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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第二章 リュミエール編
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リュミエール編 第一話 修行

≪リョウ視点≫

「はぁ……はぁ……」

「どうしたの? もっともっとォ!」

「クッソ、まだまだぁ!」

『リョウ、頑張って!』


 俺はラメラと距離を取り、そのままラメラを睨みつけた。ラメラと過ごし始めて五年、俺の体は既に6歳児程度まで成長していた。お陰様でしっかりと喋れるし、物も食べられるようになった。がしかし、俺は正直な所赤ん坊の体でいたかった。というのも……


「どうしたの! この程度で疲れているようじゃ話にならないわ!」

「はあ、はあ……」


 ラメラの「教育」が激しいからである。ラメラは俺が歩けるようになった途端、俺に稽古をつけ始めた。相手の攻撃から身を守る方法に、相手の隙を突く方法。どれもスパルタだったが、一番大変なのは何といってもこの時間だろう。


「実践ではいつもみたいに甘くないわよ!」


 ……実践。その言葉は俺の底に、鉛のようにずんと沈んでいった。実践はこの世界のテストの様な物。国民全員が無差別に参加させられる。当然俺も例外ではない。今回はその予行練習、いわばリハーサル。あっちでもこっちでも、テストは嫌な物だった。


 俺は気持ちを切り替え、ラメラの出方をうかがった。いつでも攻撃を防げるように、右手の刀(こっちに来てからは両利きになったので、日によって左右どちらで持つか変わっている)はしっかりと構えておく。狙ってくるのはどこだ? 首か?


「せいや!」


 突然ラメラが俺の間合いに躍り込んできた。ほぼ直感で刀を前に突き出す。ラメラはそれをやすやすと躱し、勢いを維持したまま俺の喉元にコピスを当てた。この間0,5秒未満。———が言っていたように、俺の身体能力は上昇した。がしかしラメラの卓越した体力には遠く及ばなかった。


 ゆっくりと唾を飲み込み、目でコピスを降ろす様に合図をする。ラメラは数秒躊躇った後、コピスを降ろしてくれた。が、その代わりに文句を言ってきた。


「まったく……瞬発力が足りないわ! 瞬発力!」


 6歳児に向かってそんなこと言うか、普通!


 俺は小言を零しそうになり、すんでのところで踏みとどまった。

 失望したようにラメラが小さくため息をついたその刹那。俺は残っている力を総動員し、手に余る大きさの刀を振り下ろした。


「ギィィィィンッ」

「んなっ」


 大きな金属音が鳴り、それに続くようにして驚きの声が上がった。もっともそれはラメラの声ではなく俺の声だったが。


「失……敗……?」

 

 しっかり隙をついたはずなのに。だが目は嘘をつかない。ラメラは呆気なく小さな刀の攻撃を防いでみせた。


「だから言ったでしょ? 瞬発力が足りないって。大体私との身長差じゃあ縦斬りは無力に等しい。せめて腕とかを狙えば良かったかもね」

「……でもラメラ……」

「お母さんと呼びなさい」


 呼ばれるくらいの威厳を手に入れろや!

 と、昔の俺もとい二十歳の俺なら言っただろう。今は口が裂けても言えないが。


「じゃあ母さん。本当にみんなこんな事やってるの?」


 俺はほとんど他の子供にあったことがなかった。その理由はここが辺境の土地であることに他ならない。それはある意味ここに家を持ったラメラの所為とも言えるので、俺はラメラを疑っていた。


「十五歳以上の子供はやっているわよ」

「はァ!?」


 俺はイルウーンを失った王のような顔(———が後でそう言っていた)をした。十五歳以上? 俺は今6歳なのに?


「だーかーらー、リョウは成長が速いから上の事をやらせてるの!」

「初めて聞いたんだけど……」

「ほら、もうじき実践でしょ? さあ、練習練習ッ!」

(……容赦ねえな)

『容赦ないよ』


 返事してほしくて言ったわけじゃないんだが。

 と付け加える事さえせずに俺は練習を再開した。実践で上手くやれれば、上の連中より強いという事の証明になる。これは俺の将来の良い影響になるだろう。


「せいやッ」


 そうして俺は今日、一度もラメラに傷を付けられずに終わるのだった。

 次の日。俺は朝早くに「ドタバタ」という音にたたき起こされた。何故か俺の部屋(五歳児が自分の部屋を持つ世界らしい)にラメラが入ってきている。咄嗟に俺は文句を言おうとしたが、先に布石を打ったのはラメラだった。


「リョウ! 早く起きなさい! そして外に出なさい!」

「は? 俺今上半身着てない(暑かった)んだけど」

「良いから早く!」


 それだけ言うとラメラは外へ出て行った。

 ふざけているとは思えなかった。俺からすればむしろそっちの方が怪しい。俺はラメラに逆らうとロクなことにならないのを知っていたのでラメラについて外へ出て行こうとした。


『本当に行くの? 上の服着てないのに?』

(ああ、仕方ない。どうせ五歳児の裸なんて、見たい奴いないだろ)

『それもそうだね』


 外へ出ると、そこには二人の赤ん坊がいた。


「どうしたの、ラメラ」

「お母さんと呼びなさい……ってそれどころじゃないわ!」

「だからどうしたのさ」

「朝起きたらここに赤ん坊がいたのよ!」


 まあ、見れば分かるが。その赤ん坊は草原に直接寝ていた。移動した痕跡はなかったので誰かがここに置いて行ったと考えるのが妥当だった。


「こんな辺境の地に、誰が……」

「それがわかれば苦労しないわよ!」


 取り敢えず俺は赤ん坊のうち一人を手に持ってみた。重量は通常通りで、瞼の間から黒い目をのぞかせている。性別は多分女で、外見は俺よりずっと白っぽかった。


 それだけならいいのだが、こう……何か変だ。『気』とでもいうような.。


「どう?」

「自分で考えろよ……」

「ん?」


 今でもなお、ラメラにタメ口をきいてしまうことがある。幸い今回は余り気にしないでくれた。


「い、いやあ何でもないよ。多分この子はリュミエール出身じゃなくて遠くの国の人だと思う。肌の色が白っぽいし、金髪だから。あと多分女の子」

「なるほど? んでもう片方は?」


 それこそ自分で考えろよ。


 と言ってさっきの二の舞を演じるのは嫌だったので、俺は踏みとどまった。


「大体同じ。でもこっちは男の子っぽいかな」

「……拾えって事かしら?」

「まさか!? 大体ラメラなんかに拾わせてンギャフ!}


 無言の一撃は心身ともに大ダメージだった。四十歳の一撃とは思えない(実年齢まさかの四十代、思ったより上だった)ほどの威力。俺以外の子供にやったら確実にノックアウトすると思う。


「いでで……でもラメラ、うちに二人分かくまう余裕なんてある?」

「一応あるわ。っていうかむしろ余裕。二人位は全然大丈夫よ、ただ、本当に大丈夫なのか……」


 ブツブツと呟いたのち、彼女らしくなく考え込み始めてしまった。本当に家計は大丈夫なのか?などの典型的な悩みからこれは罠で、とうとう敵国ナハトが動いたのでは!?という物まで。まさにピンキリだった。


 その時間に———が俺に相談してきた。

 

『つまり、この子達をかくまって本当に大丈夫なのかってことだよね』

(人の会話に割り込むな)

『えへへ、ごめんごめん。リョウ的にはどう? かくまってもいいと思う?』

(……俺は別にいいと思うが。デメリットしてはどんなものがあるんだ?)

『かくまったことが国にばれた場合の処刑とかかな。肌の色と髪色からして速攻でバレちゃうよ』

(……だよな)


 ここと日本は、根本的に違うのである。俺は溜息をついた。そういうメンドクサイ事情とかは、よく分からない。だが、このまま放置したら二つの命が消える。それだけが俺にとっての『事実』であり、『責任』なのだ。俺は迷いながらも言う。


(まぁ、かくまっても良いんじゃねぇか? どうせ送り主は不明なんだし、誰も文句言わないだろ。バレなきゃ最悪、犯罪じゃないからな)  

『だよねー、そうだろうと思った』


 流石は―――、こっちの世界に来てからずっと一緒に生き続けただけあって俺の考えをよく理解している。多分、ラメラよりも俺の考え方を知っているだろう。


『そうと決まれば早速、ラメラを説得──』

「よしッ、この子たちはうちでかくまうわッ!」 

『する必要はないみたいだね』

 

 俺はラメラにばれないようにため息をついた。この人、考えているみたいでなーんにも考えていない。俺よりも考えていない。でも、それがラメラの良いところだった。


「ラメ……じゃなくて母さん、本当にいいの?」

「いいって、何がよ! 私は死にそうな子供を見捨てられるほど腐ってないわ!」


 いっつも俺に対する反対意見ばかり述べているような人だったが、今回に限っては意見が合致していた。


「わかったよ」

「なんか唇が緩んでいるけど。何が面白いの?」

「いや、何でもない……っていうか、名前はどうするの?」

「そうね……男の子はロザンナ、女の方はスザンナで良いんじゃないかしら。うん、決定ね!」


 全く、この人は勝手に人の名前を決めてしまう。俺がこっちに来た時もそうだ。「リョウ」って勝手に決めてしまった……


 ともかく、この日をもって、俺の家族が五人になった。

≪人物紹介≫

 スザンナ……ラメラの家の前で見つかった子供。武器は不明で、性別は女。金髪で白い肌を持っている。

 ロザンナ……ラメラの家の前で拾われた子供。武器は未確認で、男。白肌金髪で、スザンナとは兄妹もしくは双子のように思われた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鬼畜ですね……
2019/11/14 20:23 退会済み
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