破局
「私たち、別れましょ」
日差しの強い休日の昼下がり。
カフェで彼氏と2人、周りから見れば幸せの構図だろう。しかし実情は違う。
今日は彼氏とこの関係を終わらせると心に誓ってきたのだ。
テーブルの向こうでかわいらしくメロンソーダを飲んでいた彼氏も突然のことに驚いている。
「ああ、そっか。うん、了解」
驚いたのは一瞬のみ。実にあっさりとしたものだ。
まあ、偽装をやめましょうってだけだからね。
「うん。ありがとうね、こうくん」
「いやいや。予想よりも長かったかな? で、どうするの? 友人には始めから付き合ってなかったって話すの?」
「……うん。手遅れかもしれないけど、全部正直に話そうと思って。今のままだと、幼馴染としてもそばにいられなくなりそうだし」
「あ〜、マリーかい? 最近すごく仲良いみたいだからね。でも付き合ってる訳じゃないんでしょ?」
「うん。みっちゃんはそう言ってた」
少し前からゆうくんと柘植さんの距離が急速に近づいているのは明白。
『あの2人、いつから付き合ってるの?』
なんて、クラスの子に聞かれたこともある。
「じゃあ、ひなちゃんも遅ればせながら友人争奪戦に参戦するわけだ」
テーブルに頬杖つきながら、なぜかうれしそうにこうくんは呟く。
「マイナスからの……ううん、参戦すらさせてもらえないかもしれないけど、やっぱり自分の気持ちに正直になってみようかな? って思ったの」
みっちゃんは問題ないと言ってくれてるけど、ゆうくんから家族を奪った私が許される可能性は低い。
「ははは。ひなちゃんはネガティブに考え過ぎだよ。それに、友人はそんなに心の狭い人間じゃないだろ?」
「うん。ゆうくんはとっても優しい男の子だよ」
小さな頃からずっと変わらない、心の優しい男の子。ステノクに入った当初は勝負の世界でやっていけるのか心配になってしまう程だった。
「だろ? ひなちゃんが友人の性格を1番わかってるんだから、大丈夫だって。ただ問題があるとすれば……」
「すれば?」
「友人が間違った方向に解釈することだね。僕も詳しいことは知らないけど、ひなちゃんが友人に尽くしてるのは同情からじゃないでしょ?」
「……うん。そうじゃないよ」
「そこをね? 同情してくれてるからって勘違いするパターンはありそうなんだよね」
「……う〜ん」
そのパターンはすごくあり得る。同情というか、罪悪感からというか。
私がごはん作ったり部屋の掃除をしたりするのはゆうくんの役に立ちたいからだ。そこにあるのは私の自己満足。
「まあ、誤解のないようにしっかりと話し合うべきだね。何かあったら連絡してよ。俺にできることは手伝うからさ」
「うん。ありがとうね、こうくん」
私たちは他の人への説明のためのすり合わせをしてから別れた。
「あ、定期的にお菓子作りはやらない?」
「うん、ぜひぜひ。まだまだ教えてもらいたいこともいっぱいあるから」




