85.逃亡の果てへ
「あぁぁーーーキョウヤ様がぁっ、レッド!離しなさい!キョウヤ様がぁ!」
「はいはい、はぁ…同志じゃなかったら放っておくところですよ?まったく貴方は…」
村からアプリコットを小脇に抱えて、草原の中を絶賛逃亡中のレッドは片手を額に当てながら深いため息をついた
それにしても
(やはり、凶夜くんのあの能力は欲しいですねぇ)
あの男が自分へ見せた力は今まで見たことが無いものだった
(教団の中にも似たような能力を持つ人はいますけど、底が知れるものばかりですし)
その点…あの力は応用が利きそうだ、とほくそ笑む
「レッド、聞いてるの?レッド!早く私をキョウヤ様の元に戻しなさい!殺すわよ!」
「…貴方は私に考え事をさせる事すらも妨害する気ですか?いやはや、怖い怖い…これだから狂人の相手は嫌なんですよ、まったく」
「何か言ったかしら?」
「いいえ、何も何も。そんなことより貴方には重力系の魔法が掛けられているんですから、そんなに暴れないでくださいよ。落っことしたら地面にめり込んでしまうんですよ?」
なんとか、アプリの思い人?である凶夜の話題から逸らそうとする
(本当に殺されてはかないませんしね、この頭のおかしい女ならやりかねないですし)
この女がどんな人間かは、少なくない年数を教団に属しているレッド自身が十分に分かっている…理解したいわけではないが経験がそれを許さない
「ほら、もうめんどくさいんで一気に飛ばしますよ。しっかり捕まっていてくださいね」
「だから降ろしなさいって言っているじゃないの!」
レッドの努力も空しく、アプリは依然として凶夜へご執心の様だ、まったくこれからの事を考えると気が滅入る
「…五月蠅いですねぇ、神速…」
レッドが呟いた刹那、2人の逃亡者の姿は草原から影も形も無くなっていた