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「シャルロッテ様」


 校舎内で呼び止められて振り返ると、カイルが立っていた。


「カイルさん」


「良かった。間に合って。――これ、貸してくれたノート」

 

「ああ。明日でも良かったのに。わざわざ追いかけてきてくれたのね、ありがとう」


「お礼を言うのは、こっちだよ。大分、助かった」


 あれから度々カイルとはノートのやり取りをしていた。一度では写しきれないので、授業があるたびに返しにきてくれていたのだ。

 用は終わったはずなのに、その場を去らないカイルに内心首を捻っていると、カイルが口を開いた。


「シャルロッテ様にはこんなにお世話になってるのに、俺、何にもできなくてごめん」


「え?」


「実はあれから、何度もリリアナのとこ行って、もうこんなことやめろって言ってるんですけど……」


 それは知らなかった。 

 最近は少し諦めの境地にいる。 

 このまま物語に沿って身を任せたほうが楽ではないかと。


「全然聞く耳持たなくてさ」


 辛そうに顔を歪めるカイルに、こちらを思い遣ってくれる気持ちが伝わってくる。

 その想いに胸が温かくなる。


「ありがとう。その気持ちだけで充分よ」


「――あの、俺だけはわかってますから。シャルロッテ様が悪人じゃないってことを。俺の言葉じゃ、大した慰めにならないかもしれませんが」


 真剣な眼差しが、前世で幾度も見て焦がれた眼差しに重なる。 

 彼のひとつひとつの、どの表情も大好きだった。

 あなたは前世でも、こちらの世界でも変わらないのね。

 ――あなたはやっぱり私の大好きなひと。 


「ううん、嬉しい。ありがとう」


 にっこりと微笑むと、彼の顔が赤く染まった。

 窓からちょうど西日が差し込んでいるからかもしれない。


「あの、俺、正直、魔力持ちでも、この学園に入学するの嫌だったんです。あいつと関わりたくなかったから。でも、今はそんなに悪くないかなって思ってます。――あなたと会えたから」


「え?」


 驚いて顔をあげる。

 一瞬、聞き間違いかと思う。けど、尋ねることはできなかった。

 カイルが慌てて次の言葉を発したから。

 顔をやっぱり夕日色に染めて。


「俺で良かったら、いつでも愚痴聞きますよ」


 鼓動がどくどくと煩い。

 聞き間違いかもしれないのに、私の心臓は言うことを聞いてくれない。

 馬鹿ね。空耳に決まってるじゃない。

 そう思うのに、心がふわふわと踊りだす。

 私の顔も今は夕日に染まっていることだろう。

 できるなら、そうカイルが勘違いしてくれるといいなと思って。

 

「とにかく、これからも、リリアナに気をつけてくださいね。あいつ、執念深いとこあるから」


 カイルが照れ隠しなのか、話を切り替えた。

 私も頷こうとしたけれど、次のカイルの台詞で固まった。


「リリアナのやつ『あんたは引っ込んでて。モブのくせに』て、よくわかんないこと言うんですよね。本当、わかんないですよ、あいつの考えてることは」


「え?」


 『モブ』。

 何故その単語をリリアナさんが知っているのだろう。

 前世の世界にいなければ、ここでは意味もわからない単語。

 ――もしかして、リリアナさんも転生者なの?

 初めてその考えに至った。


「シャルロッテ様? どうかしました?」


 固まってしまった私をカイルが覗き込む。


「ううん、なんでもないわ」


 急いで首を振る。

 けれど先程の考えは振り払われてくれなかった。

 重い石のように自分の心にのしかかる。

 でも、気付いた時はすでに遅く、私は断罪の日を迎えたのだった。





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