35.戦いの行方と狂女の咆哮
「くそっ!どーなってやがる!?」
アプリの攻撃を躱わしながら、隙をみてはスロットを呼び出し、ボタンを押すも出目はことごとく外れる
遂に、残メダル数が20を切ってしまった
(1回転で3枚消費する事を考えると…ボーナスが引けない場合、回せるのはせいぜい6回ってとこか…いよいよまずいな)
スロットを失ったら、俺に攻撃手段は無い
さっきからスロットマシン自体を投げても躱されてしまい、全く当たらない。アプリ…あいつは中国雑技談か何かか?
そして奇声を上げながら躱していく様はちょっとどころか、かなり怖い
そうこうしてる間もアプリは狂った様に笑い、両手を空に向ける
「やはり、やはりぃぃぃ、私の見立てに間違いはありませんでしたわぁっ!でもぉ、まだ…そうですわぁ、貴方ちょっとお相手してあげなさいな!」
アプリの命で入り口で待機していた男が凶夜に対峙し、咆哮する
「がぁぁぁぁぁぁ」
目の前の男は、まるで某格闘漫画の主人公の様に両手を腰に当て気合を入れると
みるみるムキムキになり、服は盛大に破れ、顔と腕の太さが同じくらいという出鱈目な風体に変貌していく
「まじでか…っ!?どんな戦闘民族だよっ!」
男は無言のまま、凶夜目掛けて突っ込んでくる
「話も通じねぇのかあああ!あぶねぇええええ!」
「…」
(そろそろマジで死んでしまう!)
スロットはさっきから使えない
どうしたらこの状況から脱せるかを考えながら、ステップで男の攻撃を躱すと凶夜がいた場所に男が突っ込み、豪快に地面が抉れる
「ひぇっ、動きは直線的だから回避するのは難しくないけど…あんなんくらったらバラバラになってしまう!」
二度三度と追撃してくる男の猛攻を、ギリギリのところで躱し続ける。しかし、じわじわと壁際に追い込まれていく
「きりがねぇ!ていうかもう後もねぇえええ!」
「ふふふ、キョウヤ様ぁ、逃げてばかりでは…というよりもう逃げられませんねぇええ。どうですか? さっきのスロット?というものを使ってみては?」
「何言ってやがる、分かって言ってるだろ!性格悪いぞ!さっきから一回も成功してないだろ!ていうか、お前がこの男を止めてくれればいいだけなんですけどぉぉぉ!」
ドゴォという轟音と共に地面が抉られる、凶夜は間一髪飛びのいてそれを躱す
「あら? 私ぃ強い男が好きですのでぇ…その愛の信徒如きに負けるようであればぁキョウヤ様は残念ですがぁ死んだと思う事にしますわぁ!」
「ていうか死ぬからね!今まさに!ぜってぇ後悔すんなよ!」
「大丈夫ですわぁ。魔王様の血肉として蘇生させて差し上げますからぁ。さぁ…やぁーーっておしまいぃ」
「お前それ、ただの生贄じゃねーか!」
…どうせ死ぬならスロットのメダルを使い切ってやる…いや、死にたくねぇけど!死にたくねぇけど!これ絶対逃がしてくれる感じじゃないしぃぃぃ!
「スロットォ!」
出現したスロットのレバーを叩き、勢いよくボタンを弾いていく
(あぁ、神様!スロットの神よ!俺に力をぉぉぉぉおおおお!本当になんでこんな目にあってるの?不条理すぎるだろ!って…いや?いやいやいやいやっ!)
「よーーーーーーく考えたら俺が命乞いするのは可笑しいよな!?なんで俺が神に祈らなきゃならんのだっ!そっちだろ、このクソ悪党が!魔王なんて操ろうとしているお前が、お前等が!俺に追われて命乞いするべきだろーがぁぁぁ!」
タンッと最後のボタンが弾かれる
「えっ?あっ、そ、揃った!?やったーーーー!!」
スロットマシンのアイコンが輝き、フィーバーと無機質な機械音が鳴り、追加のメダルが補充される
炎の柄が揃い、人大の炎球が男の眼前に現れ、そのまま男の全身を包み込む
「…ぐおぉぉ!?」
尚も男は凶夜目掛けて手を伸ばす
「よっしゃあああ!そのままぁ、灰になりやがれぇっ!」
炎は男を包み込んだまま、さらに膨張していく
「あらぁ、あらあらあらあらあら、キョウヤ様ぁそれは少しやりすぎではないんですのぉ?でもぉ、私も見たいですわぁ。綺麗な綺麗なぁ…は・な・びぃぃぃぃぃぃ!
なっ…何を言って…
膨れていく炎にアプリが何かを唱え…
「ぼん♪」
アプリの指先から光が放たれ炎が急速に膨張していく、これは確実にマズイ。尋常では無い炎の勢いを目の当たりにし、凶夜の本能がガンガンと警告を鳴らす
「!?なんなのお前バカなのぉぉぉ!?スロットスロットスロットォォォ!」
刹那ーー
炎が弾け、フロア全体が光に包れた