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36.既知の獣と世界の仕組み

「こりゃあ…急いだほうがいいぞい」

 

 激しい爆発音の後、村の入り口の方角から、炎が上がった

 幸いと言えるのか、今日は空も晴れており、建物の角度的にも見通しが良かったため、数百メートル離れている広場からでも爆発した場所はハッキリと見て取れた

 

「ミールさん…あれって」

 

「武器庫の方なんだよ!」

 

 きっとキョーヤに違いない。なんの確証も無いが、このタイミングはそうとしか思えない

 

 一体何が起きているのか見当もつかないが、ミールとクラリは驚きと言い知れぬ恐怖の中、爆発のあった方角へ向けて駆け出す

 

 たかだか数百メートルと言えど、建物で道が入り組んでいるため、広場から武器庫までは走って数十分は掛かる筈だ

 

(一刻も早く状況を確認しなくちゃなんだよ)

 

「ミールさん、あの爆発です。恐らく戦闘に入る可能性が高いと思うんですけど…さっきから僕の武器が見当たらなくて…たぶんさっきの酒場に置いてきちゃったんだと思うんです…それで、あの…えっと」

 

 おずおずとクラリが申し訳なさそうに言うが、確かに使われていなかった武器庫で、あんな爆発が自然に起きるとは思えない

 浮浪者からの不審なメッセージや、アプリと凶夜が行方不明という事を加味しても何かが起きていると考えた方が自然だろう

 

 となれば、あの爆発も何者かが起こしたのかもしれない

 

「大丈夫なんだよ、爆発のあった所が武器庫なら、さっきの酒場は途中で通るし、武器を回収しても大した時間のロスにはならないんだよ!僕は先に現場に向かうから、クラリは後で合流するんだよ!」

 

「っ、了解です!」

 

 パァと、クラリの顔が明るくなる、自分が足を引っ張る事を気にしていたのだろう

 

 (大丈夫、何かあったとしても僕だけでも時間くらいは稼げるんだよ)

 

 酒場まで辿り着き、クラリと別れ、ひた走る

 ミールの体では数百メートルの距離とはいえ、楽ではない

 疲れた足に鞭打ち、不安に押し潰されそうになりながら歩みを進める

 

(キョーヤ…大丈夫なんだよ?)

 

 全て杞憂で終われば良いのだがーーー

 

 

 ---------

 

 

「あ、あの! 誰か居ませんかっ!」

 

(はやく、ミールさんに合流しないと…)

 

 声を掛けては見るものの、酒場は静まり返り、人の気配は無い

 

「可笑しいな…朝は猫族の店員さんが居たんだけど…、おーい」

 

 仕方なく、周りを見渡し武器を探す

 

「確か昨日は、酔いつぶれてトイレで…それからテーブルに…あれぇ?」

 

 思い当たる場所は粗方(あらかた)探したが、どうにも見当たらない

 

「一体何処に…」

 

 それ(ほど)(ひろ)くは無い酒場を探し尽くし、途方に暮れる

 

「こんな所で時間を取られてる場合じゃ無いのに…」

 

 再度、辺りを見回すが、明かりが落とされた酒場は一種の不気味さを醸し出している

 はっきり言って、あまり長居のしたい場所ではない

 

「しょ、しょうがないですね…私には魔眼があるじゃないですか!?もう武器は諦めてミールさんのと所へ急ぐしか…」

 

 ふと、自身でも頼りないなと思ったが、かぶりを振りその不安に(ふた)をする

 

 ともかく今は合流する事が先決だと自分に言い聞かせ、店を(あと)にしようとしたその時

 

 丁度、入り口の扉を開いた所で外に立ってキョロキョロしている猫耳の店員と目が合った

 

「あ、いたいた!これあなたのでしょ?いやぁ、お姉さん探しちゃったよ!よかった~、前回とは違うところに居るんにゃもん焦ったよー!」

 

 仕事終わりからか、昨日の様な仕事着では無く、動きやすそうなハーフパンツに2、3枚の布を巻いた様な出で立ちで現れた店員はクラリを見て心底安心した様に息をついた

 

「探し物はこれかにゃ?」

 

 そう言うと猫耳の店員は手に持った何かに巻かれた布をするすると外していく

 

「あ、あああ!!それ私の!ぶへあぁっ」

 

 あまりに突然の探し物の出現に、詰め寄ってそのまま盛大にこけるクラリ

 

「あああっ、だ、大丈夫かにゃ!?」

 

 そこに現れたのは青い薔薇の装飾の施されたレイピア、馴染み深い自分の剣だった

 

「あ、はい…それよりも、ありがとうございますっ」

 

「いやいや、そもそも気がつかなかった私も悪かったしにゃあ、ほらこれ 早く仲間の所に行かにゃいと、でしょ?」

 

「そ、そうです、私の助けを必要としているに違いないですっ」

 

 剣を受け取り、「このお礼は必ず」と颯爽と駆け出すが

 

「ぶへぁっ」

 

 何かに躓き盛大にこける

 

 

「…なんのこれしきっ、我が魔眼の活躍の時、逃してなるものかぁぁぁぁぁあああ」

 

 

 そのまま、ガバァッと起き上がり砂埃を巻き上げながら武器庫の方ヘ消えていく

 

 

 

「あはは、大丈夫かにゃあ…がんばってね。今度こそ」

 

 

 

 猫耳の店員は走り去るクラリを見ながら呟いた、まるでこうなる事を知っていたかの様な口ぶりで

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