63.響 凶夜に鉄拳を
マジでもう万策尽きた
(このままじゃ…あぁ!もう考えたくもねぇ)
凶夜が一歩後ずさる
まぁ、手は相変わらずレッドに掴まれたままだが
しかし
(今は少しでもコイツから離れたいっ)
チャラ
…ん?
ふと、腰に妙な違和感を覚える
凶夜の服装は異世界に来てから特段変わっていない。普通のシャツにジーパンという出で立ち、シンプルイズベストな凶夜としては腰に何か付けていた様な記憶は無い
(なんだ? なんかこう、大きめのアクセサリーを付けているような違和感が…?)
これは明らかに何かがある、そう確信しレッドに気付かれないように、ゆっくりと視線を腰へと移していく
…!?
(これは…小さい…スロットマシン…か?)
目線の先には、おもちゃの入った丸いカプセルにすっぽり収まる程度の大きさのスロットマシンらしきものが2つ、ベルトに結び付けられていた
よく見ると、殆ど通常のスロットと一緒なものの、一部だけ微妙に異なっている
そう、ボタンが1つしか無いのだ
(なんだよこれ…こんなもの俺は知らないぞ…?)
というか、絶対さっきまでこんなもの腰に付いて無かった筈だ
何これ、クッソ怖いんだけど、いやいやいや、流石にこれに気が付かない訳が…っ…!
そこまで考え、急に脳がかき回される様な嫌な感覚に襲われる
一瞬の目眩の後、不思議と"これ"について違和感を覚えなくなっていた
(そうだ、知っている…)
俺はこれを知っている。いつだ、いつ知った?昨日か?
(そう、確か…昨日だったはずだ…)
不思議な感覚、知らないことを知っている、他人の頭の中を見ているようなそんな感覚に襲われながらも一つ一つ記憶を手繰り寄せて行く
(なんだこの記憶は……俺は一体どーしちまったっていうんだ)
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牢屋に入れられた凶夜は猿轡をかまされ、満足に会話も出来ないまま
備え付けのベッドで刑の執行を待っていた
その時
「にゃっほー、本当に君とは縁があるにゃんねー」
どこかで見た事がある、猫耳をぴょこぴょこと動かし、居酒屋の店員こと
マディ・スカーレットが牢屋の中、自分を見下ろす様に立っていた
「今回も君がキーにゃんだねぇ、あっ 喋れにゃいか? いやいや、お姉さんはどういう状況か分かってるから大丈夫にゃよ?これっぽっちも まーったく心配しにゃくていいんにゃんよ!」
舌を噛みそうな、にゃん語?を自由自在に操り、マディは凶夜へ話続ける
「さてにゃて、今回お姉さんが君に教えるのは、君のスキルの使い方にゃんだよね、あ それには猿轡がじゃまかにゃー」
そういうと、マディは何やら呪文のようなものを唱える
すると猿轡は音もなくバラバラになった
「ぷはっ、助かった! あんた…確か酒場で…」
見た顔だなと言おうとして、言葉を飲み込む
いや、見た耳と言うべきか迷っただけなんだけどね?しかし尻尾も捨てがたい、いや今はそれどころじゃ無い
「なんか君から不純な目線を感じるのにゃ」
マディは、ふーっと毛を逆立てて凶夜を威嚇するポーズをとる
「いや、悪い悪い、猫耳娘を見て興奮を隠しきれないのは俺の故郷だと割と普通なもんでさ」
「何その故郷、こわっ 変態しかいないにゃん。私はマディ・スカーレットにゃん、マディでいいにゃん」
「俺は響凶夜だ」
「おっけーにゃん」
それよりも、とマディ
「とりあえずスロットを出してもらっていいかにゃ? あー、色々聞きたい事があるのはわかるんにゃけど、取り敢えず今は言う通りにしてくれると嬉しいにゃんにゃん」
招き猫のようにこちらに手をこいこいさせるマディは本物の猫を彷彿とさせるポーズをとる
昔飼っていた猫を思い出し、少し現代が懐かしく思えた
「…あ、ああ ちょっと状況がよくわからないが、助けてもらったしな…敵じゃ無いみたいだし」
敵だったら、あのまま俺を放っておけば処刑されてたからな
「スロット」
凶夜が唱えると、クリスタル状のスロットマシンが出現する
「おっけーにゃん、次にそのスロットを小さくするイメージと、使った時になんの魔法が発動するかをイメージして欲しいにゃん、あー、魔法は認識阻害とかを解除する感じがオススメにゃん、それがうまくいったら今度は攻撃でもう一回使うにゃんよ」
凶夜は言われた通り、スロットを使うとミニチュア版のスロットマシンが完成したのだ
「うおっ、なんだこれ…」
「にゃっふっふ…それは簡易式のスロットにゃんよ! ボタンが1つしか無くて、それを押すと込めた魔法が即発動するという優れものにゃん、君のスキルはアイデア勝負にゃんだから、色々考えてみるといいにゃん、そもそもスロットである必要も…「なるほど、 いや なんでマディがそれを知って…」
「って人の話は最後まで聞くにゃん!まぁ、今回はここまでなのにゃん」
目の前がふっと暗くなる
「なんだ、これ…」
昔一度なった貧血によく似ている
意識が…薄れて……
「こっからは君次第、ちゃんと私を助けてにゃんにゃん」
凶夜の意識は深い闇の中へと沈んでいく
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!?
そうだ…マディ
マディ・スカーレットだ
(いや、だけど 俺の猿轡はマードックが…それに、昨日はミールが、俺が寝ている所を見ているって…)
記憶が混濁している
まるで何処からか取って付けたかの様な記憶の違和感を感じながら、腰のスロットを確認する
そこには確かに自分がマディから教えられたミニスロットがぶら下がっていた
本当に…一体何がどうなってるんだ