49.俺は無罪だぁぁぁ!
シャトー教団
通称 教団
ドラゴンを崇拝し、ドラゴン救済の為であれば法を犯す事も厭わない集団である
しかし、それは表の顔
教団には一部の者にしか知られていない裏の顔がある。そう、魔王を作り出し世界を征服…とまではいかないが、自分等の利益の為に暗躍しようとしているのだ
そして、この俺 響 凶夜は、恐らくその集団の中でも主格であるアプリコット・ミレーヌを見事倒した
言わば立役者…の筈なんだが…
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気がつくと、知らない場所に手足を縛られて転がされていた
苦しい姿勢の中、周りを見回す
テレビで見たことある、自分には一生縁が無いんだろーなぁ。ていうか、あったら人生終わりだよな…ははっ
と、前までは思っていた場所
うん。どうみてもここ、裁判所の被告人が立つ場所だよね? なんか、横にクラリとミールもいるし…何で俺が容疑者でお前等が弁護する立場みたいになってんだよ
足と腕を縛られた状態の凶夜は、ホールの中央に転がされていた。
向かい側には、裁判長らしい人物と検察官だろうか?たしか、聞きかじった知識だと、そんな感じだった気がする
あともう一人、さっき俺達を殴って気絶させた支配人が立っていた
とりあえず、不自由ながらも必死にその場に立ち上がる
「キョーヤ! よかった、気がついたんだよ!」
「凶夜さん、ついに目覚めましたね…ふふん まかせてください 私がっ! 凶夜さんの身の潔白を! 証明して差し上げますからねっ!」
その場で、くるりと一回転してポーズを決めるクラリ
いやほんと、これだけで大分不安になるわ、こいつ人を不安にさせる天才なんじゃないのか…
はぁ、ミールは比較的まともだと信じたいが
ていうか、何でお前等この空気に順応してるんだよ
「静粛に、この場は裁判長ライム・クリストファーの名において、取り仕切る! さぁ、これより魔王を誕生させ、世界を滅ぼそうとした男…ヒビキ キョウヤについて裁判を始める! 告発人はシ・ハイニン!」
どよどよと傍聴席がざわつく
「ていうか、あいつ支配人じゃなくて、シ・ハイニンって名前だったのかよ…」
「騙されたんだよ」
「騙されましたね、凶夜さん」
「いや、明らかにお前等だよね。特にクラリ」
「あ、あの男なんか目つきがムカつきます! 魔眼使っていいですか? あぁ、魔眼が使いたいっ」
「そうやって唐突に発作がくるのはなんなんだ! お前それ俺の指摘をはぐらかそうとしてるだけだろっ!」
「キョーヤ、キョーヤ、そうやってすぐ人のせいにするのは良く無いんだよ! 僕は騙されてないんだよ!」
「だぁぁーー! もうなんでもどうでもいい! 頼むから、これ以上騒ぎを起こさないでくれ、マジで犯罪者になっちまうだろーが!」
俺達が馬鹿なやり取りをしている中、傍聴席がやけに騒がしい事に気がつく
てっきり俺の罪状の魔王って言葉にざわついていたんだと思っていたが、聞こえてくる内容から、どうやらそうではないらしい
…まじか、あの銀髪の魔女が
ライム・クリストファーって毎回判決を死刑に持っていくので有名じゃねーか
あれが冷酷で有名な魔女か…初めてみたぜぇ
「…何やら不穏な単語が聞こえるんだが」
「なんかあの人、有名人らしいですよ。なんでも死刑にする確率が半端じゃ無いって話です」
「まじかよ、終わった…」
クラリの言葉と、周りの声が、俺の運命を既に示していると言っても過言ではない…気がする
ライム・クリストファーってのは、かなりの実績がある奴なのだろう、一体何人死刑になっているのやら…
だがその不安とは裏腹にライムの巨乳に目がいってしまう自分が憎いっ
くそっ、珍しく巨乳が出てきて異世界っぽくなってきたなって思ったらこれかよ!
「大丈夫ですっ、私には魔眼があるんですから」
俺の様子を見て何を思ったのか
ふんすっ、と鼻息を荒く言い放つクラリ
一体こいつは魔眼で何をどうするつもりなんだ…ああ、でも最悪、魔眼で全員倒して貰ってでも逃げようと心に硬く誓う
シ・ハイニンは俺を睨みつけると、歯軋りをしているように見えた
そのあと、順々にミール、クラリと目線を移すとニヤリと笑う
「貴様等、黙れぇ! 静粛にしろぉ!」
バシンッと、ライムが手に持った木刀を叩きつけ
騒がしい、傍聴人達を一喝する
こういうのって普通は木槌だろ、知らんけど、こっちの世界は木刀がスタンダードなのだろうか?
「検察官はこの私、レッド・カーペッツが勤めさせて頂く」
1人の男が丁寧にお辞儀をする
赤い長髪を束ねて、それがまるで炎の様にみえる
というか全身真っ赤なんだが
ミールといいこっちでは色を揃えるのが流行っているのだろうか
「では、起訴状を読ませて頂きます 被告人であるヒビキ キョウヤは村の入り口付近の塔を拠点とし、密かに魔王誕生の研究を進め、その際にそれを止めに来たシャトー教団の幹部であり今回の被害者でもあるアプリコット・ミレーヌ氏に暴行を加え、それを止めに来た警備団の隊長であるマーク氏へも過度の暴行を加えたものであるが…」
「異議ありぃ!」
レッドが、罪状を読み上げている途中に俺の隣にいたクラリが両手を掲げ声を上げる
おぉ、そうだ言ってやれ、それは全部虚言で本当はアプリが首謀者だって事を
この人の多さに気後れせず、発言をするってのは中々出来る事じゃない、クラリすまん、俺はお前を誤解していたようだ
「まだ、罪状は読み上げられていない、弁護人の発言は慎んで貰おう」
裁判長である、ライムがキッとクラリを睨みつける
それを、きょとんとした顔で、受け流すクラリ
「あ」
「?」
その場の全員がクラリに注目する
自分が何を言われているのか数秒して理解したのだろうか、クラリがぽんと手を打つ
「異議ありって言ってみたかっただけなので、続けてもらっていいです」
「「はぁ!?」」
ライムと凶夜の声がかぶる
よく見えないが、レッドは口を押さえて笑いを堪えている様だ
本当にこいつの頭の中はどーなってるんだ? 魔眼しか入ってないんじゃないか?
アプリ戦での俺の感動を返して欲しい、ほんと。
「こほん…はぁ、もういいです。 続いて被告人と弁護人は陳述を!」
これ、俺が無実なのは分かってもらえるんだろうか…不安しかない