55.アイツら、どんどん増えるよな
くそっ…あいつ等
気がつくと凶夜は見慣れた場所へと連れて来られていた
アプリに軟禁され、事件に巻き込まれた場所…まったくいい思い出のない…そう、地下牢である
そして、前回の様にベットの上に寝かされている
起き上がって初めの感想は、掃き溜めの様な地面に寝かされていなくて良かったなぁ
これ、もしかしてタイムリープしてる? だった
それにしても、法廷で屈強な男達に引きずられて行く途中から記憶が無い
気絶させられたにしては、どこも痛く無いから不思議でしょうがない
殴られて気を失った訳じゃ無いって事か?
法廷では何も口にしていないから薬系でも無い…と思うし
思いつくのは魔法かスキルくらいなもんだが…
あぁ、でもスプレー的な薬って線もあるな 顔にプシュって
…プシュってやって意識失うレベルの薬とか嫌だなぁ
ま、考えてもしゃーないか
周りを見渡すが特段変わった所は無い
極々普通の牢獄だ
遠くから、人の声が聞こえる気がするが、ここにはアプリも捕まっているはずだから
そっちの尋問か何かだろう
はぁ、まさか人生で2度も牢屋に入る事になるとはなぁ
しかも、嵌_められてだよ?
俺の思い描いていた異世界生活とは程遠い
とととと
凶夜が自らの不運を呪っていると足元に1匹のネズミが現れた
「なんだお前? 悪いな、生憎お前に挙げられそうな食べ物は持ってないんだよ」
尚もネズミはこちらを見ながらチューチューと鳴いている
他のネズミと縄張り争いでもしたのだろうか、右目は傷で閉じており、左耳も欠けているように見える
その相貌は歴戦の戦士を思わせるかの様ではあった、が
だからどーした、所詮はネズミだ
「何も無いんだって ほらさっさと行けよ」
今は唯のネズミの相手をしている場合じゃない
何せ、こっちは死刑を言い渡された囚人…
どっかのバカ共のせいで、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている最中なのだ
凶夜はシッシと
足でネズミを追い払う
「誰もお前みたいな顔面偏差値の低い奴に期待してねぇぜ」
ガタッ
「だ、誰だ!?」
突如聞こえた声に思わず立ち上がり、辺りを見回すが声の主は一向に見つけられ無い
「つーか、お前分かって無いのか? まさか…とか神妙な顔して言うつもりじゃねーだろうなぁ? シラケるから、顔も悪くて頭も悪いとかどんな罰ゲームだよ、ふはは、あーっはっはっは」
声の主は以前こちらを馬鹿にした様に語りかけ続ける
…分かっていない? んなわけないだろ?
俺だってそこまで間抜けじゃない、結構な数のアニメやラノベを見ているんだ
初めの受け答えで'何'が喋ったかなんてある程度想像はついてる
ま、確証は無いけど
なんせ、声が頭に直接響いているのだ、これで場所を特定しろって言うほうが難しい
--------姿を見せずに語りかけていれば、だが
予想が正しければ、そいつは非常にすばしっこいはずだ
普通にやったら逃げられてしまう
だから、ちょっと一芝居打った訳だ
「ほほぅ、馬鹿にしやがって…くそっ、一体どこにいるんだー、一体誰が何処から喋っているんだー(棒」
凶夜は尚もキョロキョロと辺りを見回す
………恐らくは、声の主であろう目標に向かってジリジリと近づきながら
「あはははは、マジで気がついて無いでやんの、こいつぁグレートなマヌケっ……ギャッ」
一瞬の油断を見逃さず、凶夜はそれの尻尾をそのまま勢いよく踏みつける
まぁ、千切れても生えてくるだろ、たぶん
「ほーう? で、誰がマヌケだって?」
足元の’それ’に目を向け、今度は凶夜が語り掛ける
「き、貴様ぁ! 騙したなっ ひ、卑怯めがぁぁああ」
「聞こえんなぁ? あれぇ、こんなところに都市指定の害獣がいるじゃ無いか プチッと潰しておくかなぁ?」
「ひぃっいぃぃぃぃぃ」
凶夜の足元で必死にバタつく声の主は
「わわわ、わかった、と、と取引、取引をしようじゃないか?」
1匹のネズミーーー
の魔物だった。