98.時間稼ぎ
「……………ぎぎ……ぎ」
目の前には大きな掌が出口であろう通路へ立ちふさがって呻き声を上げている。
そもそも、その掌が出口の鍵らしきものを指にプラプラとぶら下げているのだから、戦わなければならないのは自明の理なのだが
「なぁ?おっさん」
「なんだ、あんちゃん」
「何か攻撃方法とかあるのか?」
「…ねぇな」
「…」
一応戦闘のポーズをとって、威嚇してみるものの俺はスロットが使えない状態、しかも頼れる相方はさっき会ったばっかりの素性も怪しい幽霊と来たもんだ。勝機がまったく見えない。
「ぎぎぎぎ……」
掌が呻き声なのか謎の異音を発している中、おっさんの名前を思い出し打開策を編み出すべく話しかける
「なぁ…聞いてくれよ、アラブ」
「アラブって…まぁいい、なんだ?何か作戦でもあるのか?とりあえず言ってみろ」
「俺も特に攻撃方法とか無いんだよね…」
「…………今あえて言う必要あったか?」
沈黙…
そうしている間にも掌が徐々にこちらへと間合いを詰めて来ている…気がする
「あの!居ますか!?いるんですかぁ!きょーやさぁーーーん!」
クラリがトイレから問いかけてくるがとりあえず無視する
「ぎぎぎ?」
一向に攻撃してこないこちらに疑問を抱いたのか、掌が不思議そうに指を蠢かしている。いい加減このまま時間を稼ぐのも限界だろう
「一か八か…か」
「ん?アラブ?」
アラブライが声を潜める
「…俺がアイツに憑依を試してみる…そうすればあんちゃんが鍵を盗って扉まで行くくらいは出来るだろ」
「そ、そんな事が出来るのか!?」
マジかよ、アラブ。そんな能力があったなんて…悪霊じゃなくて本当に良かった。もしアラブがその気になったら余裕で全滅していたな…
「ぎぎぎぎぃぃぃぃい」
痺れを切らした掌が拳となり俺に襲い掛かる。
「うおぉぉぉ、よりにもよって俺かぁぁぁ!?」
あんなのを食らったらぺっしゃんこになって死んでしまう
「どうやら考えている時間は無いようだな!」
拳が俺に迫るのとほぼ同時に、アラブことアラブライは拳へと突撃した
「アラブーーーー!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ぼいーん
「へっ?」
「う、うぉぉぉぉぉ!?」
そしてそのまま、拳に跳ね飛ばされて壁の中へと消えていった
「嘘だろぉぉぉぉぉ!?アラブかぁぁむばぁぁぁっく!」