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95.ホッケーマスクの憎い奴

 だだだだだだだだっ


「何か騒がしいな?」


 何やらドアの向こう、廊下の方で大きな音がした


「誰か走っているみたいですね」


「ああ、それも全力だな」


 アラブライは、じゃあちょっくら見てくるかと言うと、ふよふよと浮かび上がり、そのままドアをすり抜けて廊下へ出ていった


(はぁ…ガチの幽霊っていたんですねぇ)


 いや、まぁ分かってはいた、いたが…今まで見た事が無かったので実感が無かったのだ。こうして目の前で浮遊してドアをすり抜けられると信じない訳にはいかない…まぁ、疑っていた訳でもないのだが


「便利そうですね」


「そうでもないぞ?」


「ひゃあっ、どどどこから出て来るんですか!」


「そんな事言ってもなぁ、よっと」


 アラブライはベットからひょっこりと出した頭を一度引っ込めると、勢いよくベットから飛び出し、そのまま空中でくるりと一回転した


「こうやって身軽になったはいいが、物には基本触れないし、気がついてくれる奴もいない…退屈なもんだよ、まぁ嬢ちゃんは別みたいだがな」


「はぁ、でもびっくりさせるような登場はやめてくださいよぅ」


「ははっ、悪いな、それよりも…だ」


 アラブライは顎に手を当てて、ちょっと考えるように首を傾げる、予想外の出来事に面食らっている様にも見える、彼の風貌は歴戦の戦士の様なのでそれがかえって不気味に思えてしまう。杞憂だとは思うが


「廊下の音の件だが、どうやら嬢ちゃん以外に人がいるっぽいんだ、いや…こんな事はここ数年でも初めてでな、俺もちょっとビックリしている」


(凶夜さんですね…きっと)


「それなら大丈夫ですよ!きっと私の仲間です!」


「おお、そうか!それなら納得だ。って事はアイツも嬢ちゃんを探しているって事か、さっき呼び止めて置けばよかったな」


「いえ、それで彼はどちらに?」


「ああ、扉を出て、左の方だな。途中で他の部屋に入ったりしなければ通路沿いに行けば合流出来るだろ、繰り返しになるが悪霊の類がいるかもしれないから俺も一緒に行く事になるがな」


 幽霊とはいえ、有名な冒険者だったというアラブライが一緒に来てくれれば心強い。それに1人でうろついても碌な事にならなそうだし、そもそも自分をここへ引きずり込んだ手の魔物の事も気になる。ここは親切に甘えよう


「ええ、助かります!それじゃ早速、行きましょう!」


「ああ、それにしてもアイツは彼氏か何かか?俺も色んな奴を見てきたが唯の仲間としたってアレはどうかと思うぞ」


「か、かか彼氏なんかじゃないですよ!って…そこまで言わなくても」


 はて?自分の知っている凶夜は初対面の人間にそこまで言われる程には酷い格好をしていなかった様な、寧ろ地味目な青年だった気が…中身は最悪と言っても差し支えないけども


「いやぁ、だってな…筋骨粒々でタンクトップで武器が鉈だぞ?おまけに白いお面で顔を隠してたし、そういえば所々赤い模様が付いていたような…」


「……それ誰ですか!?」





 ばーーーーんっ!





 クラリの叫び声とほぼ同時に、部屋のドアが荒々しく開かれた


「「ぎゃああぁぁぁぁ!」」


 クラリの絶叫…だけかと思いきや意外な事に、そこにはアラブライのものも含まれていた


「あっ!クラリじゃねーか!探したんだぞ」


「へっ…きょ、きょーやさん?」


 顔を見合わせる2人、そして沈黙


「「………」」


「どーした?黙りこくって」


 アラブライが思わず声をかけるが


「「怖かったよおおおおおーーー!!」」


 凶夜とクラリは抱き合い、鼻水と涙をまき散らしながらお構いなしに叫ぶのだった


 ・


 ・


 ・


「で、だ。このふよってるオッサンが有名な冒険者だったってのは理解した…」


「ふよってるって何だ」


「はい。ここからの脱出を手伝って貰おうと思いまして」


「おい、スルーするなよ泣くぞ?」


 アラブライが俺とクラリの会話に合いの手を入れてくるが、無視する。とりあえず今はクラリから話を聞くのが先だ


「この廃墟はどう考えてもまともな場所じゃないですよ」


 真剣な目で、ごくりと喉を鳴らすクラリ。そりゃ幽霊の手を借りて幽霊廃墟?から脱出するなんて、ここに来るまで夢にも思わなかったからな


「まぁ、それはいいんだが、こいつは信用出来るのか?いくら昔は冒険者だったって言っても、今は人間じゃないんだぞ、いきなり後ろから襲われる可能性だってあるだろ?」


「おい、お前らなぁ…本人を目の前にしてよくそこまでずけずけとモノが言えるな…俺を信じられないってのは分からなくもないが…そもそもここに来るまでに色々見てきたんだろ?」


 アラブライがくいっと顎で廊下を指す。確かに、キリングマシーン的な人形とか、先が見えない廊下とか…思い出すだけでも眩暈がするな…


「おーけー、確かにあそこを俺達だけで突破出来るとは思えないし、ここはオッサンに任せるよ」


 両手を挙げて降参のポーズをとる、お、ちょっと映画っぽいな…こういうの憧れてたんだよな…ん?


カタン、と


 ふいに部屋の隅から小さくは無い音がする


 凶夜は恐る恐る視線だけを部屋の隅へと向けた、そこには凶夜がこの部屋に来るまでに遭遇したものにそっくりな、但しサイズは10分の1ほどの西洋人形が置かれていた、ゆっくりとクラリとアラブライへ視線を戻す。どうやら2人も気がついた様子で視線が合う


「おい…クラリ、あんな物置いてあったか?」


「さぁ、興味ないので…よく見てなかったですね、でもあったんじゃないんですか…現に今も置いてありますし…」


 そりゃ確かに今はある、重要なのはクラリがこの部屋に入った時点で置いてあったかだ、少なくとも俺が部屋に入った時には無かった様に思える。単純に気がつかなかったって線もあるが


「アラブライはどう思…」


 そう言い掛けた、その時


 ーカタンッ


 ばっ、とその場の3人が人形へ視線を移す


 ーカタカタカタカタ


 3人はそれぞれの顔を覗き込みながらカタカタと震える人形と目が合った、いつの間に移動したんだとか。なんで3体に増えているんだとか。最早些細なこと


「「「うおぁあああああああああうああああああああ!!」」」


 さも当然かの様に、その絶叫にはアラブライのものも含まれていた


 何だこのオッサン…実はまったく頼りにならないんじゃないだろうな…

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