94.全力ダッシュで
「ひぃぃやぁあああああ」
ドガァッ
目の前に迫った人形の頬?を全力で殴打する、材質が何かは分からないがそれほど硬いモノでも無いのか、すんなりと殴り飛ばす事に成功した
「ごごごごっごっごっごごおぉぉぉぉ」
人形は半回転しながら、地面に叩き付けられる。ギギギギ、と不自然に曲がった体を他所に、首だけをこちらへと向ける
「お、お、お、おおお前は一体なんなんだよっ!」
気が動転し、思わず人形へ向かって話しかけてしまった
「ご」
「ご?」
(もしかして言葉が分かったりするのか?)
「ご、ろ、ずぅ…」
「ああああああああああああああ」
これは駄目だ、駄目なやつだ、会話なんて成立しない
(いや始めっから分かってたけどね!「ご」から始まった時点で予想してたけど!)
しかし、敵?は今動く事が出来ない、これは千載一遇のチャンスかもしれない。このまま部屋に閉じこもっていてもしょうがない
(頼む、頼む頼む頼む頼むから、これ以上、何も起こらないでくれよっ)
ダッ、と人形の横を駆け抜け、遥か彼方とも思える廊下を直走る。全力で走りながら後ろを伺うが、人形が追ってくる気配は無かった。
「いぃよっしゃあああああ、抜けたぁぁぁ!化け物め、ざまーみろぉぉぉぉ!」
廊下の先は薄暗くてよくは見えないが、各所に同じような部屋へのドアがある所を見ると、ここが屋敷の中というのは間違いない様だ。という事はどこかに外へ出る扉があるはず
(まぁ、屋敷っぽいダンジョンとかに飛ばされたって線もあるけど、ここの内装は俺らが入ろうとしていた廃墟に酷似しているからな、たぶんそういう事なんだろ)
…それにしてもクラリは一体どこにいったんだ
◆
「ぐぬぬ、私はこの程度じゃ屈しませんよぉ…むにゃぁ」
「むにゃぁ、じゃない!」
ガスッ、と頭部へと衝撃が走る
「はっ!?」
クラリが目を覚ますと、目の前にはやけにダンディな初老の男性が居た
慌てて回りを確認する。薄暗い埃っぽい部屋に確実に今までの安宿とは違い大層な装飾が施されたベットの上にいる自分
「こ、これは一体どういう状況で?」
「それは、私が聞きたい、なんでお前は私が見えるんだ?あまつさえ、触れる事も出来るみたいだしな」
「?」
男の言っている事がイマイチ判らない、見えるやら、触れられるやら、そりゃそうだろう目の前に浮かんで居るのだから
「…ん?」
「どうした?」
「そ、それ…何て言う魔法ですか…?」
そう、目の前に居る男性はベットの上にふよふよと浮かんでいるのだ。それならまだしも下半身がひょろっとしている。違うそうじゃない。痩せて弱そうとかそういう意味じゃない。つまりよく怪談で聞く幽霊のソレだ
「魔法?あぁ、ご覧の通り私は幽霊さ…だからこそ驚いているんだが…」
ふむ、と男は顎に手を当てて今にも泣き出しそうなクラリをじっと見る
「ひぃ…食べないでくださいよぅ、私なんて美味しくないですよぉ…」
「お前なんて食わんっ、いやなに、何でお前がこんな所にいるかとか、俺が見えるのかとか聞きたいことは結構あるんだがな…うん、まぁいいわ。馬鹿そうだし」
「なぁっ、それだけは聞き捨てなりませんね!言うに事欠いてこの魔眼の申し子に馬鹿とは!」
「魔眼の申し子ねぇ…く、くく、あっはっは。」
何がツボに入ったのか、男は手で目を押さえ上を向くように声を大にして笑った
「わ、笑い事じゃないんですからね!本気を出したら貴方を消し炭にする事だって…」
果たして自分の魔眼が幽霊にまで聞くかははなはだ疑問ではあるのだが
「あぁ、悪い悪い、悪気があった訳じゃねーんだ。ただ、お前が昔の仲間に似ていてな。そいつも魔眼がどうとか煩かったからな…」
その瞳には昔を懐かしむ様な、それでいて寂しそうな光が宿っている様に見えた
「はぁ、それよりもここから出たいんですが…」
「お前な…もっとこう情緒とかなんかあるだろ」
「幽霊に言われたくないです、流石に私も人間臭い幽霊は怖くないので」
男は、ふむと一考し辺りを見回す
「そこに、扉があるにはあるんだが。性質の悪い人形の悪霊が徘徊してるんだよな」
チラリとクラリを見る
「無理だろーなぁ」
「し、失礼ですね!私にとってはそんな奴、朝飯前ですよ!」
キッと、男を睨むクラリ、だが体は震えている。ついでに言うと寝癖が酷い
「そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫です!問題無いですよ!それよりこのやり取り大丈夫なんですか!?」
「そんな事、私が知るわけ無いだろう。まぁここで出会ったのも何かの縁だ。私が出口まで案内してやろう、なぁに悪霊がいるかも壁を通り抜けられる私なら簡単に確認出来る。お前、名前は?」
「クラリオット・ノワール、クラリと呼んで下さい」
(ノワール…、名前までアイツと同じとはな、つくづく奇妙な縁だ)
「どうかしましたか?」
「いや、こっちの話だ。私の名はアラブライ。これでも有名な冒険家だったんだ」
「それが今じゃ乙女のベットの上でふよふよする変態になってしまったんですか」
「誰も好き好んでこんな姿で居る訳じゃない!手形の魔物が居てな、そいつとやりあった所までは覚えているんだが…気がついたらこうなっていたって訳さ」
「それって…」
入り口で自分をここに引きずり込んだモノが確か…と、逡巡したその時




