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2.こんにちは、異世界!

どうぞよろしくお願い致します。(*'ω'*)

 響凶夜は困惑していた。  或いは戸惑い、さらに酷く憔悴していたかもしれないし、その全部かもしれない。


 とにかく――


「俺は一体どうなっちまったんだぁぁぁあーーー」


 あぁー…… あー…… ぁー……(エコー)


「はぁ」


 いくら叫ぼうが返ってくるのは情けない自身の木霊だけ。  仕方がないので椅子に腰掛け、くるくると回る。椅子が回転式だったのは唯一の救いだろうか?  暇な時間はこいつで潰せるなぁ……等と考えること自体が、もはやどうかしているのだが、唐突に非日常に追い込まれた凶夜に「冷静になれ」というのは酷というものだろう。


「これからどーすっかなぁ……」


 どどど……。


 何せ、さっきまで雑居ビルの中で、タバコの煙にまみれてスロットを見つめて奮闘していたのに、一瞬で見渡す限り草しかない場所へ来てしまったのだ。  見渡す限り、草草草くさくさくさ……道ばたに生えている雑草程度の草が、遙か遠くまで地平線を埋め尽くしている。  空を邪魔するビルも、木も無いので無駄に壮大な空間に仕上がっている。  もし、これが観光地だったら「天空の草原」とか名前がついて有名になっているに違いない。インスタ映え間違いなしだ。


 どどどどど……。


 こういう草原に大の字に寝ころんで空を見るとか、そういうシーンはマンガや映画で多々あるよなぁ。俺もやってみようかなぁ……青春ごっことか。  なんて、そんな現実逃避をしながら、ふと地面に目をやる。


(うーん、でもなぁ)


 現代人の性なのか、はたまた凶夜の性格か、虫がいそうだし服が汚れそうだしで、地面に無防備に寝ころぶというのは些か抵抗がある。


 どどどどどどっどっどっど。


 それはそうと、さっきから地鳴りの様な音がするんだけど……。  イヤな予感がする……ものっ凄く!  暑くもないのに、凶夜の額にはじわっと嫌な脂汗が滲む。


 この凶夜のイヤな予感は、今までの経験上99%的中する。なんかこう、ニュータイプ的な『キュピーン』って感じで脳裏に過ぎるのだ。


 思い返せば親父が浮気した時も、ヤクザが家に押し入った時も、母親が普段見慣れない極上の笑顔で親父へ笑いかけて包丁を振りかざした時も、近所に美少女女子高生が引っ越してきた時も、凶夜は『キュピーン』と感じていた。  最後のは、凶夜的には「ラブコメイベントキタコレ!」と幸運の1%に含まれているが、実際は、その女子高生は親父と浮気して凶夜家は一家離散に追い込まれている事を考えると、寧ろ最大の不幸の原因だと思うのだが。


 ということで、今回も例によって予感は的中する訳で……。


 ドドドドドドドッ!


 音はどんどん近づいてきている。  凶夜は必死に椅子をくるくる回し、周囲を確認する。


 ドドドドドド……  くるくるくるくる……  ドドドドドドドドゴゴゴゴゴゴ……  くるくるくるくるくるくるくるくる……


「あれ……?」


 音はどんどん激しくなっているのに、周囲は驚くほど静まり返っていて、音の原因となる影の一つも見えない。言い知れぬ不安が背筋を這い上がる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


「あ……」


 凶夜は自分でも驚くほど間抜けな声を漏らした。  気が付いてしまったのだ、“この音の発生源”に。


 さっきから自分の座っている椅子が上下に激しく揺れ、さながら道路工事で地面を平らにするタンピングランマーの様になっている事に……。


「あぁ……地面の中から聞こえている……のか」


 最早、逃げられないと直感したからだろうか、凶夜は半ば諦めたように力なく呟く。  俺はドコで間違ったのだろうか。諸悪の根元は親父であることは間違いないが、もっとなにか……こうあったんじゃないだろかあぁあぁぁぁぁぁあああああああ!!


 と、憤りのない自分への不甲斐なさを嘆いたとほぼ同時に、椅子の下の地面が爆発するように盛り上がり――。


 ドッゴオォォォン!!


 凶夜は一瞬で空中へ投げ出された。  命綱無し、恐怖のフリーフォールの始まりである。


「うおおおおぉぉぉあああああーーーーーー!!」


 少なくとも、10メートル以上の高さには吹っ飛ばされたであろう。  というか、まだまだ上に上がっている気がする。鳥人間コンテストなら優勝だ。


 凶夜は上空に向かいながら、「あぁ……下から来るのに気づいた瞬間になんで俺は椅子から離れなかったんだ」と、スローモーションの中で激しく後悔した。  このまま落ちたら只ではすまないだろうなぁ……と。


 少しして空中で止まり、ここから落ちるんだろうなぁ、と。  俺はどこにいても後悔し続けている気がするなぁ……と、他人事の様に考えたが。


 意外に冷静じゃん俺、とか思っていたのもつかの間。  重力に従って落下が始まると同時に、そんな余裕は遥か彼方へ行ってしまった。


(はああああっーーーー!! こんなん絶対死ぬ!)


 落下の恐怖で気を失いそうになるが、それを必死で堪える。気絶したらそのままあの世行きだ。


(どうするどうするどうする! どうしたらいいんだぁぁぁぁぁ!?)


 そうしている間にも、どんどん地面は近づいてくる。


「あぁ……こんな事ならスロットなんて行くんじゃなかったーーー」


 と、割と直近の後悔を口にした。  その瞬間。


 ピコンッ。


 唐突にして軽快な電子音が鳴り、目の前に水色のガラスで出来たスロットマシーンが、空中に固定されるように出現した。


「うおっ、な、なんだこれええええええぇぇぇ」


 絶賛落下中にも関わらず、スロットマシンをまじまじと凝視してしまう。


 なんとなく、そう本当なんとなーくだが、考えていた。  ここが地球とは違う何処か……つまり”異世界”ってやつなんじゃないかと。「そんな馬鹿な」と思っても心の何処かで、そうであって欲しいとも願っていた。  ただ、確信が無かった。異世界がどの様なところかは分からないが、草原と椅子しか無い状況で判断しかねていた。


 だが。  俺の前に現れたスロットマシンを見て”確信”した。ここは”俺が居た世界では無い”と。  こんな馬鹿げた現象がそうやすやすと起こってたまるか。まだ夢と言われた方が納得がいく。  ならば、そう……俺にも何かが出来るはずだ。異世界なんて漫画やアニメでしかない世界。  俺の声に反応して出現したこのスロットマシンは、その可能性を感じさせるには十分だ。


「と……もう時間がねぇぇぇ! なにこれぇぇ?  どうすりゃいいんだ! へるぷみー!」


 スロットマシンはウンともスンとも言わないが、コイン数はスロットを打っていた凶夜がこの世界に飛ばされる直前の枚数――『25』を示していた。


「コインは既に入っているってことか!?  だからどうした! 俺に必要なのはコインじゃなくてパラシュートですぅ!」


 パニックでぶんぶんと振り回した腕が、偶然BETボタンを叩く。  チャリーンと軽快なサウンドが響き、3枚のコインが消費され、ドラムロールの絵柄の横のランプが3つ点灯する。  画面には、このヘンテコな場所に飛ばされる前まで、パチスロ屋のスロットマシンの中で一生懸命走っていたフィーバーくんが相変わらずとぼけた顔をして写っている。


「やれることなんてこれしかねぇ! 死んだら化けてでてやるからなぁっ!」


 そのまま雑にレバーを叩く。  すると、絵柄がくるくると回転を始め、ボタンのランプが点灯する。  こうなれば後はボタンを3つ押すだけだ。


「っもう地面が……目押ししてる時間なんてねぇ!」


 本来であれば、絵柄が揃う様にタイミングを見て慎重にボタンを押すのだが生憎そんな余裕も時間も無い。  凶夜はピアノでも弾く様に、タタンッとボタンを叩いていく。


 で、で、でんっ。


「どうだーーー頼む! 神様仏様!」


 絵柄は歪な正方形を3つ表示していた。


 <ビッグボーナス!>


「!!」


 マシーンは機械的な音声を発し、粉々に砕けた。


「……なんじゃそりゃあああああああああぁぁぁ」


 尚も凶夜は落下を続け、地面が目前に迫る。  誰がどう見てもこの後の惨状は安易に予想出来るだろう。人間トマトの出来上がりだ。


 ――終わった、さらば俺のセカンドライフ……グッバイ現世、こんにちは来世……。


 そう、凶夜が諦め掛けた時。


 <魔法『ウインドテイク』を発動しました>


 さっきのフィーバーくんと同じ機械的な音声が脳内に響き渡る。


「おぉうっ?」


 もうダメだと思った瞬間、まるで見えない紐で足首を吊されている様に、地面スレスレで凶夜の体が停止した。  地面まであと数センチ。逆さ吊りの、非常に無様な格好だが、この際文句は言うまい。


「た、助かったのか……?」


 思わず息を吐き、安堵する。本当に危なかった、今はただ感謝を……何に感謝するか知らんけども。  と、不意に。


「あー、お兄さん? そんなところで浮いて何してるんだよ?  バンジージャンプ?」


 首だけ動かして振り向くと、鼻がドリルの様になっている牛の背に乗った、全身ピンクの少女が居た。


 一瞬目を疑う。  驚くほど空間にマッチしていない。靴も服も手袋も髪も目の色さえも全部ピンク色なのだ。  しかも原色系、めちゃくちゃ目に優しくない。林家◯ー・パー子もびっくりだ。


 それにしても結構若いな。12、3歳くらいだろうか。髪は短く揃えられ、服装も色を除けばパンツルックに上は……なんだろう、変形シャツとでも言えばいいんだろうか、奇抜なデザインだ。  牛は……うん、こんな不思議生物は日本いや世界の何処にもいないだろう。鼻がドリルのようにくるくる回っている。それ以外は普通の牛なのだが……。


 あらかた観察し、満足した凶夜は、恐らく自分を空の彼方へとぶっ飛ばし、危うく自身を殺しかけた少女に対して憎しみと敬意を表して、


「ガキ、俺は生きている喜びをしみじみと噛みしめているところなんだ」


 と返答する。つーか、言葉通じるのな。


「ちなみに バンジージャンプとかこの世界にもあるのか?」


「バンジー? 変なお兄さんなんだよ?」


 だが、件の少女には全く通じなかった。  いろんな意味で。


 なんだ? 微妙に噛み合っていないような……もしかして、言語変換系か?  よくあるファンタジーモノだと、言葉は自動的に近いニュアンスに変換されている……的なあれか。


 まぁ、それはおいといて。  コイツ、自分のせいで俺がこうなってる事に気がついてないな。  ははっ、お茶目さんめ。


「……ぶん殴るぞ」


「え、何それ怖いんだよ……」


「そして埋める……」


 凶夜の漏れ出る殺気に気が付いたのか、少女はうーんと唸り、きょろきょろと辺りを見回して……残骸と化した哀れな椅子を見ると、ぽんっと手を叩いた。


「そっかぁ、僕がお兄さんを吹っ飛ばしちゃったんだね……反省するんだよ」


 てへっ、と舌を出して両手を合わせてこちらを見る。  素晴らしくあざといが……なんか可愛いから許そうかな。  凶夜は小さい子が好きだった、もちろん子供は全て愛らしいという健全な意味でだ。ロリコンではない、断じて。


 というか、やっと人に会えたんだ。  俺の予想が正しければ異世界での、無機物以外とのファーストコンタクトになる。  ともかく圧倒的に情報が少ない今、なんでもいいから情報を集めないと……。


「まぁ、それはもういい。こうして生きてるわけだしな。それよりもここは一体何処なんだ?」


「え? お兄さん知らずにこんなところまで来たの? ここはピノール大陸の中心――ボルット村の近くの『メル草原』ってところなんだよ」


 うん?  全然わからん。ピノとかメルとかワインか何かか。  予想していたとはいえ、結構衝撃がデカい。  ダメだ、俺というスポンジがこの情報を吸収しきれない……ちょっと立ちくらみがする。


 ……いや、立ってないけど。  というか、さっきから俺空中で逆立ち状態なんだけど。頭に血が上ってきた。


「なるほど、ちょっと色々教えて欲しいんだが……その前に俺を下ろしてくれないか」


「お兄さん……それ自分でやったんでしょ? それなのに下りれないの?」


「あぁ、深い事情があってな」


「変なんだよ。それって魔法でしょ? 魔法は他の魔法で打ち消すか、使った術者が解除しないと消えないんだよ」


 なんだってーーーじゃあ俺は一生このままなのか。  観光地、空中で逆立ちする男として最終的に骨になってしまうのかっ。  うわぁ……イヤすぎる。ていうか中世の拷問でこういうのあったな……。


「……なぁ、解除ってどうするんだ?」


「そんなの知らないんだよ! 適当に念じてみたら?」


 念じる……ねぇ。


 ふんっ。  ……。  かーいーじょぉぉぉー!  ……。


 あ、だめだ絶望しかないわ、死のうかな。  その瞬間。


「ぶへあっ」


 ドサッ!


 唐突に魔法が解け、顔面から地面へ激突する。


「いてて……」


 まさか、解除って「死のう」って思わないとダメなのか……? なんだそれ……。  泥だらけの顔を上げると少女が不審な目で俺を見ていた。


「お、お兄さん、自分を痛めつける性癖でもあるの……流石にそれはちょっと引くんだよ」


 壮大な誤解をされているようだな。このままでは情報を集めるどころか衛兵に捕まって晒し首にされかねない。そういう文化があるかは知らないけど。


「ちょ、ちょっとな、魔法が使えるようになったばっかりで、まだ慣れてなくてな……」


「ふーん。で、どうするんだよ?」


「とりあえず、そのボルット村って所に連れて行ってくれないか?」


 何にせよ、ここでこうしていても始まらないしな。  ここが異世界と分かった以上、目の前の牛のような不思議生物がいつ襲ってくるかもわからない。


「ん、おっけー! じゃ、ルークの背中に乗るんだよ!」


 ルーク? あぁ……乗ってってこの牛の事か。


「そういや、お前名前はなんて言うんだ?」


「ミールなんだよ! お兄さんは?」


「俺は凶夜、響凶夜だ!」


「わかった、よろしくねキョーヤ!」


「あぁ、頼むぜ。そいつ……その牛、ルークだっけ? 俺が乗っても大丈夫なのか?」


「うん、ルークはとっても人なつっこいんだよ。だから変態のキョーヤでも背中に乗せてくれるんだよ!」


「だから……さっきのは違うんだって言ってるだろ……」


 釈然としないまま、後ろに周りルークの背に跨がる。


「いくんだよ!」


 あ、こいつ聞いてねぇわ。


 こうして、凶夜の異世界への第一歩は踏み出された。  ちなみに途中、ルークから何回か振り落とされもした。腰が痛い。

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