21.調査中ってほんとかよ?
「私が聞いたのもミールさんと似た様な話だったんですけど、一つだけ違う点がありました!」
クラリがいつになく真剣な面持ちで続ける。 つーか、コイツちゃんと情報集めてたんだな……。宿屋に来てからずっとオセロばっかりやってたと思ったんだが。 あ、でも初日はいなかったから、そん時か?
「そう、それは私がいつもの様に、行きつけの『魔眼ショップ』に行った時の事です」
「……魔眼ショップ?」
なんだそりゃ? 初耳なんだが。 俺の疑問を他所に、クラリは自信満々に鼻息を荒くして続ける。
「そう! 魔眼を愛する者! マガニストによるマガニストのための専門店! 眼帯からカラーコンタクト、マントまで幅広く取り揃えてるんですよ! あぁ、この話を聞いた時も新作の『封印されし眼帯(刺繍入り)』を見に行った時でした。くぅっーーー! しかし、ローブも欲しいんですよね! 燃えるような真っ赤なヤツか……もしくは、まるで闇夜に溶けるが如く漆黒のがぁ!」
「……お前、それただ単に買い物に行っただけじゃねーか」
「ギクゥ!」
クラリは、ギギギと錆びついたブリキのおもちゃのような動きで、俺から顔ごと視線を逸らす。
「『ギクゥ!』じゃねーんだよ!」
つーか、なんだその動き。漫画か。
「いやっ、でもですね! ちゃんと情報も集めるつもりでしたし、彼処には生粋のマガニスト達が集いますから、情報の宝庫で……」
うわぁ、これ絶対嘘だわ……。さっきから目を合わせようとしないのがいい証拠だ。 どうせ情報ってのも、店員との雑談で偶々(たまたま)聞いたレベルの話だろう。 大丈夫、初めから期待していないし。ダメージは少ない。
「あ、なんですかその目はぁ! 今失礼な事考えてますよね! ゴミを見るような目でしたよ!」
ちっ、微妙に勘が良いのが若干ムカつくな。
「わーった、わーったから」
両手を仰ぐように投げやりに振る。 このまま放っておくと、言い訳とマガニストとやらの熱弁で貴重な1日が終わってしまうからな。これ以上産廃スキルの話は聞きたくないので話を戻させ様とする、が。
つい。
「でも、なんであんな産廃スキルにそんな熱心な愛好者がいるんだろーな?」
と。 我ながら余計な一言を言ってしまった。言った瞬間に「あ、これアカンやつだ」と気が付き後悔した。後悔先に立たずである。
「キョーヤ……」
ミールもクラリがこのネタに食いつくのは読めたのだろう、げんなりとした顔で非難を含めた声をあげる。
「ふふんっ、凶夜さん……貴方は、魔眼が相手の強さを知るだけのスカウター的なスキルだと思ってるんでしょうが、それはっ! 大きなっ! 間違いです!! 魔眼とは、それはもう秘められた力が、漆黒の闇が光で掻き消えるくらいのインパクトがある、最強のスキルなんですよ!」
「はぁ? 厨二病もいい加減にしろよな。現にお前はたいして使えてねーじゃねぇか」
まったく、何を言うかと思えば。 魔眼が産廃スキルなのは、身をもってクラリがドゥムドゥム戦(逃走劇)で証明している。
「僕もそんな話聞いたことないんだよ」
と、ミールが追い打ちをかける。
「本当なんですってぇ! 信じてくださいよぅ! 『魔眼の魔王』の話くらい知っているでしょう? あの魔王の魔眼は、目を合わせた相手を意のままに操る事が出来るとか、見たものを黒い炎で燃やす事が出来るとか、自身が不死だったとか、色々な逸話があって……マガニストの間では神聖な存在なんですよぅ……」
しくしくよよよ……と、ミールにまで知らないと言われたのが余程ショックだったのか、クラリは机に蹲ってしまった。
にしても魔王を神聖視って……。 そんなこと公衆の面前で言っても大丈夫なのか? 異端審問とかでバチバチに裁かれそうなセリフなんだが。
「あぁ、僕もそれなら聞いた事あるかも……この世界の魔王の1人だよね。 でも数百年前の話だし、お伽話みたいなものだよ。それに今の魔王は魔眼を使うなんて聞いたこと無いから、真偽は確かめようが無いんだよ」
「ん……? 魔王ってのは世代交代制なのか?」
「ううん、歴史の中でも複数の魔王が存在した事もあったみたいなんだよ。 ただ存在してても自分から名乗り出ないと人々には認識されないでしょ? だから身を隠した魔王は、今も生きているかもしれないって話なんだよ」
「ふーん」
そりゃそうだよな。魔王免許証とかあるわけじゃないし、自分から名乗り出なけりゃ魔王だとは分からない。 そういや俺もステータスに『職業:フリーター(魔王)』とか魔王候補とか書かれてたなぁ。 まぁ? なる気も無いし。あれの所為で行動が制限されていい迷惑だ。
にしても……魔眼の魔王ね。 俺からしてみればその話の方が魔眼のイメージとしてしっくりくる。ドラゴンの時もそうだったが、魔眼を使う魔物は俺が昔やったゲームにも居たんだよなー。やっぱりそいつも相手を石化させたり燃やしたりしていたはずだ。 この世界がある程度ゲームと同じと仮定するなら……本来、魔眼は強スキルのはずだ。
「なぁ、人間で魔眼を攻撃に使える奴ってのは今までいなかったのか? 例えば相手を操ったりとか」
「……ッ! 凶夜さん、ついに魔眼の素晴らしさに気がつきましたか! ……でも残念ながら、今までそういった話は聞いた事がありませんね」
しょぼん。 一瞬、元気を取り戻したが直ぐに俯いてしまった。まったく忙しい奴だ。
にしても、何か条件でもあるのだろうか? 特殊スキルの開放条件とかは大体レベルだったり、ある魔物を倒したり……職業、つまり転職した時と相場が決まっているんだが。
でも、そんな条件なら今までに人間から攻撃用の魔眼に覚醒した奴が出てもおかしくないしなぁ。それでも無いって事は、魔物しか扱えないスキルの可能性もある、か……。
「まぁ、これは考えてもしゃーないしな。でお前の持ってきた情報ってのは結局なんなんだよ?」
「あ、それですね! 実は……あれ?」
クラリがうーんうーんと頭を捻る。 ととと、と部屋をくるくる回り始めた。 お前は自分の尻尾を追う犬か。
てか、このリアクションはもしや。
「あ、ダメですね。綺麗にさっぱりと忘れました! てへっ☆」
こいつは……。
「うがぁぁぁぁぁぁーーー!!」
ガシャーン! バキィィィ!!
「キョーヤ!?」「凶夜さん!?」
俺の堪忍袋の緒が切れる音と共に、宿屋の一室に机が弾け飛ぶ音が響いた。




