

 良いなぁ、幸せな家庭―――――――




◇◇◇



 目を開けると、視界には金色の刺繍の入った布があった。

 どこだ?ここは。

 ん?

 どこ?

 どこって、ボクのベッドに決まってるじゃないか。

 ボクの?

 ボク?

 俺?


 目を瞬かせて、ふかふかの大きなベッドからゆっくりと体を起こす。

 なんだか体が固まってる感じだ。

 変な夢を見てた気がする。

 灰色だらけの世界で、ボクが働いていた。

 名前は、分かんない。何て呼ばれてたっけ?

 でもあれはボクだ。毎日電車っていう乗り物に乗って、会社に行って箱……そう、パソコンだ。パソコンで仕事してた。

 家はすごく狭くて部屋が二つしかなくて、一人で住んでた。わびしい一人暮らしの俺。俺?


 う~ん、まだ頭がはっきりしない。

 夢の中のボクとの境目があいまいだ。

 とても喉が乾いてる気がしたので、ベッドの横の鈴を振った。


「リエト様! お目覚めになられたのですね」

 普段は淡々ときつい事ばかり言ってくるメイドのメリエルがノックもせずに飛びこんできた。


 そう、ボクの名前はリエト。

 リエト=ヴォルテ=ハームビュッフェン。

 このヴォルテ王国の第八王子だ。




◇◇◇



 ボクはまだ5才になったばかりだし、幸せな家庭を築くよりも子供の立場として幸せな家庭にいれば良いだけじゃん!て思ったところで思い出す。

 ボクはこの王族でいっちばん立場が低いみそっかすの末王子だって事を。


 その上メリエルが水と一緒に連れてきてくれた医者が言うには、僕は食事に毒を盛られて三日三晩寝込んでいたらしい。

 毒!毒だよ!?

 ダントツで王位継承権が一番低いボクでも、一応王子なわけで。いるよりもいない方が良いって思う人はいっぱいいて、それでこの毒殺未遂だったみたい。



 ここでボクのぼんやりとした頭を整理する意味でもボクの家族を思い出す。


 まずはボクが目を覚ましたって聞いて駆けつけてくれた母様。

 青灰色の髪をした可愛げのある容姿をしている。夢の中のボクから見ると、まだ全然若い。20代前半だったはず。


「ああリエト!良かった目が覚めて!

 あなたがいなくなったら、どうしようかと思ったわ……!」

 そう言ってボクを抱きしめてくれるけど、どうしようかってのは自分の話だ。


 まずこの王国の王様、つまりボクのお父様ね。

 第三十七代目国王のお父様には、3人の奥様と、3人の側室、そして僕含め8人の息子がいる。娘なし。何か強い遺伝子を感じる。

まぁそれは置いといて、ボクの母様はその3番目の側室。

しかもお父様が避暑地に遊びに行った先での、ワンナイトラブの相手。

つまりは予定外の側室ってわけだ。


 母様の実家はよく言えば自然がいっぱいの、まぁど田舎で一応貴族枠に入る男爵家なんだけど、そこにお父様が身分を隠して遊びに来たわけ。と言っても、王様って事を隠してるだけで貴族階級なのはバレバレのやんごとなき御方としてだけど。

 そこで母様とひと夏の恋を楽しんだ。ひと夏の恋って何だ?あ、これは夢の中のボクの記憶か。

 しかしそこは王子7人こさえた的中率。

 ドンピシャ子供が出来て、そこで登場するのが男爵であるお爺様。

 このお爺様がまた厄介な事に、昔の戦争でめちゃくちゃ活躍した人で、お城にも色々コネを持ってて発言権もあったりしちゃったんだ。

 そこで一人娘を身籠らせたんだから責任とれって大騒ぎして、母様は田舎の男爵の娘としては異例の王様の側室となった。

 もちろん王様の側室が増えるなんて一大事、良く思わない人も大勢いたし、何よりワンナイトラブの相手だもんで、周囲は本当に王の子かって疑う。てゆーか未だに疑われてる。

 夢の中の世界ならそれを証明する方法があるみたいだけど、こっちでは無理。でも王様の子じゃないって証明も無理。なんで一応ボクは王子って事になってる。


 で、お爺様のごり押しで側室入りした母様なんだけど、しょせん田舎の男爵家の娘なもんで、お城ではとても立場が弱いし、針のむしろ。

 母様はかわいい顔をしていると思うけど、言うならば学校でカワイイと評判のレベルで、ここは王城。アイドル女優級といった別次元の美人だらけなのだ。

 おまけに頼みのお父様もワンナイトラブの相手に、帰ってまで構う事はあんまりしなかった。お爺様のごり押しにも嫌気が差したみたい。

 そんな訳で、ごり押し王城入りした母様はボクがいなくなれば、とっとと城から追い出されるだろう。だからボクが大事なのだ。


 ヒュー!冷めた親子関係!


 で、ボクが起きた事に安心した母様は、誰の仕業だ許さないってブツブツ言ってる。

 ボク的には、2番目の側室のアンネ様辺りかなーって思う。


 じゃあ次に3人の奥様と3人の側室を整理してみよう。


 まずは第一夫人、正妃ツェツィーリア様。

 この方はこのヴァルテ王国の公爵家のお嬢様で、特に由緒正しき家系の方だ。

王様ともずっと前から婚約者で、小さな頃から王妃教育を受けてきた正真正銘の正当な王妃様。

ただ、残念ながら結婚してからなかなか子宝に恵まれなかったんだ。ここで話が少しややこしくなってくる。


 第二夫人のエデルミラ様は、小国のお姫様なんだけど、その国が海運がとても発達していて、その上この国では採れない産物が沢山ある、小さいけど権力とお金を沢山持ってる国のお姫様なんだ。

この人も昔から第二夫人入りする事が決まっていた。外交的な理由だね。

 で、正妃様が輿入れして2年後にやってきた姫様は、即行で世継ぎを産んじゃったのだ。つまり第一王子はエデルミラ様の子供。

 そこから更にややこしい事に、貴族内の均衡を保つために輿入れされたヴァルテ国侯爵家令嬢の第三夫人のマルガレータ様が、第二王子を産んじゃった。


 もうツェツィーリアさまのプレッシャーは半端なかったと思う。夢の中の世界でも、なかなか子供ができない女の人は嫌な思いもいっぱいしてたみたいだし。

 お父様もその辺気を使えば良いと思うけど、何よりも世継ぎが生まれる事が優先されたみたい。


 で、ツェツィーリア様の努力の結果か、遅れる事4年、何とか第三王子を出産。もちろん王位継承権は一位だ。

 だからと言って黙っている第二、第三夫人とその陣営では無い。

 エデルミラ様は同年に第四王子を出産。王城内出産ラッシュ。お父様もめちゃくちゃ元気だな……。

 熾烈な権力争いが始まるわけだが、それとは別に政治的な婚姻は続いていて、色々揉めた過去のある隣国の公爵家から一番目の側室を貰い、続いて国一番のお金持ちの商家が爵位を得て、娘を側室入りさせてきた。資金源だね。


 で、最後にワンナイトラブからの押しかけ側室入りしたのが母様。


 あ、ちなみにその商家の側室がアンネ様で、この方も即行王子を産んで、それが第五王子。

 で、マルガレータ様が第六王子を、隣国の公爵家のお嬢様、ナターリエ様が第七王子を産んだ。

 理解出来たかな?

 ボクはいまいち!だってあんまり会わないし!

 でも覚えとかなくちゃ失礼だからね、叩き込まれたんだよ。


 で、アンネ様が一番あやしいなって思うのは、王妃様から第三夫人までは身分的にもボクと母様なんて歯牙にもかけない、視界にも入らないレベルなんだよね。

 ナターリエ様も隣国とはいえ由緒正しき公爵家の方だし、隣国との同盟の証でもあるから立場はずっとずっと上だ。あとナターリエ様の息子の第七王子のノエル兄様は、天使のような可愛らしさで、お父様のお気に入りってのもある。


 でもアンネ様は最近貴族になったばかりで、位的にもお母様と同等。何だったらうちの方が歴史があるし、何よりもお爺様が王城に発言権を持ってる位の人だ。

 ちゃんと王城に迎えられた側室としてはあちらの方が王城内での立場はしっかりしてるんだけど、一番母様とボクの事が目障りだと思ってる人だ。


 しかし毒……。毒かぁ~~~。

 一応王位継承権のあるボクだけど、何と言っても本当に王家の血か疑惑もずっとあるので、王子にしてはなかなかの扱いを受けていると思う。

 母様と一緒に、王様であるお父様の部屋から一番遠い、別棟で使用人も最低限。ボク付きのメイドはさっきもいたメリエルただ一人で、護衛も無し。

 だもんで、毒見係も無しでやってきていた。普通に考えてありえないんだけどね。

 一応家庭教師は付いているけど、王族としての教育は本当に最低限だ。


「リエト! 安心なさい、お父様に言って絶対に毒見係と護衛を用意するからね!」

 母様はそう言ってバタバタと部屋から出て行った。

 ボクの容体の事は医師から聞く事も、ボクから聞く事も無かった。生きてさえいれば良いのだろう。



 うーん、この母様とお父様で幸せな家庭は無理かな!




ちょっぴりアホな転生王子(前世の記憶はぼんやり)の盛大な婚活物語です。

5才にしては難しい言葉で喋るし賢すぎるのは、前世の記憶&王族教育って事でひとつ。


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灰色の板はキーボードでしょ もしかしてデスクトップPC使ったことない世代……?ウッ頭が……! しかし爺様も余計なことしてくれましたね。 いや寧ろ認知されてないけど王族の血を引いてたらマズいから念の為…
[気になる点] 「灰色の大きな四角い建物の中、灰色の壁、灰色の机、灰色の箱に向かって灰色の板を叩いている」 灰色の板でできた箱を叩いていると言うことかな?
[一言] 連載再開待ってました!!! 何度も読み返していますが、最新話に向けてもまた読み返します! お兄さんたちも大好きですが、仲良し主従3人がめちゃくちゃ好きで癒されます。
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