37.スロット
「げほっげほ、どーなったんだ…?」
何とか爆発は収まったものの、部屋の彼方此方には火がくすぶり煙が視界が非常に悪い
スロットマシンの陰から身を出し、目を凝らして慎重に辺りを確認する
丁度正面、先程の男が居た場所を中心に地面が煤けており、今や男の姿は跡形も無い
(あの爆発だ、無理もないな)
俺自身はスロットマシンの陰に隠れたお陰で、無傷とは言え無いものの、爆発の直撃自体は回避する事が出来たが…
「あらぁ、キョウヤ様 余所見ですかぁ?」
「!?なっ」
刹那、煙の向こう、部屋の奥から一筋の閃光が走り、スロットマシンの横を掠め、そのまま’何か’が凶夜の右肩辺りを打ち抜く
「っ!?」
なんだ、何が起こった!?
肩が熱い…
左手で傷口を押さえる
が
「あ、あぁ? …腕が!? 腕があぁっ」
本来あるべき感触が無い事に恐怖を覚える
右手の感覚も
恐る恐る自身の右腕へ視線を向けるが…
無い、根元から
「あらぁ、少し素敵になりましたわねぇ?脆弱ですわねぇ…まぁいいですわぁ。魔王様的にはキョウヤ様の魂さえあればいいのですものぉ」
ニタァ
と、アプリは美しい顔を歪ませケラケラと嗤う
あぁ…冗談じゃねぇ、こんな所で死ぬのか?
俺は唯この世界で平和に暮らしたいだけなのに…痛みと訳が分からない悲しみで涙が溢れてくる
「あぁ・・キョウヤ様、良い、良いですわぁ でもでもでもでもぉ! まだ終わりじゃありませんことよ? さぁ、次は足ですわぁ」
アプリは両手を前に突き出し、呪文らしきものを唱え始める
「足を奪いなさい…ライトニングゥ」
呪文が唱えられ、先程と同じように閃光がキョウヤ目掛けて放たれる
「くそっ」
凶夜は咄嗟に爆発前に出現させたスロットへ身を隠す
光がスロットに直撃し、弾ける
「つまらないつまらないぃぃぃ、キョウヤ様、そんな無粋な真似を…愛を私の愛を受けるのですわぁっ愛をぉぉぉ」
ガリガリと頭をかき、絶叫する
(ささやかな抵抗くらいさせてくれよ…あんまり長く持ちそうにねぇ…くそが)
出血が止まらず薄れる意識の中、自分が背にしたスロットのレバーが視界に入る
何も考えられないが、おもむろにレバーを倒し、流れるドラムをボタンで止めていく
「キョウヤ様ぁ、早く出てきてくださいませんかぁ?ワタクシィ、待ちくたびれてしまいますわぁ」
コツコツと確実にこちらに近づいてきているのが足音で分かる
今の凶夜にとって、それは死そのものが近づいてきているに等しい
(随分と勝手言いやがる…)
凶夜が’タンッ’と、全てのボタンを押し終えた時、スロットがいつもの調子で機械音を発した
ビッグボーナス
オールリカバリーを選択します
「あらぁ?」
数秒、凶夜の体が光に包まれ
「マジかよ…」
傷一つ無い、状態で再生され、同時にスロットが粉々に砕け、凶夜はアプリの前に晒される
「あらあらあらあらあらぁあああ? キョウヤ様?そんな全回復なんて…聞いた事ありません。あぁ…濡れます痺れますわぁああ、でもぉ 大丈夫、大丈夫ですわぇ。また上手に壊し壊して差し上げますわぁ…何度でも何度でも何度でもぉぉぉぉぉぉ」
「っ…俺も正直驚いてるよ。全く…なんでも'アリ'なんだな流石は異世界って感じだ」
アプリがそれ程驚いていない様に見えるのは気にはなるが、ともかく俺はまだ生きていられる様だ
全くもって不条理なこの世界は、偶には俺の味方もしてくれるらしい
「スロットッ」
…ともかく、偶然掴んだこのチャンスだ
容赦はしない、間は与えない。そんな暇はどこにもない
(何故だか理由はよく分からねぇが、ともかくスロットが使えている今しかない)
凶夜はスロットのボタンをガムシャラに連打し、魔法を発動させる
が
「なっ…なんでだよっ」
絵柄は不揃いのまま
マシンは沈黙し続けるーーー