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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第二章 リュミエール編
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リュミエール編 第三十話 激烈

『基本の動き』を全部習得して、最上位との訓練も終わった。そんな俺達に待っているのは、『教え合い』で教える側に立つという仕事だ。そこで俺は、ある後輩と戦う事になる。勝つのは俺だけど、コイツも中々良いセン行ってるな……


カルマ「リョウはかなりスパルタで教えているらしいね」

リョウ「まぁ、そうだな。お前が優しすぎるってのもあるかもしれないが」

カルマ「うーん、それは褒めてるの?」

リョウ「褒めてると思ってくれて大丈夫だ」 

カルマ「……」

≪リョウ視点≫

 四つある基本の動きを全て習得したら、後は自分で技を改良ないし開発して上位クラスに匹敵する実力を身につける作業だ。んで、約一年後の『実践』の日に上位クラスと戦う。ここで上位に勝てたら、晴れて上位クラスへ昇格となるのだ。


 しかし自分の事だけやっていればいいって訳じゃない。ギルドには俺よりランクが下の奴がわんさかいるのだ。彼らに動きを教えることも、大切な訓練の一環となる。『教えあい』は強制的にやらされるのだ。


「これが『激烈』だ。理解したか? じゃあ列になって、一人ずつ俺にやってみてくれ」


 俺は実際に『激烈』を使って教えていた。低身長で年齢も低い俺に教えられるなんて、彼らからしたら屈辱以外の何者でもないだろう。しかもギルドに滞在していた期間が極端に短いとあれば論外だ。だから今、こうして動いて見せることで馬鹿にされないようにしている。


「クッソ……認めたくねえけど、コイツ俺よりも強いんだな……」

「すごいね……僕も強くならないと……」


 本来『基本の動き』を習得するのには半年かかるのに、それを大きく縮めて一か月で習得しちゃったから嫉妬されるのも無理はない。っていうかがっつり俺に聞こえる声で噂話するのやめてくれないかな。


 それにこの訓練はマンツーマン指導じゃない(マンツーマンになるのは中位以降)ので、一人一人じっくり観察することが出来ない。故にいちいち注意するのも馬鹿らしいから文句も言えない。


「せいやっ!」


 列を作った中でも一番前にいた奴が、俺に『激烈』に似た何かを繰り出した。ギリギリのところで「緩慢」、当たらずにしっかりと避ける。中々いい線なんだけど、少し違う。『激烈』の何が難しいのか、俺にはよくわからなかった。


「違う! もっと前のめりにするんだ。転ぶ寸前ぐらいがちょうどいい!」

「どりゃああっ!」

「全ッ然違う! 重心が集中していない! 激烈としては論外」

「はっ!」

「かなりいい! 明日から別の動きの習得にかかって大丈夫だ」


 ……とまあ、こんな感じで教えていく。俺は激烈が得意なのでずっと激烈を教えているが、他の動きを教えても良かったのだ。例えばカルマなら緩慢を教えている。カルマに比べて俺はスパルタだから、激烈の習得が異様に早かったり。


「くたばれっ!」


 しかし皆が皆、俺に従順なわけが無い。さっきも言ったように俺は周りより身長・年齢共に小さいのだ。故に一部から反感を買ってしまっている。今回のがいい例だ。何故か相手が真剣を使って斬りかかってきている。なんで見た目で判断しちゃうかねぇ……


 ……まあ、それが普通なんだけどな。


「なんでお前真剣使ってるの!? ねぇ殺意が垣間見えてるんだけど! しかも重心バラバラで激烈になってねぇし。やる気あんの?」

「無いです!」


 うっわ問題児の鑑かよ。何故そこで「無いです」って言うの? 全く哀れな奴め……


 俺は彼に「伐残骸(ダメージは小さいが痛みが尋常じゃない技)」を繰り出した。前にアスペンが使っていたのを見よう見真似で習得したのだ。少しダメージが大きい事を除けば、残りは「伐残骸」の模写だ。


「くたばれ!」

「ふぐっ」

 

 彼は情けない声を上げ、その場にへなへなと倒れ込んだ。俺より年上なんだから、痛みの耐性ぐらい付けておけよって思う。


「次!」


 俺は倒れ込んだ奴を放置したまま進めた。逆らった罰だ、こうなっても仕方ない。———からは『悪魔……』と、次の順の奴からは「ひぃぃぃっ」って言われたけど、気にしなくても良いだろう。


「……頑張っていますね」

「あ、グレイさん!」


 と、そこへグレイがやってきた。久方ぶりに見た気がする。相変わらず荘厳な顔つきで、笑みなど全く見えなかった。俺が教えている中には初めて見た人(テストの担当がアスペンだったのだろうか)も居たようで、グレイの顔をまじまじと見つめていた。俺が敬語で喋っている事、さらには目を閉じているのが気になったのかもしれない。中には得も言われぬ恐怖で膝をガクガク揺らしている者もいた。


 しかし、アスペン同様に俺はこの人がいるだけで安心する。


「グレイさんってどれ位で『激烈』を習得しましたか?」

「二日です」

「オラ! これが最上位の実力だ。お前らも頑張れ」


 俺は手招きをして「来いよ」と言った。さっき「伐残骸」を喰らった奴は俺のすぐ横でまだ倒れている。グレイでさえも気に掛けなかった。下位及び最下位クラスの訓練はこんなものだから。


「はい! せいやっ」

「いい線だ。だがここが……」


 時計の針は九時を示しており、訓練はまだまだ続くのだった。



「へへへ、リョウの所は動きの習得が早いんだね」

「まあな。俺に反感を抱いてるやつも多いし、一概に『すごい』とは言えないが……お前の所は評判がいいらしいな。なんかコツとか無いか?」

「うーん、何だろう。僕は何も気にしてないからな……教えるだけだと僕たちが退屈しちゃうよねー」


 昼食。俺とカルマは一緒に食事をと言っていた。今日の教え子達は俺と別の所で食べている。どうにも、俺と慣れ合いたくないらしい。大人数だとまともに話せないし、俺としては少人数で食べる方が好きなのだった。


「それな。もっと任務増やすべきだと思う」

「それな……?」

「何でもない」

 

 「それな」とか「草」とかローマ字とか、そういう言葉がこの世界に無い事を、俺は時々忘れてしまうのだ。


「ったく暇だ……とっとと食べて訓練再開まで手合わせしよう」

「それが良いね」


 俺は雑談を辞め、昼食に集中することにした。



「うーん、やっぱりリョウは強いなぁ……」

「カルマ……お前はやっぱり緩慢が上手だ。攻撃が読まれてしまう」

「ありがと」


 俺達は中庭にて、木刀で手合わせをした。実力はほぼ互角なので、中々勝負がつかない。そうこうしているうちに疲れ果て、倒れ込んでしまうのだ。カルマと全力で戦ったのは約二月ぶりだ。「能力ナシ」という平等フェアなルール下に置いての戦いだからこそ互角だが、能力アリだったら確実に俺が勝つだろう。そこを頭に入れて戦うと、とても不憫に思えた。


先輩・・


 倒れ込んでいる俺達に向けて、声がかけられた。声の主は今日、俺から訓練を受けていた下位クラスの人だった。身長は低めで、恐らく十歳程度なのだろう。それでも俺よりはでかかったが。


「あ? テメ……」

「まだ時間じゃないはずだけど、どうしたんだい?」


 俺の発言を遮る形でカルマが言った。寝ている時に話しかけられると、俺は怒りっぽくなる。そのことを予測しての割り込みだったのだろう。しかし流石のカルマも、次の発言は予測できなかった。

 

「手合わせお願いします」

「え!?」


 俺はたいして驚かなかったが、カルマは派手に驚いて起き上がった。俺らに話しかけてくるなんて、それ以外に要件は無い気がする。俺相手に雑談しようって奴は中々いないから。カルマ相手に雑談したい奴なら居るかもしれないが、俺が隣にいる場合は例外だろう。


「お前、クラス何だよ」

「下位。先輩と戦いたいです」


 ……そりゃまた随分と大胆な事で。積極的な奴は大歓迎だからな、嫌いじゃないぞ。


 俺はそういう意図を込めて苦笑した。自分より下のクラスに対して笑うのは、これが初めてだと思う。和やかな雰囲気を一切拒絶していたほうが、俺としては過ごしやすいからだ。


 にしても人に教えを乞うなんて、俺は一度もしたことが無いな。こういう事を出来る奴は尊敬するわ。


「いいけどさ……なんだ、真剣でか?」

「木刀で」


 彼は抜刀して俺を睨んだ。先程までのたどたどしいのとは一変して、おどろおどろしい雰囲気を放っている。コイツは確か、『激烈』を短めの期間で習得した奴だっけか。


「……少しは楽しませてくれよ」

『リョウ、それ悪役のセリフだよ!?』


 まぁ、まともにやりあう事は期待していない。ただ、独学で習得した『あの動き』を試すには、絶好のチャンスだろう。


 彼が俺に斬りかかった。この素早さは『激烈』の動きだろうか。ラメラや最上位との訓練を積んだ今の俺だからこそ視認できたが、昔の俺だったら何が起きたのかも分からずにやられていっただろう。


「リョウ、手加減はしてあげなよー!」


 最も、それらは「もしも」の話だが。俺は緩慢(だいぶ前に習ったカウンターの避けのみver)で後ろへ跳躍、突きを避けた。どうやら『緩慢』を見たことが無かったらしく、彼は自分の木刀を、ほんの束の間見つめていた。が、すぐに我に返ったようで俺に襲い掛かってきた。


 しかし、この斬撃も俺には当たらない。今度は『激烈』の超スピードで避けて見せた。彼も激烈は知っていたようだった。すぐに対応して追ってくる。


 彼が攻撃するたびに、俺はひたすらに避け続けた。相手が体力を浪費してくれることを期待したのではない。俺は避けながら相手の行動パターンを観察していたのだ。彼は基本の動きを習得していないのか『激烈』の動きでしか襲って来ない。しかも突き限定だ。攻撃パターンは殆ど一種類と言って良いだろう。


 そうして観察し終えると、俺は相手の突きを手で受け止めた。


「なっ……」


 しかも、ただ受け止めただけではない。受け止めたまま俺は木刀を握りしめ、木刀の輪郭をなぞる形で鉄を生成したのだ。それから何が起きたのかは言うまでもない。


「ぬ、抜けない……」

「へっへっへっ、どんなもんだ! 動けないだろ。これで相手を無力化できる!」


 俺は笑って説明した。念のため木刀を覆っている鉄は解除しないでおく。初めてだから手間取ったけれど、彼みたいな単調な攻撃だともっと短い時間で完封できそうな気がした。


「リョウの能力は変幻自在って訳だ……実践でも使えそうだね」

「放して……」


 俺は下位クラスを開放し、時計を見た。もうじき訓練再開だろう。しかしまあ、コイツの動きはなかなか良かった。将来の伸び(ギルドに来てから一か月そこらしか経過していない俺が言う事じゃない)が期待できる気がする。


「お疲れ。『基本の動き』を全部習得したらまた手合わせしよう。そうだお前、名前は?」

「グリア」

「オーケー、グリアね。筋は良かったから、後は努力次第だ。頑張れよ」


 俺は手を振ると、中庭から出て行こうと立ち上がった。そこに後ろから声をかけられる。


「リョウ、どこ行くの?」


 カルマの声だった。振り返りもせず、ぶっきらぼうに返事をする。この時間に外に出るなんて、トイレか水飲みの二択だろ。特別な持ち物があるわけでもないし。


「どこって……水飲みだが」

「もう1~2分で時間だよ」

「急いで行ってくる!」


 俺達の滑稽なやり取りを見て、グリアは静かに笑っていた。

≪技紹介≫

ーリョウー

①スチールネール(物理属性)

②スチールスレッド(物理属性)

③罰斬(物理属性)

④伐残骸(物理属性)……アスペンの技を見よう見まねで体得した物。アスペンの場合は木刀を使用するが、リョウの場合は硬化した手を使う。無論鉄製なのでダメージが大きく、痛みも激しい。

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