25.争いは何も生み出さない
「というわけだから。今夜は帰らねぇわ!」
「『というわけだから』じゃないですよ! 凶夜さんっ、本当に真面目にやる気あるんですかぁっ?」
クラリは正義は我にありと言わんばかり胸を張り言い放つ
自分の事を棚に上げてよく言うなコイツ…
少なくとも、怪しい店でショッピングしてただけの奴には言われたくない
「あのな? 俺がただ遊び…童貞を捨てたいが為に!夜の酒場へ!お前らとは比べ物にならない美少女に!会いに行くと思ってんのかぁ!」
だん!と勢いよく机を叩くが
「むしろ今の台詞に全てが集約されている気がするんだよ」
「ほんと、クズの極みですね。特に美少女の下には熱が入り過ぎていて若干引きます」
2人の視線が痛い
…普段からこんな感じな気もするけど
「…相手は教団の人間だ。かなり有益な情報が手に入ると俺は踏んでいる」
それらをスルーして俺は続ける
「話を逸らされた気がしますが…わかりました、凶夜さんの言うことも一理あります。そこまで言うなら私達も同行しましょう!」
そう言うクラリの横で、うんうんと頷くミール
「は?」
思わず、心の声が漏れる
こいつら分かってるのか?
美少女と夜に酒場で2人きりなんて、俺の人生に一度だって無かった…いや今後もあるかどうかって出来事だぞ?
そう、まさに夢だ。ドリームチャンスだ。エクストリームエロスだ。このチャンスを逃したら絶対後悔する。それをコイツ等なんて連れて行ったら…唯の情報収集で終わってしまうに決まっている!
いや情報は必要なんだよ?必要なんだけどね…正直今はどうでもいいというか
「だめだ…!お前らを危険な教団の人間に合わせる訳にはいかない!」
ドンッと机に拳を打ち付けて『くぅ…』と苦々しい顔をする凶夜
数秒ーーー2人の反応が無いので、薄っすらと目を開けてクラリとミールの様子を伺う
じとーーー
そこにはこちらをジト目で伺う2人が居た
「キョーヤ」「凶夜さん」
「は、はい…」
2人の圧力の前に思わず口ごもる
「そろそろ行きましょうか」
「なっ、だからお前らを連れて行く訳にはいかな…」
「キョーヤ」「凶夜さん」
「うっ、わーったよ…くそぅ」
結局、2人に根負けして、同行して酒場に向かう事になってしまった
(くそ、まぁいい。まだチャンスは絶対あるはずだ)
「何か言いました?」
「い、いや…」
「丁度良いし、向こうでご飯も食べるんだよ」
「いや、ちょっと待てよ!そんな金は」
「キョーヤは相手の女の子にご飯代出させるつもりだったの?」
「なに言ってんだ、もち奢るに決まってるだろ? そんなところでケチな男だと思われたらその後がーーーはっ!」
しまった、これは罠だ
「だよね じゃあ、ご馳走になるんだよ」
と、いい笑顔で言い切るミール
凶夜は肩を落とし、己の無力さを痛感する
所詮俺なんてミールの掌で踊らされていたに過ぎないのかーーー
こうして、3人で酒場へと向かう事になってしまった凶夜、果たして2人を巻いて美少女との甘いアバンチュールへ繰り出す事は出来るのだろうかーーー