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25/111

25.争いは何も生み出さない

「というわけだから。今夜は帰らねぇわ!」


「『というわけだから』じゃないですよ!  凶夜さんっ、本当に真面目にやる気あるんですかぁっ?」


 宿屋の一室にて。  クラリは「正義は我にあり」と言わんばかりに無い胸を張り、言い放つ。


 自分の事をたなに上げてよく言うなコイツ……。  少なくとも、怪しい店でショッピングしてただけの奴には言われたくない。


「あのな?  俺がただ遊び……童貞を捨てたいが為に! 夜の酒場へ! お前らとは比べ物にならない美少女に! 会いに行くと思ってんのかぁ!?」


 ダンッ! と勢いよく机を叩き、俺は潔白を主張する。


「……むしろ今の台詞に、全てが集約されている気がするんだよ」


「ほんと、クズの極みですね。特に『美少女』のくだりには熱が入り過ぎていて若干引きます」


 2人の視線が痛い。  ……普段からこんな感じな気もするけど、今日は特に零下10度くらいの冷たさを感じる。


「……あー、こほん。  相手は教団の人間だ。かなり有益な情報が手に入ると俺は踏んでいる。これは高度な潜入捜査なんだよ」


 それらの雑音をスルーして、俺はもっともらしい理由を並べる。


「話を逸らされた気がしますが……わかりました。凶夜さんの言うことも一理あります」


 お、分かってくれたか?


「そこまで言うなら、私達も同行しましょう!」


 そう言うクラリの横で、うんうんと頷くミール。


「は?」


 思わず、心の声が漏れる。  こいつら分かってるのか?


 美少女と夜に酒場で2人きりなんて、俺の人生に一度だって無かった……いや今後もあるかどうかって出来事だぞ?


 そう、まさに夢だ。ドリームチャンスだ。エクストリームだ。  このチャンスを逃したら絶対後悔する。それをコイツ等なんて連れて行ったら……唯の情報収集で終わってしまうに決まっている!


 いや情報は必要なんだよ? 必要なんだけどね……正直今はどうでもいいというか、優先順位が違うというか。


「だめだ……! お前らを危険な教団の人間に合わせる訳にはいかない! 俺一人で十分だ!」


 ドンッと机に拳を打ち付けて『くぅ……俺はなんて仲間思いなんだ』みたいな苦々しい顔をする凶夜。名演技だ。


 数秒ーーー。  2人の反応が無いので、薄っすらと目を開けてクラリとミールの様子を伺う。


 じとーーーっ。


 そこには、疑いの色を通り越して「無」の表情でこちらを伺う2人が居た。


「キョーヤ」 「凶夜さん」


「は、はい……」


 2人の無言の圧力の前に、思わず口ごもる。


「そろそろ行きましょうか」


「なっ、だからお前らを連れて行く訳にはいかな……」


「キョーヤ」 「凶夜さん」


「うっ、わーったよ……くそぅ」


 結局、2人に根負けして、同行して酒場に向かう事になってしまった。  俺の春が……。


(くそ、まぁいい。まだチャンスは絶対あるはずだ。現地で撒いてしまえばいい)


「何か言いました?」


「い、いや……」


 勘のいいガキは嫌いだよ。


丁度ちょうど良いし、向こうでご飯も食べるんだよ」


 ミールが準備をしながら言う。


「いや、ちょっと待てよ! そんな金は……」


「キョーヤは相手の女の子にご飯代出させるつもりだったの?」


「なに言ってんだ、もち奢るに決まってるだろ?  そんなところでケチな男だと思われたらその後がーーーっ!」


 しまった、これは罠だ。


「だよね。じゃあ、僕たちもご馳走になるんだよ」


 と、満面の笑みで言い切るミール。


 凶夜は肩を落とし、己の無力さを痛感する。  所詮、俺なんてミールの掌で踊らされていたに過ぎないのかーーー。


 こうして、3人で酒場へと向かう事になってしまった凶夜。  果たして2人を巻いて、美少女との甘いアバンチュールへ繰り出す事は出来るのだろうかーーー。

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