27.ロマンスの不祥事
(それにしても―――こうして酒場にいると外国にでも来たみたいだな。まぁ、異世界なんだから外国のようなもんだけど)
一見して、みんな和気藹々と酒を飲んでいるように見えるものの日本人が観光で行くような場所とは比べ物にならないくらい治安は悪いだろう
暫く、ボーっと酒場を眺めていると
「おまちどぉーさま!」
どんっと勢いよく3つのエールがテーブルに置かれた
持ってきたのはさっき注文を受けてくれた店員だ
「おう、ありがとな」
「どーいたしましてにゃ、一緒におつまみは如何かにゃ?丁度良い木の実が入ってるのにゃ!」
「木の実か…クルミとかピーナッツみたいなもんか?じゃあ、そいつも頂こうかな」
「まいどー!っにゃ」
いい笑顔でそう言うと、店員は身を翻し、しゅたたたたと言わんばかりな動きでカウンターへと消えていった
「なぁ」
「ん、何かあったんだよ?」
既に口の周りを泡で汚したミールが不思議そうにこちらを見る
クラリに至っては、グラスの中身が半分近く無くなっている、プハァっとか言ってるし
こいつ等、飲みなれてやがるな…まぁいいけど
「さっきの店員なんだが…尻尾あったよな?」
触れちゃいけないものに触れる様な気がして、思わず口ごもってしまう
だが―――自分の中にある1つの答えを確かめるために聞かなくてはならない
「あったんだよ」
ミールはさも当然かのように、それに答える
「語尾が’にゃ’だったよな」
「うん、そうなんだよ?それがどうしたのキョーヤ」
「…猫族とか?」
「うーん、あれは獣人族だと思うんだよ。キョーヤが言うように猫族とか犬族とか細かい分類もあるみたいなんだけど、大体は獣人族でひとくくりにされるんだよ」
「なるほど」
スカーフか何かを巻いていて猫耳が見えなかったから、確信が持てなかったが…やっぱり獣人かっ
あぁ…もふもふと美少女の融合…素晴らしい!あれはいいものだ!
「どうしたんですか凶夜さん、目が犯罪者みたいになってますよ…」
「誰が犯罪者だ。お前なんて存在自体が犯罪みたいなもんだろ、この中二病仮面マニアが!」
「なっ―――酷いですよっ、酷いですっ!訂正してください!私は仮面マニアじゃありません。由緒正しいマガニストです! 」
「うっせー!どっちでもいいわ。ってか、そこかよ」
本当にお前はそれでいいのか
「ダメです!訂正してくれるまで凶夜さんの背中に張り付きます!」
「はいはい…ご自由にって、はぁ!?」
「四六時中…寝る時も病める時も健やかなる時も張り付きます!えい」
そう言うと同時に、ふらふらと凶夜に抱きつくクラリ
「うおぉぉいっって酒くせぇ!お前一杯で酔っ払ってんのか!?」
「えへへー、離しませんよぅ」
「マジでなんの耐性もねぇのなお前」
「あ、店員さん。エールおかわりー」
「はいよー。あとこれ、おつまみの木のみですにゃー」
「わー、これガラの実だね。甘酸っぱくて美味しいんだよ!」
横では、我関せずという顔でもくもくとエールを流し込み、木の実を頬張るミールがいた
「お前ら…いい加減に―――!?」
クラリを振り払い、ミールの木の実を奪おうとした、その時
入り口に現れた人影と目が合った
「あらあら、キョウヤ様? お待たせ致しました…このお連れ様達は―――」
その人物はアプリコット・ミレーヌ。凶夜達が酒場に来た目的の人
今の凶夜達は、酔っ払いの集団に見えるだろう…
「はぁ、最悪のタイミングだ…」
凶夜のその呟きは、酒場の騒音にかき消された