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92.人形と俺と

 凶夜が気が付くと、そこは光が一切無い場所だった。床は冷たく、恐らくは石か何かで出来ているのだろう。


「ててて…くそっ、乱暴に掴みやがって」

 

 などと悪態をついてはみたものの、やはり周りは暗闇で何も見えない。この悪態も実質、気を紛らわせるために思わず口からでたものだ。

 

「クラリっ!おいっ、何処だー!」

 

 数回にわたって、呼びかけるものの、周りからはクラリらしき声も気配も無い。

 

 (それにしたって静かすぎやしねぇか…)

 

 いくら人気が無い場所に建てられた屋敷と言えど、村の中なわけだし人通りが全くない訳では無いはずだ。それにこの廃墟の前でクラリと言い争っていた時にも何人か村人が通りすぎたし、荷車だって通って行った。ここが玄関であるのなら、外の音くらい聞こえても不思議では無い、いや聞こえない事がむしろ不自然だ。

 

 (ちくしょう、マジかよ…、こりゃ廃墟の奥まで引きずり込まれたってか?…クラリの奴、とんでもないところに連れてきやがって…覚えてろよ)

 

 とりあえず、自分の置かれた状況を確認するべく、辺りを手探る。少しずつだが視界も暗闇に慣れてきて、自分の周りに家具や寝台があるのが見えてきた。

 

 (ここは、部屋…なのか?あの寝台、天蓋が付いている…って事は結構な地位の人間のものって事だよな?本当にこの屋敷はミールの家なのか?)

 

 王様とか貴族とかが天蓋付きの寝台を使うってのはファンタジーにありがちな事だが、それとミールがどうしても結びつかない。

 

 ガタッ

 

「!?」

 

 バッと、物音がした方へ視線を向ける、意識せずとも気が付く程に、凶夜の額には脂汗が滲み、心臓は波打つ音が聞こえる程に高鳴っていた。

 

「チュー」

 

「なんだ…ネズミか…」

 

 ありがちな展開にほっと胸を撫で下ろす。ハッキリ言って凶夜は幽霊の類が苦手だった。前の世界、つまりは転移前の現代において、自己物件とか心霊スポットとかの類は避けまくって生きてきたのだ。

 

 (難儀なのは、ここがファンタジーの世界だって事だ…)

 

 そう、この世界に現代の常識はほとんど通用しない。お化けだって嘘じゃないし、海外勢が大好きなゾンビだってきっとアンデットモンスターとかそういう感じでいるだろう。ある意味、そういうのが好きな人間にとっては天国かもしれないが、凶夜にとっては、もはや地獄でしかない。

 

「うぅ…胃が痛い、早く、一刻も早くここから出脱せねばっ…こんな時スロットが使えればな」

 

 出現したスロットをぼんやりと眺めながら呟く。相変わらず、コインが増える様な気配は無い、もちろんコインが無ければスロットは回せない。こうなると最早、チートも形無しである。

 

 スロットには頼れない以上、ここは自分の力でなんとかするしかない。

 

 (伊達にこれまで修羅場をくぐっちゃいないんだ、やってやろうじゃねーか)

 

 決意を胸に、部屋のドアを探す。ここが何処か定かでは無いが、恐らくは廃墟の中であろう。正直今の状況は思わしくない、自分たちを引きずり込んだ手の正体も不明だし、クラリとは逸れたまま、ミールに至っては見当も付かない。

 

 (と、とりあえず出口を探して、うん、最悪屋敷ごと燃やせばいいか…)

 

 そんな物騒なことを考えながら歩いていると


「ここか・・・?」

 

 暗闇の中をさまようこと数十分。

 ついにドアノブらしきものを発見した。

 

 (扉の向こうは桃源郷・・・ってね、それだったら苦労しねーんだけど)

 

 ガチャリ


 恐る恐るドアを開けていく、その隙間からは煌々とした光が・・・なんて事も無く、相変わらずの暗やみが広がっていた。

 ただ何かがぼんやりと光っていて部屋の中よりは多少の明るさはある、どうやら天井が原因らしいが、なんなのかはよくわからない。

 

 (そりゃそうだよなぁ・・・)

 

 ある程度は予想していたとは言え、一刻も早くここから脱出したい凶夜にとって、これは凶報でしかない。今は何よりも明かりが欲しい。いやそりゃ、ドアを開けたら外でしたってのが一番望ましいんだが・・・。

 

 (俺の人生でこんなにも明かりを欲したことがこれまであっただろうか?いや無い!)

 

 心の中で無駄な力説をしながら、ゆっくりとドアを開いていく。

 ドアが開いていくと、視界には真っ直ぐ続く廊下が入ってくる。

 丁度、凶夜の居た部屋はその突き当たりに当たるのだろう、廊下の左右には所々ドアがある、イメージ的にはビジネスホテルの様な感じだ。

 

 一体何処まで続いているのか、先は暗く何も見えない。

 

 (っと、この廊下の先には一体何があるんだか・・・ひぃっっ)

 

 延々と続く廊下。それだけならたいした話ではなかった。

 

 (な、なんだよアレ・・・)

 

 凶夜はドアを全て開けず、半分閉じた状態で廊下を伺う、何故なら

 

 廊下の先にこちらを向く形で、凄く可愛らしい人型の’何か’が立った状態で置いてあったからだ。

 

 (あ、あれは何だ…?に、人形か・・・?)

 

 フランス人形が確かあんな感じだったと思う、金髪ロールで目はブルー・・・ここからじゃそれくらいしか見えないが…

 

 (なんでこんなところに思わせぶりに置いてあるんだよ。もういい加減にしろよ!)

 

 半分涙目の状態で人形を配置した主を呪い悪態を吐く。

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