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15.深淵を覗く時、相手もこちら側をなんちゃら

「ここが、ちょむちょむの生息するっていう洞窟か」


 ドラゴンの影響がまだ残っているのか、洞窟までの道中に他の魔物に遭遇する事も一切無く、俺たちは目的地へ辿り着いた。  かなり拍子抜けしたものの、そこは素直に喜ぶべきか。ビギナーには有難い環境だ。


 なので、ここまでは特に何の問題も無い……はずだったのだが。


「キョ、キョーヤ。クラリがそこで倒れてるんだよ……大丈夫なのアレ? 死体?」


 そう、肝心のクラリの体力が、文字通りミジンコほども無かったのだ。  道中も、何回も何回も休憩を要求されて休ませてやったのに……さっきから洞窟の入り口で、虫の息で倒れて駄々をこねている。


「いや、あと5分でいいんです。後生ですぅ……休ませてくださぃ……酸素を……」


 はぁ?  フォリンから「もやし」って言われている俺ですら、これくらいのハイキングなら余裕なんだが?  というか「もやし」って言ってるのは仲間(仮)と駄フォだけであって、俺は認めてないけどな!


「どうしようか?」


「とりあえず、こいつの試験のために来てるんだし、待ってやろうぜ。活躍出来なかった時に疲労を言い訳にされてもかなわん」


「ありがとうございますぅ。でもそんな言い訳しないですよ! さりげなくディスってますよね?  謝って! 私に謝ってください! 優しくして!」


「うるせーこの偽魔眼が」


「なっ、偽じゃないですよ!  今、言ってはならない事を言いましたね! 魔眼ジョークでも許されませんよ!」


 はぁ……そもそも、冒険者なのに体力が無いって事自体がかなりマイナス要素だろうに……。


         ◆  


 数十分後――。


「ふぅ、完全復活! 何をグズグズしてるんですか? さぁお二人とも行きましょう!」


 すっかり回復したクラリが、さっきまでの醜態を棚に上げてのたまうが――


「おい、そんなんいいから! 早くこっちを手伝えぇぇぇ!!」


「あ、キョーヤ! そっちいったんだよ! そっち!」


 俺の頭目掛けて、黄色い残像のような物体が飛んでくる。  サッと反射的に避けると、それは勢い余って俺の背後にあった洞窟付近の大岩に激突した。


 ドッゴオォォォン!!


 突如、大岩が轟音と共に粉々に砕け散る。


「うぉぉぉぉーーー!? あぶねぇぇぇ!」


 あんなのを喰らったら頭がパーンッてなってまう! スイカ割りどころの騒ぎじゃねぇ!


「ひえっ」


「『ひえっ』じゃねーよ! クラリ! 早く仕事しろ!」


 そう、俺達は現在進行形で『ちょむちょむ』に襲われていた。


         ◆  


 時間を少し巻き戻して、数分前――。


「とりあえず、蹴り技がやばいんだよな? 俺は防具なんて付けてないから一発でアウトか」


「ううん、防具を付けていてもアウトだよ。まともに蹴りを受けたら内臓破裂で即死だよ」


「なぁ、今更だけどやっぱ止めないか? どう考えても一撃受けたら死ぬ相手とか洒落にならないんだが……」


「まぁ、そこまで素早い訳でも無いし、大丈夫だと思うんだよ……多分」


 俺達は倒れているクラリを放置し、ちょむちょむへの対策を練っていた。


「ィー…」


「……なんか、今聞こえなかったか?」


「え? 特に何も聞こえないんだよ」


「キョエェェェェェェーーーー!!」


「いや! 今絶対、聞こえたろ!」


「うん、なんか鳴き声みたいなのが聞こえたんだよ!」


 これは、よろしくない展開だ……。  俺の不吉センサーが警報を鳴らしている。キュピーンと来てる。絶対に良くない事が起きる。  どうやら、声は洞窟の奥から聞こえてきているようだ。段々と近づいて来ている気もする……。


「ミール」


「うん、戦闘態勢なんだよ」


 クラリは相変わらず死体のように倒れているが、とりあえず放っておくことにした。あいつは囮にもならなそうだ。


 暫くすると、洞窟内から『どどどどどどどっ』というけたたましい足音と共に、身長170センチ程の鳥人間が飛び出してきた。  全身が黄色っぽい鳥の羽毛に覆われており、頭はまんまニワトリのそれだ。


 うわぁ……こうしてみるとやっぱり魔物ってちょっとグロいなと思ってしまう。  名前は「ちょむちょむ」とかいうファンシーな響きなのに、実物は「二足歩行の巨大鶏」だ。目が血走ってて怖い。


 ちょむちょむは、入り口で倒れているクラリに気がついたのか一瞥すると、興味なさげにくちばしを鳴らし、ゴミを見るように視線を逸らした。  そして、立っている俺たちの方へ目を向ける。


 死んでいると思ったのか、弱すぎて脅威だと思わなかったのか定かではないが……クラリを攻撃してくれればその隙に倒せたんじゃないかな? と、ちょっと思ってしまう。


「キョーヤ、流石にそれはちょっと……」


「いやいやいや、流石に俺もそこまで外道じゃねーわ! てかナチュラルに心の中読むなよ!こわっ!」


 何を考えてるか読まれたっていうのか? ミール恐ろしい子!


 キョーヤは顔に出すぎなんだよ、と俺にあらぬ疑いをかけられたことに文句を言う


 そうこうしているうちに、ちょむちょむは「キシャーッ!」と奇声を発しながら、一番小柄なミールへと狙いを定めて突撃してきた。  速い!  そして、強靱な脚でジャンプする体勢になり、地面を強く踏み込むが――


「きょえぇぇぇえ、っと、っとああぁぁぁーーーぶばぁぁああ!!」


 ドッシャァァァン!!


 地面の土が予想以上に軟らかかったのか、それとも気合いを入れて踏み込み過ぎたのか。  ちょむちょむはジャンプする体勢のまま足を取られ、盛大にずっこけた。顔面からスライディングしている。


「……なんだこいつ」


 ぽかーんとする俺たち。


「てかいま、明らかに喋ってなかったか?」


「うん……それに僕が見たことがある個体よりも一回り大きいし、というかちょむちょむってもっと可愛かった気がする……」


 数秒して、ちょむちょむらしき魔物は恥ずかしかったのか、咳払いをするようにさっと立ち上がり、羽についた土をささっと払った。  そして何事もなかったかのようにポーズを決め、こちらを見て俺たち二人と目が合う。


 沈黙。


 そして一言。


「何じっと見てんだゴラァ! 見せモンじゃねーぞ!!  つーか人が困ってたら助けるもんだろ!? そんなのもわからねーのか! このゴミくず共がぁ!」


 と、ドスの利いた声で口汚く罵ってきた。


 何言ってんだコイツという気持ちもあるが、それよりも――


 え? 喋れるんですか?  しかもキャラ設定、ヤンキー?反社なんですか?

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