97.てーのひらを!太陽に!
「これ一体いつまで歩けばいいんだ?」
あれから俺達は延々と廊下を歩き続けていた
「いやぁ…こんな長い廊下じゃなかったはずなんだが」
この廃墟に詳しいアラブライもしきりに首を傾げている。本当に頼りになるのかコイツは。
「きょーやさぁーん…」
「なんだよ…見ての通りお先は真っ暗だ。いつゴールに着くかも分からんぞ?そもそもゴールがあるかも分からんし」
初めのうちはこの雰囲気に萎縮し、怯えていたクラリも流石に慣れてきたのか気の抜けた声を上げ始めている。まったく遠足じゃないんだぞ。
「もぅ分かってますよ…それよりも」
もじもじと内股でクラリが訴えかける…が
「そこらへんでしろ」
「鬼ですかぁ!よりにもよって乙女に向かって…!!」
口調は強気だが、限界が来ているのだろう、声が掠れている
「なぁ?クラリここは化け物屋敷だよな?」
「はい?」
何を今更というクラリのジト目を無視して続ける
「化け物屋敷に…トイレがあると思うか?」
「いやその理屈は可笑しい。仮にも人が住むことを前提にした居住なんですよ!?あるに決まっているじゃないですかぁ!?」
はぁ…ひっじょーに面倒だが、魔眼なんて物騒なモンを持ってるからなぁ。さっきみたいに見境なく発動なんてされたらたまったもんじゃないし…俺は大人だから譲歩してやるか。まったく何処のどいつだコイツに魔眼なんて持たせた奴は…頭が弱い奴が核爆弾持つ様なもんだぞ
「なんか失礼な事を考えてませんか?」
「いや、別に」
「いいでしょう。受けて立ちますよ」
「だから、考えてねーって!なんなの?なぁ、俺に絡まないと死んじゃうの?アラブライここら辺にトイレはあるのか?」
俺とクラリのやり取りを静観していたアラブライへ話しを振る。どうでもいいから助けて欲しい
「ああ、あるぞ。ていうか嬢ちゃんの横の扉がそうだな」
バタンッ。アラブライの言葉を聞くとほぼ同時にクラリがその部屋へ勢いよく飛び込み扉を閉めた
「絶対、そこに居てくださいよ!」
部屋の中から訴えかけるクラリ
「ああ、早くしろよ」
一瞬、クラリの入った扉へ視線を移した後
「あんちゃん、ちょっと不味い事になったかもしれん」
アラブライの見ている廊下へと視線を戻す
「…こいつは」
凶夜とアラブライの行く手を阻む様に、黒い大きな掌がこちらを向いて浮かんでいる
(まったく気がつかなかった、一体いつの間に…)
「悪魔の豪腕だ…」
「魔物の名前か?」
記憶が正しければこいつは俺達を廃墟に引きずり込んだ張本人のはずだ
「ああ、コイツを見て思い出した。俺が幽霊になった原因だ。」
アラブライは出会ってから初めて見せる苦々しい表情で続ける
「掌から見て、こいつは右腕だな、頭と左腕がいないのが幸いか。昔、俺が冒険者だった頃に俺のパーティはこいつに挑んで全滅したんだ」
「…それはこの状況は非常に不味いのでは…?」
唐突なシリアス展開に思わず頭が付いて行かない、え?今どういう状況???
「いや、本当にヤバイのは頭だ。腕だけならやり様はある。それに…」
アラブライが掌の人差し指辺りへ目線を動かす。そこには意味ありげに銀色の鍵が輝いていた
「…この廃墟から出たければこいつをどうにかしないと駄目だろう」
アラブライがニヤリと笑う
「やるしかねーってのか…」
それに答え、覚悟を決め俺もニヤリと…
「凶夜さん、一大事です!…紙が!紙がありません!」
そこへ、トイレからクラリの声が廊下へと響き渡った
「………やるしかねーってのか…」
何事も無かったかのように続けようと…
「凶夜さん!?聞いてますか?出来れば何か拭けるものを頂きたいのですが…」
「うるせぇ!人がせっかくシリアスしようとしてるんだから、ちょっと黙ってくれよ、お願いだから!」