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19.調査を始める前に…

「おい」


「ぐぬぅ、やりますねミールさん……」


「ふふん、僕に頭脳戦を挑もうなんて100年早いんだよ!」


「おい」


「しかし、ここから逆転するのもまた一興というものです。見せてあげましょう、私の本気というやつをっ!」


「ぬぁー、そこに置くとは……これじゃ数が……いや、まだ諦めないんだよ!」


「おいッ!!」


 ガシャーン!


「「ああぁああーーーーー!!」」


「ああぁああーーーーーじゃ、ねぇぇえええ!!」


 俺は2人が熱心に遊んでいたオセロ(俺考案・異世界バージョン)の盤面をひっくり返した。ちゃぶ台返しならぬ、オセロ返しだ。


「お前等、何さも当然の様に俺の部屋に居座ってやがんだ!」


 そう、ドゥムドゥムの討伐後にギルドマスターからの依頼――『シャトー教団の調査』を受けたのだが、調査に日数もかかりそうなので俺達は宿を借りることにした。


 その際にクラリの案で、『情報収集の為に各自で色々な場所へ散らばり、ある程度情報を集めたらこの宿に集まる』という手筈にしたのだが……。


「お前等、俺が情報集めて来て戻ってくる度にオセロやってるよな?  てか、オセロしかしてねーだろ!? この無駄飯食らい共がぁぁぁぁ!」


 まぁ、情報集めて戻ってきた初日に、ミールと2人きりになって、クラリをただ待つのも暇だからそこらへんの石と木でオセロを作ってみたのはたしかに俺だけど! ハマりすぎだろ!


「な、し、失敬な……ちゃんと情報も集めてますよ! 失礼しちゃいますね!」


 と、クラリ。  完全に目が泳いでいやがる。背泳ぎくらいの勢いで泳いでるぞ。


「ほう、じゃあクラリ’さん’。どんな情報があるか教えては頂けませんかね?」


「微妙に他人行儀にしないでください! 仲間外れみたいに!」


「あぁ? そもそも仲間にした覚えが無いんだが。俺的には『勝手に付いてきている野良犬』くらいのイメージなんだが?」


「うぅ……酷い……」


「完全残念娘のくせに、正式にパーティーに入れて貰えると思うなよ」


「……胸」


 クラリがボソッと呟く。


「あ?」


「……胸、触ったくせに!!  凶夜さん、訴えてやりますよ!  ええ、未成年の、しかもか弱い乙女の体に触れた罪は重いですからね……!  きっと5年は牢屋から出てこれないでしょうね……。  しかも! 恥辱に正気を失った私は宿屋の前で、『鬼畜ヤローに無理やり犯された』とか『私の純潔を返して』とか、有る事無い事大声で叫んでしまうかもしれません……」


 クラリはよよよと崩れ落ちる素振りをし、チラリと上目遣いでこちらを見てくる。


 くっ……!  女の武器を使ってくるとは、只の中二病患者だと思っていたが……汚ねぇっ! やり口が詐欺師のそれだ!


「後半なんて、全部嘘じゃねーか! 卑怯だぞっ!  胸の件はお前が勝手に魔力尽きて、背中に押しつけてきただけだろーがっ! 俺も被害者だってーの!」


「私を痴女みたいに言わないでくださいっ!」


「キョーヤ……もういいじゃん、パーティー入れてあげようよ。可哀想だよ」


 ミールがいつものように俺を「可哀想なモノ」を見る目で見てくる。  お前、どっちの味方なんだよ!


 勝敗は決してしまったと言うのか……。  俺はこの悪魔クラリに勝てないと言うのかっ……。


「うっ……だが……」


 こんなまっーーーたく使えない奴をパーティーへ入れる余裕は……俺の精神的にも金銭的にも……。


「5年……懲役、臭い飯……社会的な死……」


 クラリはさも傷ついた様に俯いているが。  俺には分かる、これはぜっっったいにニヤついている! 口元が歪んでるぞ!


 こいつに良いようにされるのは腹立たしい、腹立たしいが……ぐぅ!


「あーっ、わーったよ! 勝手にしろ! 入れればいいんだろ!」


 クラリは俺からの言質をとると、さっと顔を上げ、


 そして――


「ありがとうございます! 一生ついて行きます、マスター!」


 と、満面の笑みで言った。切り替え早すぎだろ。


 屈辱だ……いつか絶対泣かせてやる。


「だが、オセロは禁止だ」


「「えー」」


 こっちも、ささやかな抵抗くらいさせて貰うぞ。


「文句言うな! もう調査始めてから3日だぞ。お前等初日以外ずっとオセロしてんじゃねーか! 働け!」


 2人はぶーたれながらも、しぶしぶ頷く。


「よし、じゃあこの3日で分かったことを整理するぞ」


 この3日、俺達(主に俺が)教団についておおっぴらにならない程度に情報を集めた。  あまり派手に動くと、相手がこちらに何かしらの攻撃をしてくるかもしれないからな。


「えーとね、どうやら教団の出入りは1年近く前からあったみたい。その理由は分からないけど、村長と度々会っていたって話なんだよ」


 ミールは村に顔がある程度利くから、民家を回って情報収集して貰った。流石、地元民は強い。


「1年か……結構長いな。その間に目立った動きは他に無いのか? 只村に来るだけってことはないだろ?」


「それが、まったく……。村に来るのも決まって1人だけで、複数で来ることは無かったみたいなんだよ。  あとは……袋。そう、何回かに一回、大きな袋を持って来てたって。  宿の亭主の話だったんだけど、親切心で部屋に運ぼうとしたら『触るな!』って凄い剣幕で怒られたって言ってたんだよ」


「袋……怪しいな」


 中身はなんだ? 金か? それとも違法なブツか?  いずれにせよ、村長とズブズブの関係ってのは間違いなさそうだな。


「クラリは何かあるか? 期待はしてないけど」


 ミールの話を、ふんふんと聞いていたクラリに振る。本当にまったくこれっぽっちも、期待はしてないけど。


「凶夜さん……凶夜さんっ!?  酷いですっ、私だってちゃんとがんばって情報集めて来たんですからね! 私の諜報能力をナメないでください!」


「お、おう、悪かったな、そんなに怒るなよ……で、どうなんだ?」

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