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18.おっぱいと報酬

「そういや、クラリ……ちょっとは痩せた方がいいんじゃないか?」


 ドゥムドゥムをクソの海に沈め葬り去った、村への帰り道。


 ふと、俺、響 凶夜はそんな事を口走った。


「なっ……」


「え……」


「凶夜どの……いやはや……」


 絶句する2人と1匹。  なんだよ、そんなに不味い事言ったか? アドバイスだろ?


「凶夜さん、流石にそれは酷いです……殺しますよ? いえ、このまま首を切り落とします! ギロチンです!」


「え、いやお前……俺の背中でそんな物騒な事を言うなよ。マジで身の危険を感じるから……冗談だろ? ……冗談だよな?」


 今、俺は魔眼で魔力を消費したために立てなくなったクラリを村までおぶってやっているところなのだ……追加料金、銅貨1枚で。安すぎたかもしれない。


 それはそれとして、さっきから背中にクラリの胸板が当たるんだが、ハッキリ言ってデブのそれで、つまりは 'ぽよんぽよん' しているのだ。柔らかいと言えば聞こえはいいが、要するに脂肪だ?


「いやぁ、俺も友達ダチの胸なんてマジマジと触ったりした事なんて無いから、分からないけどよ。  少なくともこの感触はBカップはあるぞ。'男' でコレは不味くないか? 運動不足だぞ、筋トレでもしたほうがいい」


「ちょっと待って下さい。そのセクハラ発言には後で制裁を加えるとして……男?」


 背中でクラリが怒気を孕んだ声で呟くように、しかし力強く言う。


「キョーヤ……クラリは '女の子' だよ?」


 ミールが呆れた顔でこちらを見ながら言う。


 は?


 ……いかんいかん、理解するのに一瞬思考が止まってしまった。  コイツが女?  この変態で、厨二病仮面で、産廃魔眼のクラリが?


 まさか……そんなわけ。


「あら~? 私、自分が男だなんて言いましたかしら? ねぇ!」


 ぐぇっ!


 背中におぶられたクラリが急にお嬢様口調になり、腰に巻いていたベルトで俺の首を締め付けてきた。  しかも結構な力で。頸動脈が!


「やばい……意識が落ちる……落ちる! こんな所で落ちたら魔物の格好の餌食になるわ!」


「いいじゃないですか、また助けてあげますよ?  そう、この私の魔眼で!」


 一向に腕の力を緩めず、言い放つクラリ。殺す気か!


「お前、ただ相手が強いの見て『逃げましょう』って言っただけじゃねーか! この産廃が!  しかも、ちゃっかり 'また' とか付けてんじゃねーよ! そもそも助けられたことなんて1回もねーだろ!」


「やれやれ、2人共イチャつくのは構わないが、足は止めてくれるなよ?  俺は早く村に帰って、熱い干草で一杯やりたいんだ。今日の労働のあとの飯は美味いぞぉ」


「「あ、はい」」


 ルークさん……びぃぜ! 背中が語ってるよ。


 -----------------------------------------------    で。


「こうして無事にドゥムドゥムを討伐して来た訳ですよ」


「はいはいワロスワロス」


「いや、マジだって! この駄フォ!」


 俺達は、ギルドに報酬を貰いに来ていた。  相変わらずムカつく、やる気のない駄フォだ。


「てか、駄フォじゃないって何回言わせるのよ。  まぁ……ドゥムドゥムを倒したって言うのは百歩譲って信じて上げますけど? こうして戦利品もある事だしね……うわっクッサ! なにこれ! めちゃくちゃ臭いのはなんなのよ!」


 ドゥムドゥムの皮を指先で摘んで、汚物を見るような嫌そうな顔で言うフォリン。  まぁ実際、汚物まみれだったわけだが。


「しょーがねーだろ、それでも頑張って取ってきたんだぞ。鼻栓して処理して」


「はぁ……じゃあ、まぁいいですよー、めんどくさいし。  ちょむちょむの報酬が3000ゴルドなんだけど、これはその上のクラスのドゥムドゥムだから2000上乗せの5000ゴルドになるわね」


 フォリンはそう言うと、ドゥムドゥム討伐報酬の袋を持ってきて、こう続けた。


「ついでと言っちゃなんだけど……この報酬でもっと面倒な事に巻き込まれてみる気は無い?」


         ◆  


「なんだこれ、すげぇ」


 ドゥムドゥムの討伐報酬をタンマリ貰った俺達は、これを更に倍に出来るというフォリンの悪魔の囁きに踊らされ、『話を聞くくらいならいいかなぁー』と安直に、まるで怪しいおっさんに飴で釣られる子供の様にギルドマスターの部屋へとついて行ってしまった。


 フォリンは後に『赤子の手を捻るくらい簡単でした☆』と言ったとか言わなかったとか。


 まぁ、それはそれとして。  そこはいつもの安酒場のようなギルドホールとは違い、マスターの部屋というだけあって豪勢な作りになっている。


「みてみて、キョウヤー! スッゴい大きいアングリーバッファローの頭の壁掛けがあるんだよ!」


 アングリーバッファローって言うと、ルークと同じ魔物だったよな、確か。


 あんな馬みたいな牛みたいな微妙な魔物の壁掛けを作るなんて物好きもいるもんだなと、ミールの方へ視線を移す。  しかし、そこにはルークとは似ても似つかない、般若の様なおっかない顔の剥製があり、それはこちらを射抜く様に睨みつけていた。


 うおぉぉ……こえぇ。頭だけで俺の全身の倍くらいあるぞ……。  てことは将来的にルークもこんなんになっちまうのか……。あんなダンディな声で、顔がこれになったらヤクザの組長じゃねえか。


 うん、優しくしよう。主に俺の身の安全のために。


「凶夜さん、こっちには世にも希少なゴールデンスライムの瓶詰めがありますよ! うわぁ……一体いくらするんでしょう……ゴクリ」


 クラリが、棚に並んだ黄金色の液体の入っている瓶をうっとりした目(金銭欲の目)で眺めている。


「それそんなに高いの? ……バレないようにやれよ、痛てぇ!!」


 クラリに的確なアドバイスをしていたところ、後ろからフォリンに殴られた。  この女、出会ってからバカスカ殴りやがって。


「バカになったらどーすんだよ!」


「あなたは元からバカよ、この大バカ! ギルドマスターの持ち物盗もうとする奴なんて初めてみたわよ……ったく」


 ちょっとしたお茶目も分からんとは、かわいそーな奴だな。ユーモアが足りない。


「マジで盗む訳ないだろ? まぁ、たまたまポケットに入ってしまう事くらいは起こりえるかもしれないけど」


「確かに、私も偶々持っていたナイフを貴方の腹部に刺してしまうかもしれないわねぇ」


 目が笑ってない。  命の危険を感じたので、さくっと会話を反らすことにする。


「で、そのギルドマスターってのはどこにいるんだ?」


 ギルドマスターか。俺的には筋肉ムキムキのじいさんや、殺気を身に纏った抜き身のナイフみたいなじいさんが希望だな。ロマン的に。


「あぁ、そうね」


 と、フォリンの視線の先には、大層な椅子がある。パッと見ですら、細やかな細工が為されていて、かなり手間のかかっている一品だ。  恐らくこれがギルドマスターの椅子なのだろう。


 だが、その主は不在だった。  ……というか、部屋が全体的に埃っぽい気がする。もしかしてこの部屋は長らく使われてないんじゃないだろうか。


「マスターは留守なのよ、私は伝言を預かっているだけ」


 微妙に腑に落ちないが、わざわざ部屋へ連れてきたと言うことは、他に聞かれると不味い内容なのだろう。  これ以上の厄介ごとはごめんだが、聞くだけなら問題無いだろう。判断するのはそれからでも遅くは無い。


 そう思い、フォリンに先を促す。


 ギルドマスターからの依頼内容はこうだ。


 『ドラゴン信者で結成されているシャトー教団が、最近この村に来て何やら怪しい動きをしているらしく、何を目的に動いているのかを探って欲しい』


 と言う、えらく簡潔なものだった。


「表向きは、『ドラゴンが現れたからその調査で村に来た』って事になってるんだけどね。それ以前からも教団の信者がこの村へ出入りしている目撃情報はあるのよ。  考えすぎならいいんだけど……教団は過激で良い噂を聞かないし、念の為にね」


 なんだかんだ……とあるが結局の所、普通の偵察任務だ。


「まじ? これだけでドゥムドゥムの報酬が倍になるの? ほんとに?」


「ええ、更に結果によってはオマケもつけるらしいわよ」


「……ふーむ」


 相手が魔物じゃないならいくらでもやりようはある。  しかも偵察って事は無理に戦う必要もないし、そもそも教団って奴らは本当にドラゴンの目撃情報で村に来ているだけかも知れない……ドラゴンは俺が倒しちゃったからもういない訳で、その場合は放っとけばそのうち帰るだろう。


 ちなみに、今俺の手元には全部で5340ゴルド。  ミールは村に家があるし、クラリはそもそもパーティにいれないとして(クビだクビ)、俺1人だったら宿に100日ちょいは泊まれる計算になる。


 異世界に来た以上は観光もしたいし……今後、危ない橋は出来るだけ渡りたくない。  そのためにも金は必要なのだ! 世の中ゼニや!  となると、この偵察任務はかなり優良な依頼なんじゃないか?  ドゥムドゥムの報酬が倍と言うことは、1万ゴルド手には入ると言うことだ。5000ゴルド手に入れるのに命がけだった訳だし、それに比べれば……。


「よし! この依頼受けるぞ!」


「良かった! 凶夜ならそう言ってくれると信じてたわ! お金的な意味で!」


「あぁ、村の危機かもしれないしな……この村にもまだまだ世話になるだろうし。お互い様だ! お金的な意味で!」


 俺とフォリンはがっちりと固い握手を交わす。友情ではない、利害の一致だ。


「「えぇ……」」


 クラリとミールからドン引きしたような雑音が聞こえたが無視した。


 こうして、シャトー教団の調査が始まったのだった。

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