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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第三章 天界の太陽編
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天界の太陽編 第一話 生活

≪リョウ視点≫

「ふう……これで一段落ついたかな?」

「ああ。今日の仕事はこれで終わりだろうな」


 俺とカルマはいつものように仕事をこなしていた。街中で不審者を捕まえ、気絶させてから肩に担ぐ。体力のない女性や子供、障害者なら手を引いて連れて行くのだが、コイツは元気そうだし良いだろう。


(いやぁ、四月の昼って心地いいな。お前もそう思うだろ?)

『……四月ってだけ言ったら、語弊があるんじゃない』


 ———はうんざりしたように言った。まぁ、語弊は避けられないだろう。というのも、あれから約八年間も経過して、俺は十三歳になったのだ。八年って言ったら、小中学校入学から卒業までと殆ど同じ期間だ。前世の俺の寿命の二分の一の年齢でもる。


 こんだけ時間があれば、何かしらの変化はあるものだろう。しかし、ギルドでの生活はびっくりするくらい不変だった。『任務』やら『訓練』やら、内容もスケジュールも全く変わっていない。最上位クラスの面子も変化なしだ。


 それでも、最初の一か月はまだ良かった。アスペンとグレイの過去(グレイについてはカルマからざっくり聞いた)、さらには『二刀流』についても知れたし、『基本の動き』も順調に習得していた。が、問題はそのあとだ。


(暇……)

『文句言わないで』


 ……さっきも言ったように、このギルドでの生活は良くも悪くも『平和』なのだ。俺達が日々鍛えているからだろうか。俺達が敵にやられる事はほとんどないし、少なくとも俺の知人には一人も居ない。一つ変わったこと言えば俺達が上位クラスに出世したという事くらいだろうか。部屋も給料もでかくなったし。


『でも、最上位にはなれなかったんだよね』

(ああ、そうだ)


 しかし、俺達はどう足掻いても最上位にはなれなかった。最上位に戦って勝利すれば上に上がれるのだが、最上位が異次元に強い所為で勝てないのだ。どんな動きも、どんな攻撃も無意味。彼らもプライドを賭けて戦っているので、『手加減』してくれないし。全部『妖艶』で戦ったりとか、そういうのは一切ない。


「……帰るか」

「そうだね」


 俺達は問題の人物を連れて、ギルド本部へと帰ることにした。この作業を、何回繰り返したことだろう。生前の俺が若造だから知らなかったのだが、仕事って単調。厳しい現実を成人するよりも先に学ばされる、この世界は残酷だと思った。


 あ、そうそう成人と言えば。カルマが成人した。レイジと結婚……とかはしてない。まぁ実質同居状態だし、アリっちゃアリな気がした。とっとと結婚するべきだと思う。


「ハァーッハァ☆ お疲れ様だよ、リョウ君、カルマ君!」


 魔法陣を通ると、そこにはアスペンが立っていた。数年経ったが、彼の元気溌剌っぷりは一切変化していない。平均寿命百歳らしいし、まだまだアスペンも若いのか。


「ただいま帰りました……この人は窃盗と殺人未遂ですが、どうすればいいですか?」

「取り敢えずグレイの所にネ☆ 僕に任せてY☆O」


 そういうと彼は、俺が連れてきた男を担いで五階へと上って行った。


「ありがとうございます! ……っと、これからどうする? 食事までまだ時間あるけど」

「うーん。このギルドってすきま時間が暇だよね~」

『どのギルドでも同じだよ……」

「先輩!」


 と、そこにグリア(俺の後輩、詳細はリュミエール三十話参照)が歩いてきた。彼は九年間、身長が殆ど伸びていない。お陰で低身長の少年風の外見になっているが、彼もニ十歳にはなっているはずだ。


「よお、グリア!」

「先輩はここで何を?」


 少し控えめなイメージがあったが、親睦を深めると積極的に喋ってくれるようになった。関わりやすい奴だから先輩として面倒を見たくなる。コイツも上位クラスになっていたから『同期(ちょっと違うかな)』って言った方が正しいのだけれど、彼はずっと俺の事を先輩と呼んでくれていた。


「いやぁ、暇だなーってね」

「その通り! お前も暇か?」

「はい。また手合わせしてくれますか?」


 グリアはいつも、カルマではなく何故か俺に手合わせを願う。理由は不明だ。


「オーケーだ。五階に行こう」


 俺はグレイの部屋に向かった。中庭は訓練で使われているので、グレイの部屋以外にいい場所が見つからなかったのだ。前にグレイから許可を貰っているので、俺達はしょっちゅうお世話になっている。


「失礼します」

「どうぞ」


 相変わらず不愛想な声が中から聞こえてきた……と思えばドアが開き、グレイが出て行った。こう見えても彼は人の事を思っており、俺達が行くと部屋を開けてくれる。


「ありがとうございまーす!」

「お礼は結構」


 俺達は中に入った。部屋としては巨大すぎる空間が、俺達の事を出迎える。その部屋の中央に立つと、俺はグリアに向けて木刀を構えた。一方彼は刀を抜かず、ぼんやりと俺の方を見つめていた。


「用意は良い? それじゃあ、スタート!」


 カルマの声が上がった。途端に俺はグリアに接近し、素早く突きを繰り出した。昔と比べてかなり精度が上がっているが、それはグリアも同じである。


「パシッ」


 彼は俺の一撃を素手で受け止め、木刀を掴んだまま俺を壁にぶん投げた。背中を硬化し、衝撃を緩和する。建造物の硬度が高いので、壁には一切の傷がつかなかった。俺は激烈で彼の元へと走ると、斬撃を連続で繰り出した。が、見事に全て躱される。防ぐのではなく、彼は全てを「躱して」いた。


「やっぱ素早いな、お前!」

「先輩こそっ……」


 彼はバク転して俺から離れると、大きく深呼吸をした。


罰斬改(ばつざんがい)


 それから彼は俺に接近し、連続で飛び跳ねながら近づいたり、遠のいたりを繰り返した。それだけではなく、左右にも不規則に動き続ける。いかせん不規則な動き方なので、うっかり視界から彼を外してしまう。そうなったら最後、彼は俺に接近して数発のパンチを繰り出すのだ。


 要するに、『錯乱→隙をついて後ろから攻撃』ってワケだ。幸い俺はこの攻撃法を知っていたので、俺は背中を常時硬化することで無効化した。硬化された背中を殴られた所で、痛くも痒くもない。


「ぐっ……」


 彼は硬化されていることも知らずに俺の背中を殴り、手を抑えた。鉄と同じ高度だから、そりゃあ反作用がエグイ事になる。


「もらいィ!」


 俺はその隙を狙って、木刀を突き出した。グリアが大きく仰け反ったが、すでに木刀は彼の胴にぶつかっている。彼はそのまま後ろに倒れ込んだ。妖艶でやったので、彼へのダメージは無かったはず。


「はい、勝負ありだね!」


 俺はグリアの手を掴んで起こしてやった。


「大丈夫か、痛くないか?」

「はい、大丈夫です……先輩、やっぱり強い」


 頭を掻きながら彼は言った。よかった、ちゃんとダメージは緩和できていた。


「時間も潰れたし、昼食を取りに行こうよ!」


 と、時計を確認したカルマが言った。手合わせをしていると、時間があっという間に過ぎていく。手合わせすること自体が楽しいし、こういう誘いはやっぱり魅力的だ。


「行きましょう、先輩」

「はいはーい」


 俺はゆっくりと足を踏み出した。

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