43.覚醒の条件
「クラリッーーーー」
「キョーヤっ!」
俺が倒れたクラリに駆け寄ろうと、一歩踏み出した時
ミールの緊迫した声が響いた
「あらぁ?残念ですわぁ」
俺の足元にアプリの放ったであろう光魔法が着弾し、地面を抉る
ミールの声で足を止めなければ、今頃は俺の右足が吹っ飛んでいただろう
「お前っ…!」
「あぁ…怒ったお顔も素敵ですわぁ。些細な問題でしょう?どうせ無くなってもスキルで生えてくるんですしぃにょきにょきっと」
「お前、あんなん何回も出来ると思ってんのか!?痛くて意識失いそうになるんだぞ!腕を根元から吹っ飛ばされた奴の気持ちがお前に分かるかぁっ!?」
…と言ってみたものの出来るか、出来ないかで言ったら恐らく出来るだろう
だがスロット回すの邪魔されたりしたら出血多量で簡単に死んでしまうし、二度とやりたくはない
「キョーヤ、早くクラリをっ!」
「ッ…アプリ、悪いがお前に構ってる暇はねぇ!」
と言っても、どうすればいい
何か…何かないのか?
必死に手を考える中 ふと、自身の懐に違和感を覚える
あっ、これか。完全に忘れていた
…これは使いたくないが…
いや、そんな場合じゃねーな
(くっ、あの馬鹿…この件が終わったら弁償してもらうからな)
「ふふ、どーするおつもりですのぉ?」
「こーするんだよっ」
スロットを呼び出し、淡々とボタンを押す
凶夜がリールを全て止めると同時にスロットマシンは粉々に砕けた
「何も起こりませんわねぇ?強がりなんてキョウヤ様らしくないですわよ?」
「いや、これでいいんだ」
刹那、凶夜は懐から瓶詰めされた液体をアプリ目掛けて投げつけた
そう、道具屋で購入した惚れ薬だ
「なんですの?そんなもの投げたところで…!?」
惚れ薬はアプリの手前で盛大に弾ける
「くっ、なんですの…これ…染みますわぁああっ あああああ」
瓶の中身がアプリへとかかり、一部が目に入ったのか狼狽する
スロットで瓶が一定時間で弾けるように効果を付けた。まぁ失敗しても全力で投げたからな
最悪アプリに直撃すればよかったんだが、上手くアプリの手前で弾けてくれてよかった
だが、本来の薬の効果は無さそうだな。うん、まぁ時間が稼げたし問題ないんだが
…問題ないが、あの道具屋のおっさん
今度会ったらぶん殴る、男心を弄びやがって!
その隙に、倒れているクラリの側へ駆け寄り上半身を抱えるようにして
呼びかけるが、一切返事は返ってこない
(クラリ…)
握った手は冷たく、顔からも生気が感じられない
恐る恐る、口へ手を近づけるが息も完全に止まっていた
(っ…絶対こんなの認めねぇからな)
スロットを呼び出し
震える手でレバーを叩く
(頼む…っ)
回る絵柄を見ながら、祈るような気持ちでリールを止めていく。頼れるものはこれしか無い。信じるしかないのだ
(この絵柄は…)
そこには自分が腕を再生した時と同じ絵柄が揃っていた
オールリカバリー
しかし、この呼称をそのまま信じるとするなら、目当ての蘇生では無く、ただの回復のはずだ
(やっぱり駄目…なのか?)
その直後、スロットマシンが輝き、音声を発する
<リカバリー対象に宝玉を確認。対象の状態判定の結果…オールリカバリーをリバイブへ切り替えます
その言葉とほぼ同時にクラリの持っていたレイピアが一瞬輝き、一部の装飾が消失し、クラリの身体を柔らかい光が包んでいく
心なしか、クラリの顔色が良くなった様に見えた
これは一体…
(相変わらず謎が多いスキルだ…)
だが
「今ばかりは、感謝するしかねぇな。クラリ おい、起きろ!」
クラリを抱きかかえたまま、軽く揺する
「う、うぅ…凶夜さん…あれ、これは一体どういう状況ですかっ 抱え、抱えられてますよ!? うわぁっ血だらけじゃないですか!?」
「!?…まさか生き返す事も出来るなんて、キョウヤ様…流石にそれはズルが過ぎるんじゃありませんんん?」
「アプリ…!!」
既に回復したのか
クラリを殺した本人は、ケラケラと笑いながらこちらへ近づいて来ていた
「キョーヤ!」
「お前は隠れてろっ」
こちらに来ようとするミールを静止させる。クラリは蘇生出来たものの、状況から察するにまったくの偶然…イレギュラーだ
スロットマシンから発せられた宝玉というワード、恐らくアレがあったからクラリは蘇生出来たのだと思案する
(もう蘇生なんてものは当てにしない方がいい)
…にしてもレイピアに宝玉なんて付いてたか?
こいつとは、結構一緒にいるが、それらしいものを見た記憶が無いんだが…
だが、蘇生の為に消失した宝玉を確認するすべはもう無い
(何はともあれ、今はクラリが助かったことを素直に喜ぶべきだろうな)
全員で生きて帰る、凶夜の中での最優先事項はこれだけだ。そのためにも、これ以上アプリに構ってはいられない
「凶夜さんっ、もう離してください、大丈夫 大丈夫ですからぁ もう歩けますからっ」
おっと、クラリを胸に抱えたままだった
すまない、と謝りクラリを見る
「お前、その眼…」
「へっ?」
金色だったクラリの両眼は、紅と蒼の左右別々の色に染まっていた。