6.金のなる石
(/・ω・)/うおー
「ふぅ……」
深い、本当に深い溜め息が漏れた。 なんとか生き残る事が出来た。いや、かなり危なかったが、もう二度とごめんだ。
……うん、マジで死ぬかと思った。心臓が早鐘を打って痛いくらいだ。 なんなんだよあれ。異世界に来て数時間でドラゴンとエンカウントするとか、難易度設定がバグってるとしか思えない。ベリーハード通り越してもはやヘルモード、理不尽な初見殺しにも程がある。 もしこれがゲームのオープニングイベントだったら、コントローラーを投げ捨てて「あ、これ絶対負けイベントだわ。さっさと死んでリセットしよ」って諦めるところだ。
(……にしても、こいつ……あのスロットマシン……少し真面目に調べてみる必要があるよなぁ)
凶夜は手元にある、レトロで重厚なスロットマシンをまじまじと見つめた。 どう考えても、あの状況でドラゴンを倒せる魔法を『選んで』発動していたっぽい。そもそも、威力が桁違いだ。あんな戦術級の魔法を個人がぶっ放せるなんて、ファンタジー小説の基準で考えても普通あり得ないだろ? チートと言われればそれまでだが、はっきり言ってあんなのをポンポン撃てる自分が怖い。下手をすれば自分が巻き込まれて消し飛びかねない。
整理しよう。 スロットが初めて発動したのは、俺がルークに吹っ飛ばされて空中に投げ出された時だ。この時は『空中で自分が停止する』という魔法が発動した。 そして次が、このドラゴン戦での超火力魔法。 これに共通しているのは、「俺が望むこと」もしくは「俺が直面している危機を脱する」という条件でいいのかね……? ということは、このマシンは状況を解析し、最も適した解決策(魔法)をオートで選出して発動してくれる、という超高性能AI搭載型ということになるわけだが――。
マジかよ……。やっぱり考えれば考えるほど、結構なチートじゃねぇか……いや、そのほうが生存確率は上がるから助かるんだけども。
しかし、懸念材料もある。コインの残量だ。 初めは25枚。空中停止魔法で3枚消費して22枚に減ったが、さっきのドラゴンで増えたのか、カウンターは今は『40』を示している。 アタリ(ボーナス)を引いた事で払い出しがあったんだろうけど、ギャンブルの鉄則として、アタリがあるって事は当然ハズレもあるって事だよな。 もし戦闘中に『ハズレ』を引いて、タライが落ちてくるだけだったら? その瞬間に俺の命日は確定する。うーむ。
(それに、あんまり無闇に使わない方がいいんだろうな……)
コインがゼロになったらスロットが使えなくなる可能性もあるし、補充条件も不明だ。 よし……基本的には、このスロットマシン本体を相手に投げてぶつける方向で使おう。 見た目通りずっしりと重い金属の塊だ。角で殴れば人は死ぬ。
よくよく考えた結果、凶夜は「鈍器として使う」という斜め下の方向で決心を固めた。
その時、地響きのような音が近づいてくる。
ドドドドドドドッ!
「!……なんだこの音?」
バッ!
茂みを突き破り、影が飛び出した。
「キョーヤ!」
「うおっ!?」
ルークの背から飛び降りたミールが、弾丸のような勢いで凶夜に体当たりばりの抱きつきをしてくる。 ドンッ、と鈍い音が胸から響いた。それに半ば踏ん張る形で応える凶夜。ミールは腕にコアラのようにしがみついているため、不可抗力で凶夜の腕に彼女の胸が押し当てられる形になるが――
おぉ……これは! 役得……ではないな、うん、無い。
悲しいほどにフラットだ。無い胸のため柔らかい感触は一切感じなかった。そこにあるのは肋骨の硬さのみ。残念無念また来週。
「むっ!」
ミールが顔を上げ、ジト目でこちらを睨む。
「へっ?」
「キョーヤ! 今、すっごく失礼な事考えたんだよ! 女の勘がそう言ってる!」
「い、いやいやいや! ……思ってないですよ? いやぁー、ミールが無事で本当によかった! 心配してたんだぞー!」
顔に出ていたのか、ミールが野生の勘で鋭いのか。ともかく冷や汗をかきながら全力で話を逸らす。
「ぶもももも!」
「お、おぉ! ルークもよかったな!」
おまけ扱いで不満そうなルークも、元気そうに鼻息を荒くして凶夜にタックルしてくる。 ズドン! 重戦車かお前は。こいつには出会ってから吹っ飛ばされてばっかりだな。
「本当に、どうなるかと思ったよ……キョーヤ、生きててよかった、本当……うえぇぇぇぇん!」
安心したのか、ミールの大きな瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
「ちょっ、泣くなよ! 大丈夫だって、このとーりピンピンしてるからさ」
「ぶもっ!?」
腕をぶんぶんと振り回し、己の無事をアピール。ついでにルークの横腹を叩いてささやかな仕返しをする凶夜。 その瞬間、すぐさま鼻先で反撃され、2メートルほど宙を舞って吹っ飛ばされる。
いてて……腰が……。 それにしても……あらためてドラゴンの死骸に目をやる。 森の木々をなぎ倒し、地面を抉って絶命している巨大な生物。現実味がなさすぎる光景だ。
「あんなの、よく倒せたなぁ。自分でもビックリだ」
「うん……キョーヤ凄かったんだよ、あんな魔法見たこと無い……光が溢れて、ドカンって……あっ」
ミールが、はっとした顔でドラゴンの死骸を指差した。
「魔石だよ!」
「魔石?」
「そう、魔物の体内にあるんだよ。あんな大きなドラゴンだったら、もの凄いモノが穫れるはずなんだよ!」
魔石か……よくRPGとかであるな。つーか昔やったゲームでそんなのあったな。魔石を集めて武器作ったり魔法を開発したりして、魔王を倒すやつ……あれ最後はどーなったっけな、うーん。
「キョーヤ!」
「おおぅ、すまんボーッとしてたわ」
「もー、早く行くんだよ! 他の魔物が寄ってくる前に!」
ミールはルークに跨がりドラゴンの死骸の方へ走っていく。 凶夜が遅れてドラゴンの死骸にたどり着くと、そこでは既に猟奇的な光景が広がっていた。 小柄なミールが、ナイフ片手にドラゴンの頭辺りを迷いなくバラバラにしていたのだ。 肉を裂く生々しい音。飛び散る体液。完全にグロ注意、R-18G指定の映像である。
「うへぇ、お前よく平気だな……」
思わず顔をしかめる凶夜に、ミールは血のついた頬を拭いもせずにケロッと答える。
「? 解体の事なら、村じゃ10歳にもなると親の手伝いでやるからコレくらい普通だよ。それに解体って言っても、キョーヤの魔法でもう結構バラバラだし」
「そ、そうか、10歳で解体を……英才教育だな」
改めてここが平和な日本じゃない事を痛感する。スーパーでパック詰めされた肉しか知らない現代っ子とは生きる力が違いすぎる。
やっぱり異世界なんだよなぁ。そこは今更だけども……。 そんなことを考えてるうちに手際よくドラゴンの解体が終わり、ミールの手には拳大の、美しい虹色に輝く球体が握られていた。
「凄い、凄いよキョーヤ! こんな魔石見たこと無い……」
太陽にかざし、キラキラと光を反射させるミール。まるで宝石を手に入れた子供のようにはしゃぎまわっている。
「そんなに珍しいのか、よかったな……」
口では相槌を打ちながらも、言葉とは裏腹に、凶夜は魔石を見た瞬間に言い知れぬ不安を感じていた。背筋に冷たいものが走るような感覚。
(……なんでだ?)
既視感。 俺はあの魔石を ”以前に見たことがある”。 ただし、現実ではない。ゲームの中でだ。 やりこんだあのRPGで、中ボスクラスのドラゴンを倒して手に入れるレアドロップアイテム。インベントリのアイコン、そして詳細画面に表示されるグラフィック……あの虹色の輝き方は、完全に一致している。アイテム欄には確かに『虹色の魔石』と表記されていたはずだ。
凶夜は顎に手を当てて思案する。
これは偶然なのか……? ドラゴンがいれば魔石がある、それはファンタジーのお約束だ。だが、ビジュアルまで一致するものなのか?
それとも……いや、まだこれだけじゃ何とも言えない。 もしここがゲームの世界そのもの、あるいは酷似した世界だとしても、ここが何処かは分からない。 仮説を立てるなら、ゲームを作った奴が異世界出身でここの知識を持っていたとか……もしくは俺が何らかの原因でゲームの中に入ってしまったとか……あるいは、実際の俺は事故で意識不明の重体で、病院のベッドで長い長いゲームの夢を見ているとか……。
いや、止めよう。考えてもしょうがない。 頬をつねれば痛いし、ドラゴンの血の匂いは強烈だ。 それにこれが夢である保証なんて何処にもない。この世界で死んだら死ぬモノと思って行動した方がいいだろう。都合のいい希望的観測なんて捨てるべきだ。
凶夜は自身の行動方針を決める。この理不尽な世界で生き抜き、元の世界に戻るために……。
……元の世界、ねぇ。
ふと、日本での生活が脳裏をよぎる。 鳴り止まない督促の電話。ポストに溜まる請求書。玄関を叩く怖いお兄さんたち。終わりの見えない利息の返済。 (……戻ったところで、地獄じゃねーか)
と、思ったが元の世界に戻っても碌な事は無さそうだなと思い直し、瞬時に思考を切り替えた。 どうせ死んだような人生だったんだ。だったら、魔法ありドラゴンあり、美少女(※胸は無い)ありのこの世界で、異世界ライフを満喫する方向で行くことにしよう。
うん、それがいい。絶対にそのほうが楽しい。
腹を括った凶夜は、どこか晴れ晴れとした顔でミールに向き直った。
「まぁ、とりあえずはミールの言ってた『ボルット村』ってのに行ってみますか。飯も食いたいしな」
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