99.死の掌
「ぬあーーーーー」
「アラブゥーーー!!」
壁の中へ吸い込まれいくアラブライへ一応声をかけておく。なんだかんだ言っても幽霊だからアレくらいじゃ死なないだろう?…多分
「ぎぃぃぃっ」
「さあて、どうしたもんかね、これ」
じりじりと迫るデカイ掌を目の前に、逡巡する凶夜
…体当たり、駄目だ死んでしまう。
…蹴りかかるか?いや…ぜったいビターンって潰されるだろ…これも却下…スロットは
「スロットォ!」
駄目元でスロットマシンを召喚するが
「だよなぁ」
相変わらずコインは0枚のまま
これ、詰んだのでは?
漫画やゲームの主人公ならここでパァーっと何かが光ったりして、何かに目覚めたりなんやかんやで敵を倒せるんだろーが、生憎俺はそんなレベルのチート持ちでは無い。そりゃあスロットでちょーっとばっかし特殊なスキルとか使えちゃったりするけど、コインがなけりゃなーんも出来ない唯の一般人だし。いや一般人より弱いかもしれん…
掌はゆっくりと凶夜に近づくとその真っ赤な目を開いた。
(うげっ…こいつ指先に目がついてるのかそれも5つもきめぇ、殺るなら早く殺れぇ!)
って………5つの目?
凶夜の脳裏にある考えが過ぎるー
(おいおいおい!待てよ…マジか!?いけるかもしれん!)
「クラリィィィ!クラリさぁぁぁん!!おらぁ!クラリぃ!!!」
ドンドンドン
クラリが入っているトイレのドアをなりふり構わず叩く、叩くそして叩き倒す
「なぁっ、なんですか!ちょっと待ってください!」
「待ちませんんー!こちとら命がかかっとんじゃ!いつまでトイレに入っているつもりだこの魔眼マニアの中二病がぁぁぁ!」
「い、言いましたね!?そ、そ、それだけは…言ってはなら無い事をーーーー」
バンッと、トイレのドアが開き、中から仁王立ちをしたクラリが現れる
「フフフ、フハハハハ、フゥーッハッハハ!、このクラリオット・ノワールを怒らせましたね、凶夜さん!覚悟はいい……はへっ?」
「よっしゃぁぁ!後は頼むぜぇっ!」
仁王立ちのクラリを乱暴に抱え、そのまま掌の前へ押し出す
「何するんですか!セクハラですかぁ!あぁ!?な、なななんですかコイツはっ!?」
「だぁぁ、めんどくせぇ!後で説明してやるから早くお得意の魔眼でどーにかしてくれ!どーにかしてください!!」
「うぐぐ…良いように使われているようで納得が行きませんが…」
「ポーズを決めつつ言っても説得力が無いぞ」
「う、うるさい!このポーズは魔眼を使う上で必要なものなんですよ!」
そんなん聞いた事も無い、というか前回とポーズが違う様な気もする。しかし、ここはクラリに任せるしかない。なんせ、今の俺は無力だし…はぁ、何がかなしゅーてクラリに頼らねばならんのだ
「今失礼な事を考えましたね!?」
「そんなことは無いぞ?さぁ早くちゃちゃちゃっとやっちまってくれ!」
掌はこちらを伺っているのか、空中で動きを止めたままだ。とりあえず吹っ飛ばされたオッサンの事も気にはなるが、このチャンスを活かさない手は無い、手だけに
「まぁ、いいでしょう!見せてあげますよ、魔眼の力を!…ふむふむ、コイツは火に弱い様ですね。では…」
クラリは相手のステータスから弱点を割り出し、詠唱に入る。クラリさん素敵!っと相槌を打ちながら敵を伺う。
「それにしてもうんともすんとも動かねーな?死んでるんじゃねーか…ん?」
何か…指じゃない…掌の中心が淡く光っている様な……これって…
そして唐突に思い出す。
(こいつ…デッドハンドじゃねーか!)
デッドハンドは俺が昔やっていたゲームにいたボスモンスターの一体だ。
(不味い!何で今まで気がつかなかったんだ?これまでだってゲームと似たような事はあったつーのに!)
この世界に馴染んで居たのか、今の今までまったく気がつかなかった事が悔やまれる。こいつ自体はそんなに強くは無かったから印象に残ってなかったのだろうか?確かにデッドハンドは割と序盤のボスだし…ゲーム後半で合体して巨人になった時は苦戦したけど。いや、今はそんな事は問題じゃない。
(コイツが最も厄介なのは…っ)
デッドハンド…つまり死の手。その名の通り´即死攻撃´を持っているのだ。即死攻撃なんて復活アイテムが幾らでもあるゲームでは大して障害にならない。だが…この世界はゲームでは無い。少なくとも俺はそう認識している。
(この光はビームの前動作だっ、くそ間に合うか?)
「スロット!スロット!スロット!」
「凶夜さん!?急に何を!?」
「うるせぇ、お前は今すぐに後ろに下がれぇぇぇ!」