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30.無慈悲な一撃

「マジで一体何がどうなってんだよ…」

 

 凶夜は途方に暮れていた

 それもそのはず。煩いネズミ共を足で散らし、軋むベッドから体を起こして周りを見ると灰色の壁で囲まれていたのだ

 

 一方向だけは黒い鉄格子を介して通路が見てとれる

 

「これほど『自分は牢屋です!』って自己主張してる場所もねーなぁ…」

 

 鉄格子の向こう側にある通路は漆黒の闇に覆われ、まったくもって先が見えない。結構な距離があるのだろうか?

 

(結構寒いな…ベッドもシーツはペラッペラだし、腹が冷える…)

 

 不幸中の幸いと言って良いのか、牢獄内にはベッドとトイレだけは付いていた

 衛生的には良いとは決して言えない環境だが無いよりは断然マシだ

 

(くそ、このままここに居ても飯が出てくるとも限らないしな。何とかして脱出しなければ)


 だが大抵、牢獄から出される時は無罪か死刑になる時ってのが相場だ

 

(うーん…俺の立場がどうなってるのか判らない以上、迂闊な行動はとれない気もするんだよなぁ)

 

 脱走…も可能ではあるだろう。一応魔法がある、壁とか壊して飛んで逃げるとかも出来なくは無いだろう…でもそもそも何故牢屋にいるのかがわからない。下手に動くとよくない方向になる可能性もある

 

(それに指名手配とかされたらキツイしなぁ、逃亡生活になるのはなぁ…)

 

 顔を変えるとか、相手の記憶を消すとか出来るだろうが流石に抵抗がある

 

「ぐああああ、どーしたらいいんだあぁぁぁぁ」

 

 ぁぁぁーーーぁー ぁー

 

 と、大げさに叫んでみたが

 

 うん、誰も来ない

 

 となると、あと頼りになるのはクラリとミール、それに…アプリか?

 

 知り合ったばかりのアプリがどうにかしてくれるとは思えないが、一応好いてくれてたみたいだし、ちょっとくらいは期待してもいいんじゃなかろうか?

 

(とりあえず、すぐにはどーにかなりそうもないし、寝ておくか。二日酔いで頭めっちゃ痛いし)

 

 

 ---

 

 

 お客さん

 

 うーん

 

 お客さんっ

 

 もーちょっとだけぇ

 

 お・きゃ・く・さ・ん!!

 

「はひっ!」

 

「やーっと起きたにゃ」

 

 ミールはキーンとする耳を庇いながら、寝ぼけ眼をゴシゴシと擦る

 

「うーねむいー」

 

 ぼやけた視界が段々とクリアになってくると

 

 そこは、昨日3人で教団の人間…アプリに会うために訪れた村の酒場のテーブルの上だった

 

「寝かせる場所が無くてにゃー、これがおっさんだったら床に放置するんにゃけど…流石に女の子は、と思って。お連れの方もそこのテーブルに寝かしてますから、連れて帰ってくださいにゃ、あとお代は先に帰ったお兄さんから頂いてるので大丈夫ですのにゃー」

 

「あ…は、はい」

 

 ボーっとする頭で猫娘店員の言う事を聞き流していると、少しずつ頭がハッキリとしてきた

 

 そういえば、昨日はエールを沢山飲んで…クラリが倒れて、それから…

 

 

 あっ

 

 

「キョーヤ!キョーヤは?」

 

 やっと状況を理解したのか、慌てて周りを見渡すミール

 

「だから、お連れのお兄さんなら先に帰りましたにゃー、なんかきれーにゃ女性の方と一緒でしたにゃ」

 

「女性?…アプリ…アプリコットなんだよ!」

 

 ようやく、思い出した…あの二人は僕がトイレに行って戻って来たら居なくなってて、それで、机に大量のエールが置いてあって…とりあえず飲んで待ってたら…

 

(やられたんだよ!)

 

 あの二人、僕を巻いたんだよ!ぐぬぬ…許さないんだよ!

 

 巻かれた事と、二人でいちゃついている姿を想像して、非常にイラッとする

 それと同時に、嫌な予感がした

 

 昨日のアプリの態度はキョーヤに好意的に見えたものの時折違和感があった…気がする。それが何なのかはわからなかったが、少なくとも、相手は評判の良くない教団の人間なのだ、用心するに越したことは無い

 

(キョーヤに会わなくちゃなんだよ)

 

 これが杞憂で普通に2人がイチャついていただけなら、それはそれで殴ろうと心に決めて立ち上がる

 

 まずはクラリを起こすために周りを見渡す、するとテーブルにうつ伏せになって微動だにしないクラリが目に入った

 

「クラリ!起きて、キョーヤが危ないかもしれないんだよ!」

 

「うーん、むにゃぬうにゃぁ」

 

「『むにゃぬうに』って痛いんだよ!うぐぅ…それどうやって発音してるの、もう舌噛んじゃったんだよ!」

 

 口を押さえながらクラリの頭をポンポン叩く

 

「もうちょい!もうちょいだけ寝かせてください!起きてないですよ起きてない二度寝させてうぬにゃー…チラリ」

 

 幸せそうに涎を垂らしながら眠る振りをするクラリ

 

「…絶対起きてるんだよ?緊急事態だし起きないクラリが悪いんだよ」

 

 ガッとテーブルに配置されている丸椅子の足を掴む

 

「ちょ、ちょま!それは流石に危ないんじゃないでしょうか!」

 

 ガバァっと飛び起きるクラリ。しかし、時既に遅し。無慈悲にも椅子が振り下ろされたのだった

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