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23.通りすがりのヒーローさ

 乗り掛かった船だ。とことんやってやろーじゃねーか!

 

 …アニキの方は俺の趣味に付き合って、盛大に投げ飛ばさせてくれたわけだし

 

 そのアニキの方へチラリと目を向ける

 壁に沿って置かれていた樽の上に落下したのだろうか、散乱した樽の残骸に埋もれていて、ピクリとも動かない

 

 死んでないよな? …死んでないよね?

 

「おめぇは何をぶつぶつぶつぶつ言ってやがるんだぁあああ、ここで死ぬんだよテメェはよぉおおお!?」

 

 アニキに気を取られていたら、いつの間にか半裸のゴロツキのテンションは最高潮になっていた

 

 なんだコイツ…危ない薬でもやってんじゃないの?この世界にそんなものが存在あればだけど

 

 それにしても、今にも飛びかかってきそうな勢いである。不意に『最初からクライマックスだぜ!』という某特撮ヒーローのセリフを思い出す

 

 (…変身ヒーローか、ふーむ)

 

 うん、面白そうだ。俺自体がこの世界からしたら異分子だし、これから正体を隠す場面も出てくるだろう。こういうのってファンタジーのお約束だしな。この場にいるゴロツキと女にはバレちゃうけど、それくらいなら大丈夫だろ、きっと

 

 凶夜は、うんうんと頷き

 

「よっしゃ、決めたわ!」

 

 割とあっさりと決断した

 

「あ、ああああ?さっきからなんなんだよぉ!もういいから死ねよぉ!」

 

 凶夜の態度にイラついたのか。それとも色々限界だったのか。ゴロツキは手に持ったナイフを構え、凶夜へ飛びかかってくる

 

「スロット!」

 

 ゴロツキがナイフを振り下ろすとほぼ同時に、凶夜の目の前にクリスタルの輝きを放つスロットマシンが召喚される

 

 ガキンッ

 

 ナイフとマシンがぶつかり合い鈍い音を放つ。しかし、マシンはナイフを難なく弾きかえし、傷一つついていないのが見て取れる

 

(…フォリンは村内での魔法はご法度っつってたけど、これは自衛のためだし、しかも女性の命もかかってるからセーフだよな?)


 うん、緊急避難ってやつだよな。ほら、あんな端っこで震えてるし、早く助けてやらないと!と、誰かに言い訳でもするかの様に考えを巡らせる事、数秒

 

 ナイフを弾かれたゴロツキは目を見開き驚愕している、そんなに魔法が珍しいんだろうか?

 

 ミールはそこまで驚いてなかった気がする。冒険者的には珍しく無いけど、一般人的には珍しい、とか?まぁ、こんな半裸で奇声を発する一般人は嫌だなぁと思いながら周囲を見渡す

 

(俺に向かってきてくれたおかげで、ゴロツキと女との距離が離れたな)

 

 これで、女への被害を気にせずコイツをぶっとばせる

 

「ま、魔法だって!? お、お前まさか魔術師かぁぁ?」

 

 また、おあつらえ向きなセリフを、ここまで完璧な引き立て役だったとはゴロツキ弟侮りがたし…せっかくだし、ここは乗っかるしかないだろう

 

「違うな…間違っているぞ」

 

「な、なんだと!?」

 

 ビシッ、といつかテレビでヒーローがやっていたポーズを真似て決め台詞を言う

 

「俺は通りすがりのヒーローだ、俺に遭遇した事を後悔しろ、変身!!」

 

「お、お前は一体!?」

 

 ゴロツキは驚愕の表情で一歩後ずさる

 

(…コイツ仕込みとかじゃないの?ノリが良過ぎない?)

 

 ゴロツキのモブっぷりにちょっと感動しながらも

 厨二病臭いセリフにちょっと後悔もしつつ、口上と同時にスロットマシンのボタンを押し切る

 

 瞬間、光と旋風が巻き起こり、凶夜を包み込んだ。光に包まれると同時に自身の体が変化していくのが分かる…本当に変身出来るかは半信半疑だったが、これはもしかしてもしかするのだろうか

 

「ちきしょう、なんだこの風はぁ!てめぇ何しやがる!!」


 ゴロツキが吼えると共に旋風が収まり、その中心には、琥珀色のライダースーツ姿の凶夜が立っていた。顔は同じく琥珀色でバイクのフルフェイスメットに近いデザインだ。ただ、視界のレンズ部分は金色に輝いている

 

 そして、手には鉄パイプの様な…というか、まんま鉄パイプが握られていた

 

 ……うん

 

 これテレビで見た事あるわ、密着警察24時とかそんなんで見たやつだわ

 

 ちょっと待って…どう見ても暴走族なんですけど?

 せめて、もうちょっと武器はなんかあっただろ

 

 華麗な変身シーンからコレが出てきたら子供もトラウマもんだよ!

 

「うわぁぁぁぁ、 な、なんだ く、くそがぁあ、姿が変わったくらいで俺がビビるとでも思ってんのかぁ!」

 

 めちゃくちゃ驚いてる…取り乱しまくりだ

 確かに、俺も急に目の前に鉄パイプ持った族が現れたら取り乱す自信はあるけど…

 

 ゴロツキは口では虚勢を張っているが、足がガクガクと震えているのがわかる

 

 にしても

 

「なんだこれ、見た目はアレだけど、めっちゃ体軽いな…あれぇ?こんなところに悪人がいるなぁ?ちょっと試させてもらうぜぇ」

 

 凶夜はニヤリと笑うと手に持った鉄パイプ(仮)を地面にガリガリと引きづりながらゴロツキへと近づいて行く

 

「ひぃっ」

 

 こうして、この世界に悪人が1人誕生したのである

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