47.絶景って意味知ってるか?
「おい、クラリ」
「いやぁ…ははは」
「絶景なんだよ!」
「いや、それは可笑しい。これは絶景とは言わない」
ギルドの報告も終わり、指定された裁判所へ向かう途中
塔の前を通ったところで大勢の人だかりがあったので
お、祭りでもやってるのか?とクラリとミールの3人でテンション高めで人ごみを掻き分けて進んでみたものの
目の前に広がっていたのは
「地面一面を埋め尽くす教徒の姿であった」
「であった、じゃねーよ。この残念娘が」
ばかん、とクラリの頭を叩く
「あー、今グーでぶちましたねっ、ばっ馬鹿になったらどーするんですかっ 責任とれるんですかっ」
「うるせぇ、もう馬鹿の臨界点に達してるからこれ以上は馬鹿になりません~、責任?んなもん余裕でとってやるわ」
え、いやぁ そそそんな、と顔を赤らめながらくねくね腰を動かすクラリ
「おい、なんで照れてるんだ、俺は貶してるんだぞ?」
なにこれ、こわっ…強く叩きすぎたか?
自分の力加減に自信がなくなりつつ、もう一度叩けば治るかな?と再度叩く
「ぐえっ」
クラリは奇声を発した後、そのまま動かなくなった
「よし」
「…よし、じゃないんだよ。それにしても、これきっとクラリの仕業なんだよ」
さらっと流すあたりコイツも染まってきたなぁ
いや、元々こんな感じだったっけ?
「俺もその意見には同意だな」
教徒はアプリの部下だった奴等だ見覚えもある
一部の教徒はこちらに気がつき ひえっ とか言っているが目線が明らかにミールへいっている所を見ると
ミールと’お話’をした奴等なんだろう
一応みんな、治療をされているようで、変な方向に足が曲がっていたりとかは無い…うん曲がったまま治されてるぽいのもいるな 見なかったことにしよう
教徒達は全員地面にへばりついて動けないようで、その周りを団員が囲って警備しているようだった
ちょうど手近な所に団員が居た
「なぁ、これってどうなってるんだ?」
「なんだお前は、一般人には教えられ…ん? 一緒に居るのはミールじゃねーか、って事は俺達を助けてくれた兄ちゃんってのはお前か!それなら話は別だ!がはは!」
そういや、団員は全員塔に捕まっていて、ミールが救出したんだったな
団員は険しかった表情を柔和なものに切り替えると、流暢に話し始めた
「教徒共は口をそろえて、頭の可笑しい娘にやられたって言うんだが、まぁ理由はともかくコイツ等は牢に入れようって事になってな。ただ困った事に物凄い力で地面に押し付けられててな…一人運ぶのに5人がかりだから、いっそのことここで見張ればいいって事になったんだよ。あくまで応急処置だけどな。もう少ししたら王都の方から呼んだ魔術師がくるんで、着いたらこの状況を何とかして全員王都へ輸送するそうだ」
「なるほど、首謀者はどうしたんだ?女が居たと思うんだが」
あいつか…と唇を噛む
団員が教徒に捕まった時に、何人かがアプリの犠牲になったとの事だった。あの状態でまだ戦うとかすげーなもう二度と関わりたくない
「俺も詳しくは知らされてないんだが、地下牢まで運ばされたな。たぶん尋問でもしてるんじゃないか?そんな事してないで俺としては早く処刑でもして欲しいもんだが」
たしかに、脱走でもされたら碌な事にはならないだろうしな
後で様子でも見に行ってみるか、不死王の能力とかについても何か知っていそうだったし、聞きたい事は沢山ある
それはそれとして、やっぱりかなり悲惨だ
地面に伏せた教徒達は3日間このままなのだろうか、野ざらし状態でトイレ状況もかなり悲惨な感じになっているのが見て取れる。なんか遠くで ころせぇ とか言ってるし…
「流石、魔眼の力ですね あぁ素晴らしきこの力っ」
いつの間にか復活したクラリが会話に入って来ていた
「なぁ これって解除とか出来るのか?」
「うーん この3日間は暇だったんで 色々試してみたんですけど 解除ってコマンドに無いんですよね」
まじか…
「えっ そういえば昨日、おやつの取り合いの時に僕に魔眼を使おうとしたんだよ 解除できないのに使おうとするとか信じられないんだよっ」
こいつ…
クラリはそれを目を逸らして口笛を吹く振りをしている、吹けてないが
「お前絶対 俺にそれ(魔眼)かけるなよ 絶対だぞ」
「あ、もしかして振りですか!?」
「んなわけねぇだろっ つーか試してみたって何? 何ソレ怖いんですけど!」
「やだなぁ カエルにですよ カーエールー」
カエル? 蛙? この世界にも蛙っているのか…まぁ日本でもケツストローで膨らませられたり、車に引かれたりと碌な目に合わない事が多いからなぁ ご冥福を祈ろう
「で、何か分かったのか?」
「いやぁ 何匹かはパンッてなったんですけど あいつ等、直ぐに飛んで逃げちゃんですよ」
今不自然な擬音が会話に入った気がするが
グロテスクな話になりそうなのであえてここはスルーする
「まぁ、ぴょんぴょんと結構すばしっこいよなぁ」
「油断してると怪光線打ってきますしね」
「…いやまて、そんな蛙はいない」
お前は何を言ってるんだ?
クラリをまじまじと見るが、一方クラリは不思議そうに凶夜を見返し
「え、もしかして凶夜さんカエル見た事ないんですか?」
と、若干小ばかにしたように言い放った
「いや、知ってるが、お前の言っている蛙は知らない」
「? そこら変にいるやつですよね?」
「ああ、川とか水場にいるよな」
「ええ、茶色とか緑で」
そうだな その認識は合っている
「足が4本で」
「そうそう」
「口から怪光線を」
「ちょっと待て」
怪光線って何だ
あれか?レーザービーム的なのか? なにそれこわっ
「らちが明かないんだよ、もう村の外にカエル見に行けばいいんだよ、ここ一週間でドラゴンの影響も収まったみたいだし、低級の魔物も活動してるからギルドに依頼があるはずなんだよ」
「そうですね、常識の無い凶夜さんに付き合ってあげましょう」
むふーと鼻息を荒くし、ミールの意見に賛同する
一方、凶夜はというと
いや…別に会いたくないんだが
そんな化け物、聞いてるだけで関わりたくない
だが金が無いのも事実…金が無いのは首が無いのと一緒だからなぁ、どっちにしろ依頼は受けなくちゃならんし
葛藤していた
「まぁ、とりあえずそれは後にして、早く裁判所へ行くんだよ!」
「そうだったな、蛙問題はとりあえずお預けだ」
「ふふん、しょうがないですね このクラリオット・ノワールが凶夜さんに美味しいカエル鍋をご馳走してあげますよ! 漆黒の鍋をねっ」
ビシッと凶夜を指差してポーズを決める
「絶対嫌だわ」
漆黒の鍋ってなんだよ、闇鍋か
「ふぇ、なんでですかぁっ」
「ほら、早く行くんだよ」
ミールがクラリをずるずると引きずっていく
「あぁ、ミールさん やめてっ 切れる 切れちゃいますぅーーー」
ふぅ、やることは沢山あるんだが、一体なんで裁判所なんて呼ばれたんだろう…?
現代だったら罪とかを裁かれる場所だよなぁ
村を救った、しいては魔王の誕生を止めたってのは結構、功績的には凄いんじゃないだろうか?
あっ もしかして
報奨金とか出たりして…
若干の期待をしつつ 凶夜達は裁判所へと向かう