96.人形とホッケーマスク
「お…ちおちおちおちつけ…!!ぶらぼばぁあ」
アラブライが震えながらも、渾身の力でその人形を払いのける、続けて凶夜とクラリの人形もバシンバシンと叩き倒した
「アラブライ!」
「アラブライさん!」
「こ、ここは駄目だ!逃げるぞ!」
そう言うと、アラブライは一目散に扉の方へと駆けた。と言っても足は無いのだが
「へ?人形なら今、ぶっ飛ばしてくれたじゃないですか?」
「何言ってやがる、あんなモンじゃあいつらは倒せねぇんだ!」
ガタンッ!ガタタタタタタッ
直後、倒した筈の人形の位置から嫌な音が…
「ひぃっ、きょ、きょうやさん!」
「うおおぉぉっ」「ああ、先に行くなんてずるいっ!」
凶夜とクラリは背後からの嫌な音を聞きながら、アラブライの向かう扉へと咄嗟に駆ける。そして慌ててドアを閉め、廊下の嫌な空気に浸りながらも背でドアを押さえた
一瞬、ドアに何かが激しくぶつかる音がして、背中にドンドンといった振動が走った
「ひゃぁぁぁ、凶夜さん!絶対に抑えててくださいよ!絶対ですよ!」
「あぁ…それは良いんだが…おい、どーすんだよ…アレ」
ちなみに人形の事では無い。今さっき勢いよく部屋から飛び出したところで、廊下の恐らく出口へと続く方向であろう先から、筋骨隆々で白いホッケーマスクらしきものを被った某映画の殺人鬼よろしくな感じのアレが鉈を引き摺りながらこちらにゆっくりと向かってきていた
「あはは、アレに魔眼って効きますかね…?」
尋常じゃない恐怖で涙を堪えられないのか、涙目のクラリが言った
「うん、お前を信じてる、信じてるからちょっと突っ込んでみてくれ、頼むよ一生のお願い」
「…ッ、嘘ですっ!それは嘘つきの目です!凶夜さんは嘘をついています!」
「ちっ」
「今、「ちっ」って言いましたよ!この男!」
「…アレは悪霊っていうか殺人鬼みたいな感じだから、俺的にはまだマシな方だけど…」
(背中に人形、前方には殺人鬼か、笑えねぇ!)
ドンッ、ドンッ
「ひぃぃぃっ、凶夜さん!人形がっ、人形がぁっ」
「うるせぇっ!それよりも目の前の殺人鬼だろ!どーすんだアレ!」
「あれって、殺人鬼なんですかぁ!?」
駄目だ、人形もそうだがジワジワと迫るジェイソ○モドキの方が絶対にヤバイ
(流石に、あんな小さな人形に殺されるって事は無いだろうけど、こっちはどうみても殺戮余裕!大好物です!って面構えだもんな…)
突如、俺の服を掴んで涙目で震えていたクラリがふらりと立ち上がり、ジェイソ○モドキに向かって、ぶつぶつと何かを唱え始める
「爆発…爆発の魔眼…コマンド、内容…周囲を吹き飛ばす…えへへ…」
「おい、やめろ!お前俺達をどうするつもりだぁ!?」
恐怖のあまりプッツンして、今にも周囲を巻き込まんとする何かを発動しようとしたクラリの目を抑え、そのまま床に引き摺り倒すと……力の限り頭を打ったたいた
「ああっ、何も見えない!?痛いっ!?何するんですか!」
「うるせぇ!なにしよーとしてくれとるんじゃぁぼけぇ!」
「ん?」
一瞬の違和感を覚え、周囲を警戒する。何故かドアを叩いていた音は消え、眼前に迫っていたジェイソ○モドキも姿を消していたーーー
「おかしいな、アイツは幽霊には見えなかったが…煙の様に消えちまったぞ?」
アラブライがくるくると辺りを飛び回り、俺達にとっての脅威が去った事を報告する。それにしても人形といい、ジェイソ○モドキといい、どうしてこうどっかで見た事があるようなもんばっかり出てくるのだろうか…
「凶夜さん…いい加減、目を離して欲しいのですが…何かが飛び出してしまいそうです」
「あ、ああ…別にお前の何が飛び出しても俺は一向にかまわんが、ほれ」
「…ありがとうございます…あれ?」
「さっきのならもういないぞ」
キョロキョロと辺りを見回して、無い胸を撫で下ろす、そりゃ人形が暗闇で追いかけてきたり、得体の知れない化け物が迫ってくるんだ、恐ろしい極まりない
「とりあえず、先に進むか…どっちにしろ脱出しない事にはこの悪夢は終わりそうにないしな」
辺りをある程度それを聞いたクラリはアラブライと俺を交互に見るとコクコクと頷いた。