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ホシタネの短編集

プラントン・ネオヴェルト

作者: ホシタネ


 春とは、別れの季節だ。それまで当たり前であったことが、そうでなくなっていく。そういうものだ。


 そして、僕は別れを体感することになった。


 僕は田舎と小さな学校で教員をしていた。初めて赴任してきた日の事は今でも覚えているし、一生忘れることは無いだろう。

 他の先生達のおかげで、僕は四苦八苦しながらも一生懸命生徒と向き合ってきた。でも、僕は生徒達から嫌われてしまっているようだ。僕が数学担当でこの学校の生徒は数学の成績が低いからか?新人だからと舐められているのか?よく分からない。

 少なくとも自分の中では出来るだけのことをしてきたつもりだ。放課後まで残って教えた生徒だっているし、質問に来た生徒とは撤退討論して納得するまで指導した。まあ、そのせいで生徒が授業に遅れて僕が怒られる羽目になったけど。


 気がつけば、10年も経過していた。


 二桁も同じ学校にいるというのは、まあレアケースだろう。僕が生徒だった頃も、8年が最大だったと思う。

 流石に異動になった。もう少し都会の学校に赴任することになって、ワクワクする気持ちもあるけど、それ以上に10年もいたこの学校から離れるのは名残惜しい。

 今日は離任式の日だ。僕を含めた異動するメンバーが前に出ると、皆驚いたり、喜んだり、悲しんだり、色々だ。

 着任式の時を思い出すなぁ。あの時も、こんな感じでざわざわしていた。流石に悲しんでいる人はいなかったけど。着々と離任式は進み、退場した。

 因みに、喜んでいる生徒は周りから白眼視されていた。まあ、当たり前だと思う。


 職員室で荷物を片付けながら、ふと回想する。10年間いたこの部屋ともお別れだ。沢山の先生から激励の言葉を貰った。これまでは激励なんて送ってばかりだったから、それを自分が送られているのがなんだか不思議だ。

 何とも言えない、歪な感情。教員たる者、こういう心傷には耐えなければならないだろう。まだ、僕の教員生活は始まったばかりだ。スタートラインに立ったばかり。


 荷物を車に詰め込む。そして、最後に再び校舎を見る。ここの10年は長いようで短かった。

 さて、次の学校はどんなところだろうか。次の学校でも僕は、


 生徒を喰えるだろうか。


 2年前だっただろうか。他の教員が生徒に暴力を振るい、体を触り、卑猥な言葉を投げかける場面に遭遇してしまった。

 流石にその時は止めた。だけどその教員は、どれだけ言おうとも非を認めなかった。そして、


 気がつけば、僕はその教員と一緒に同じことをしていた。


 何故そうなったのかは覚えていない。だけどそれ以来、僕はそれが週間付いてしまった。


 さて、次の学校でも楽しめるだろうか?一度あの快楽を知ればもう戻れない。一生、生徒を喰らい続ける…!


「あははっ…!」


 気がつけばそんな声を出していた。



「ようやく教育出来たか…」

 暗い部屋の中で二人の人間が会話している。

「10年もかかるとは思いませんでしたが…これで一安心ですね。」

「彼の良心が中々崩壊しないから、異動を止めるのも大変だったぞ」

「まあ、宜しいでしょう。彼はいい駒になりますよ」


「私が支配する世界はそう遠く無さそうだな」


「後は彼らが生徒を教育するだけですからね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 遅くなりましたが、拝読させて頂きました。 なかなか読み初めとは裏腹に、ダークな結果を用意しましたね。 思わず二度も、読み直してしまいました。 春と暴力。 本来なら相容れない関係。 しかしこの…
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