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 私が前世でプレイしていたゲームは、孤児院出身であるヒロインがその逆境にもめげず、優れた容姿と才能をもつ地位のある男性たちと恋を育みながら、才能を花開かせ幸せを掴んでいくという内容のものだった。

 そんなシンデレラストーリーに惹かれたのがプレイしたきっかけだった。

 サポートキャラであるカイルは、攻略対象者である男性の情報をヒロインに教えたり、他にもこまごまとヒロインを手助けしてくれるキャラクターだった。

 初めて画面上で見たとき、「サポートキャラまでイケメンなんて流石乙女ゲームね」なんて思って、最初はそれくらいしか興味がなかった。

 けれど、ゲームに慣れず男性キャラの誰とも恋仲になれなかった一周回目、本来なら攻略対象者の男性が告白しに来てくれる卒業式の日に、カイルが代りにやってきたのだ。

 半分本気で、けれどあとの半分は冗談交じりにヒロインの心を軽くしようと慰めるカイル。

『俺もあと二、三年したらお前が頼れるくらい格好良くなるから……だからその時は……』と最後の台詞と共に顔を赤らめるカイル。

 その時に初めて、ヒロインに恋心を寄せていることに気付いた。 

 きっと誰も落とせなかったプレイヤーに対する制作陣からの計らいとかフォローのつもりだったのだろう。

 それからはカイルの言動を注意深く見るようになって、ヒロインを想う気持ちが何度も伝わってきた。

 ヒロインが悩んでいたら大袈裟な程応援して、落ち込んでいたら必死に慰めて、そしてたまに、話を蒸し返してはからかうカイル。

 男らしい目鼻立ちがヒロイン相手にころころ変わる。 

 癖っ毛のある明るい髪に、表情豊かな明るい目。

 じっと見ているうちに、そんな外見も好きになっていった。

 ヒロインと幼い頃から一緒にいる気安さから接してくる彼の飾らない性格にも好感が持てた。

 もう何人も攻略し終えていた私はカイルのことが気になってしょうがなかった。

 なんで彼は攻略対象者じゃないんだろう。

 彼が攻略対象者だったら、ヒロインと結ばせて幸せにしてあげるのに。

 気付けば、誰のことも攻略せず、卒業式を迎えるパターンが増えていた。

 数年後のヒロインとカイルが仲睦まじく幸せに暮らしている姿を想像するのが好きだった。

 正直、攻略対象者である男性たちは完璧過ぎて、私は好きになれなかったのだ。

 いや、正確には、すでにカイルに恋に落ちていたから目に入らなかったのだろう。

 友達以上なのに恋人にはなれない。

 ヒロインに恋のアドバイスをする彼は、その時、どんなふうに思っていたんだろう。

 そんなふうに彼に対する思いが強かったから、カイルの姿を見た瞬間、私は全てを思い出したのだろう。


 


『全て』といっても、思い出すのはゲームのことばかりで、それ以外の前世の記憶は薄ぼんやりに近かった。

 自分がどんな人間だったのか、生活様式はどんな風だったのかまでは詳しくは思い出せなかった。

 でも、それで良かったと思う。

 今更前世の記憶を取り戻したところで、自分の中に二人の自分がいるみたいで混乱してしまうだろうから。

 おかげで、入学以降、特に自分が変わることもなく、落ち着いて暮らしている。

 けれど気がかりなことがひとつ。

 殿下とリリアナさんのことだ。

 あれから二人はさらに仲良くなったようで、今はひと目も憚らず、しょっちゅう一緒にいる。教室を移動する時やお昼のときは私も一緒に行動していたけれど、二人だけで会話を楽しみ、私が入る隙はない。 

 最近では先に行ってしまうことが多くなった。

 婚約者でも恋人でもない二人が――ましてや殿下には私という婚約者がいるのだ――生徒たちの噂にのぼり始めた頃、流石に放置できず殿下に話をしにいった。

 本当は女性同士リリアナさんのほうが話しやすくて良かったのだが、入学式の日のように誤解をして泣かれたら嫌だと思ったため、やめた。それこそ、ゲームのようにヒロインを虐める悪役令嬢の図ができてしまう。虐めるつもりはないけれど、どこでどう間違って解釈されるかわからない。

 ゲームでは虐めた末、シャルロッテは身分剥奪の上、国外追放だった。

 そんな未来は絶対に回避しなければならない。

 待ち合わせをした中庭に、決意を固めて話に行けば――


「煩いな。学園の中まで、婚約者の権利を振りかざさないでくれっ」


 私はあまりの言葉に一瞬呆然とした。

 私がいつそんなことをしたと言うの?

 してきたことと言えば、殿下の側で常に邪魔にならないよう控えてきたことと、助けが必要な時は非礼に当たらない程度に口添えをしてきたことくらいだ。


「君は『学問の前では、皆等しく平等なり』という学園の言葉を知らないのか。私がティアニー嬢と親しくするのは、皆に平民も私たちと変わらない同じ生徒だと示すためだ」

 

 殿下が怒ったように、鋭い目線をあげる。


「その言葉は君に対しても言える。婚約者だからといって、君を特別扱いはしない。だから、君の言葉を聞き入れるつもりはない。そのように心得てくれ」 

 

「……かしこまりました」


 殿下の高邁な考えに至らなかった浅はかな自分を恥じ入る。


「わかったなら、もう行く」 


 殿下が足音荒く、中庭を去っていく。

 私ははあと溜め息を吐いた。

『学問の前では、皆等しく平等なり』という学園の理念は知っていた。

 貴族の生徒が多いなかで、数少ない平民の生徒。彼らはつい最近まで平民の暮らしをしていた。そんな彼らに急に貴族のルールに従えと言っても無理があるだろう。

 この理念はもしかしたらそんな彼らのために作られたのかもしれない。

 それなら間違っているのは、貴族の常識を押し付けようとする私の方。

 そう思ってからは、殿下に口を出すのをやめた。








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