39.世界のルール
「あら?あらあらあらあら?不思議そうですわねぇ?」
「…そりゃそうだ。お前の言っている事は、まーーーったく説明になってねぇからな!」
『んー?なんのことですのぉ?』と、アプリは笑顔のまま首を傾げる
これだけだと可愛らしい動作なのだが、今までの奇行を考えると不気味に思えてしまう
しばしそのまま時が過ぎ、何か思い当たったのかアプリは手をぽんと叩いた
「あぁっ!なるほどですわぁ!キョウヤ様を魔王候補と断定した理由ですわよねぇ?簡単な事…スキルですわぁ」
「スキル…だと?」
「魔王候補はぁ何かしらユニークスキルを持っているんですのぉ…まぁそれがどんなモノかは自身で探すしか無いんですけどぉ…そして、そのスキルは同じ魔王候補には効かないんですのよ!ちなみにぃ 私のスキルは'これ'ですわぁ」
そう言うと、アプリは自身の左眼を指差す
…なるほどな。それが俺の場合はスロットマシンって事か?だからアプリには発動しなかったと
だけど、あれだな?投げて当てる事は出来そうだったんだが…
(スロットマシンが何かを発動する度に魔法って言っていたような…スロットマシンがスキルだとすると、魔法を生み出すスキルって事になるのか…?)
それよりも…自身で探すしか無い…か
確かに、スキルと言う割には俺の証明書のスキル欄には言語適応しか記載が無かった。つまり証明書みたいなものじゃ確認が出来ないスキルって事なんだろう
(俺がスロットマシンを見つけられたのは偶然って事か…いやぁマジで運が良かった)
ある程度頭の中を整理し、改めてアプリに向き合う
(そして…アプリの場合は…あの動作…)
「眼…視覚か?」
眼というとクラリが思い出されて嫌だなぁ…つーかあいつら何してんだろう、マジで使えねぇ
「そう、眼ですわぁ。私は視るだけで相手の魔力量やスキルが分かるんですのよぉ?この力は昔ある方から頂いたんですけれどぉ…最初は魔眼の様にまったく使えない能力だと思っていたんですわぁ…でも意外にぃ魔王候補を見つけるのに役立つんですのぉ!だって魔法を使っているのに魔力が見えなかったり、スキルらしきものを使っているのにそのスキルが視えなかったら…それが魔王候補って事ですしぃぃぃ!」
(…じゃあ俺はそれで視られて、こんなことに巻き込まれてるって訳か?路地裏でコイツを助けた時にスロットを使って魔王候補ってバレたか…こりゃ迂闊にスロットを使うのも考え物だな…)
(…もう一つ、ある方…?とか言ってたが…俺のギルドで発行した証明書にも誰のかわからないコメントがあった。何処にいるかはわからねーけど、俺がこの世界に来た重要な手がかりの一つである事には変わりなさそうだ)
「ところでぇ…キョウヤ様は魔王様がいると、存在すると知ったらどう思いますのぉ?」
(魔王か…)
ゲームでは馴染みの存在、最もこの世界では本当に存在している
悪魔や魔物達の王、その力は得てして強大、そして勇者によって討伐される存在…
でもまぁ、ゲーマーならこう言うだろうな
「敵なら厄介だが、味方になればこれほど頼もしい存在は無いだろうな。もしも会話が通じる相手だったら是非仲間にしたいね」
まぁ、仲間になるってのは割と最近の発想だけど
「あぁ…流石ですわぁあああ!そうそうなんですの!この国の人間はお馬鹿さんばかり…魔王様と聞けば討伐討伐討伐ぅぅぅ!無能なお猿さんばかりなんですの…違いますわっ、魔王様は味方につけてこそっ真価を発揮するんですわぁあああ!」
(なるほどな、だから魔王を作ろうってか)
だがー
「それなら作るんじゃなくて、既にいる魔王を仲間に引き入れる方が早いんじゃないのか?」
「もちろんそれが出来るなら、そうしていますけれど、教団が把握している現存する魔王様は二人しかおりませんのよぉ、’不死王’と’時間王’どちらも何処にいるかまでは分かりませんしぃ…魔王様は気まぐれでぇ、稀に世界を支配しようとしたりもするんですけど…そういう場合は大体’勇者’が滅してしまいますしぃ!逆に勇者を取り込もうともしたのですけれどぉ…話が通じない奴ですしぃあぁ忌々しぃ!」
(勇者、やっぱいるのか?そりゃ魔王がいたら勇者もいるもんだが…なんかアプリの言い方的に知り合いっぽいが…)
「だから私は、魔王様を作ることにしたんですのぉ。自分が魔王様になるよりも遥かに現実的ですし、あぁドラゴニュート様…甘美な響きですわぁああああ!」
と身もだえする
魔王になる、か 確かに’魔王候補’って事は魔王になれるはずだよな?
アプリの言う事を信じるなら、魔王になるのは現実的じゃないくらい難しいって事か?それこそドラゴンの死骸を集めて候補一人の命を犠牲にするよりも。情報が少なすぎて考えが纏まらない
いや
「ちょっと待てよ、魔王を作ってその後どうするつもりだ?」
「?」
首を傾げるアプリ
何だよ、その何も考えてませんでしたって顔は
え、まじで? まじで何も考えてなかったの?
「世界征服?」
「それ勇者が来るやつだろ?」
「あっ」
「『あっ』じゃねーよ!」
こいつ本当に大丈夫か? 若干クラリ臭がする
「…というのは、冗談ですぅ。教団を大きくするために信仰の対象にするんですわぁ!まぁ邪魔な人は消しちゃうかもしれませんけれど、ちょこちょこっとやる分には勇者もきませんわぁ…勇者もそんなに暇じゃないんですのよ?」
…マジかよ、この世界の勇者って結構薄情なんだな…考えてみれば一人で悪人を倒して回るんだ、小さい悪事にまでかまっていられないんだろうけど。にしてもイメージってもんがあるだろ?あるよな?あれ?この世界の勇者って日本で育った俺が想像してるドラク〇とかそういう感じの奴じゃないのか?
「まぁ、大体わかった。結論…俺は正義とか悪とかまったく興味ねぇけど、俺自身が平和に暮らすためにはやっぱりお前を倒さないといけないらしいな。'倒さざるを得ない'ってやつだ」
「あぁぁぁ、そう、そう、それですわぁ!私やらなくてはならない事は早めにやる主義なんですのぉ。ただぁちょっとだけ意地悪が好きで、遊んでたら時々失敗しちゃうんですけど…キョウヤ様は私のためにちゃぁーんと、バラバラになってくださいましぃ?バラバラばらばらばらにぃいいいいいいい!」
アプリの両手の指先が凶夜 目掛けて突き出され
そこに光が収束していく
「っ、結局容赦無しかよ! このサディストがぁぁぁああ」