91.お化け屋敷かな?
「なぁ、念のためもう一回聞くけどこれ…入らなきゃだめか?」
俺達は、廃墟の門を潜り抜け、ちょうど正面玄関の辺りに来ていた…果たしてこれが玄関と言っていいのか怪しい佇まいではあるのだが
「完全にホラーゲームだって、これ見た事あるもん、ゾンビとか出てくるやつだってこれ」
「うっ…流石にそこまでは…ホラーゲームってのが分かりませんが、それにほら?ゾンビは日の光があるところには存在出来ませんし、昼間は暗い洞窟とかにいるらしいですよ」
洞窟…ねぇ、てかゾンビがいるのか……出来るだけ会いたくないな
それに、目の前の屋敷は日の光はもちろん、ここから見てるだけでも光らしきものが一切見えないんだが…ゾンビが居てもまったく不思議じゃない
「なぁ?やっぱりやめないか?ミールだってそのうち帰ってくるだろうし」
「凶夜さん…確かにミールさんは放っておいても帰ってくるでしょう…こう言うと犬みたいですが…ですが!この屋敷を見てください」
見てくださいって言われても、俺には廃墟にしか見えないんだが
「そうっ、この現代において、見ることが出来ないような完全な廃墟なんですよ! そりゃ始めはちょっとアレでしたけど、よく考えたらこういう処に居を構えたらカッコいいじゃないですか!」
ダメだ、こいつはダメな奴だった、いや忘れていた訳じゃないけど
「そんな理由でこんな訳分からんところに特攻するつもりかお前は!」
「い、痛いっ、ぶ、ぶちましたね!」
瞳に涙を溜めたクラリが抗議的な視線を向けるが
「あぁ、打ったぞ、安心しろ俺は男女平等の信念を持つ者なのだ、だからいざとなったらお前を盾にしても生き延びることに躊躇はない」
「信じれません、この男言い切りましたよ…、しかも仲間を盾にするとか最低なんですけど!…はぁ」
もはや抗議する事を諦めたのか、視線を廃墟へと向ける
「もういいです! 私だけでもミールさんを救い出してみせます!」
はて、いつからミールは捕らわれの身になったのだろうか? こいつ勝手に設定を足していやがるな…いや、まてよ?
「おおっ、そうか…くそっ、俺だってアイツを助けてやりたい気持ちはやまやまだが…このあと宿屋に戻って暖かい布団でぐっすり眠るという大事な仕事があるんだ…ってことで後は頼むわ」
これにのっからない手はない。そもそも俺はこんないつ崩れるかもわからん廃墟になんぞ入りたくもない、珍しく利害が一致したな
「っ?」
「ん?」
「……私は一人でも入「そうか、がんばれよ」
クラリが再度、信じられないモノを見る目を向ける、なんだコイツ…いい加減、俺も慣れてきたからそんなん痛くも痒くもないぞ
「凶夜さん、元々最低だとは思っていましたが、まさかここまでとは。幼気な少女をこの薄暗い、如何にも魔物が出そうな廃墟に一人置いていくと、本気で言っているんですかっ?」
スッと俺はクラリから目線を逸らす
「あぁぁぁああぁ、わかってました!わかってましたとも!すみません、私が悪かったですからぁ、あやまりますから一緒に来てくださいよぅぉぉ…」
「なんだよ、なら始めっからそう言えよ、まぁ無駄だけどな…って、おい、ズボンを引っ張るのは止めろ!おいっ脱げるっ、脱げるからっ!」
顔面を涙でぐしゃぐしゃにしたクラリが必死に俺の服を掴んで廃墟へ引きずり込もうとしてくる、なにこれ妖怪? ちょっと引くんだが
「おい、離せ、離せよ! 止めろ、俺はこんな廃墟になんか絶対に------」
その時、廃墟の暗闇からふわっと、優しい風が凶夜達のほほを撫でる様に吹いた
「へっ?な、ななんですか今の生暖かい様な変な風…」
「なんだ? そんな間抜けな声を出したところで俺は負けな-----」
風に気を取られ、廃墟から目を離し、廃墟の入り口へ視線を戻す。
すると、そこには5メートル程の黒い大きな手が今まさに凶夜達へ掴みかからんとしていた。
「な、なんじゃこりゃぁぁーーー」「きょ、凶夜さぁーーーんっ」
もちろんこれを回避する間もなく、そのまま凶夜達は廃墟の中へと引きずり込まれたのだった…