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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第二章 リュミエール編
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リュミエール編 第二十三話 生捕

≪リョウ視点≫

「ハァーッハァ☆ 任務頑張ろう!」


 今日は昨日から続いて、二日連続の任務だった。なんか『ギルドがマークしている、敵(前に襲撃した組織)の小拠点が潰せそうだから潰しておけ……アスペンと一緒に』という任務らしい。昨日と比べるとかなりやりがいがありそうな任務だったので、俺の心は弾んでいた。


「そうですね……ところで、昨日の任務は無事に終わりましたか?」


 街中を歩きながら、俺はアスペンに訊いた。昨日の任務は本当に面倒くさかった……とういか独特だったからな。未来永劫あんな任務にはお目にかかりたくない。アスペンもきっと同じ心情……


「ハァーッハァ☆ 言うまでもないだろうっ! だって僕だよ? しっかり演劇の極意を教えてあげたサ☆」


 ……なわけ無いよな。


「あ……はい」

『なんで聞いたの? こんな面倒くさい事』


 俺もそれは疑問だわ、なんで聞いたんだろう。


 自分でも疑問に思えてきた。一応自分が受け持っていた任務だし、まぁ言うのは当然かもしれないけれど。それでも「言わなきゃよかった」という後悔が大きかった。


(普通に気になったんだ……と思う)

「ハァーッハァ☆ ついたよっ」


 アスペンは道の隅っこにあるマンホールの近くに立ち止まった。リュミエールでは普通に水道が通っているので、街中にマンホールがたくさんある。国と地域によってはとっていないところも沢山あるらしいが、その点リュミエールはしっかりしていた。


 ……っと、話が逸れた。俺が見た限りここには何もなかった。


「着いたって……ここ、何もないですよ?」


 俺が尋ねると、アスペンは下を指差していった。


「マンホールがあるじゃないか☆ マンホールの下に奴らは拠点を立てているらしいんだ☆」


 マンホールの下にあるのは下水道だ。下水道に拠点を立てる敵の精神ってどうなってるんだろう。汚いし臭いし食べ物もないし、良い所なんて一つもない気がする。


「僕だったら絶対に入りたくないね☆」


 アスペンは俺の考えていることを読み取ったらしく、手で自分の鼻をつまんだ。


「俺も同感です。とっとと終わらせましょう」


 なんか、臭いって事実を知った途端、すっごいやる気が下がったんだけど。マンホールが臭いのは当然だけどさ。嫌な事は早めに終わすべし、俺はマンホールの蓋を開けようとした。


「ちょちょちょ、ちょっと待って! 一つ知らせておかなきゃいけないことがある」


 がしかし、アスペンに静止させられた。


「……何ですか?」

「中にいる人たちは全員生け捕りにしてねァーッハァ☆ こっちの味方の間諜とかもいるし、そもそも僕たちの仕事は『捕まえる』事だからネ☆ 自分の身が危ないってとき以外は殺さないように」


 間諜……確か、スパイと同義の言葉だっけか。盗賊共は死んでもいい気がするけど、俺達の為に体張って頑張ってくれている人たちを殺すわけにはいかないもんな。


「わかりました……この前のアジト襲撃の時は殺しまくってましたけど、あれは良いんですか?」

「あれは本格的な襲撃だったからね。それにあの場所に間諜は誰一人としていなかったから」

「……へぇ」


 間諜たちがいなかった? つまり前もって引かせていた(もしくは元々間諜を派遣していなかった)って事か。


「全員生け捕りだよ、分かったかい? じゃあ行こうか」

「はい」


 俺はマンホールを開けた。中には梯子が垂れており、それが数m続いた先に地面が見えた。


「俺が先に行きますね……」


 俺は体を柔軟に動かし、下へと下って行った。下に行くほど悪臭が強くなってくる。梯子なんて殆ど使ったことなかったけれど、意外と早く降りることが出来た。時間にして十秒未満。これも俺の身体能力上昇の表れか。


 しかし、アスペンはそれ以上に速く梯子を下りてきた。その時間は五秒にも満たない。うっわ、最上位って怖いね。


 そしてアスペンが降り切った瞬間、下水道の曲がり角から人が出てきた。俺達を見るなり叫ぶ。


「誰だテメェら!」


 ガラの悪そうな男に続いて、何人もの男女がぞろぞろと出てきた。全員不潔で、外に出ていないせいか肌は白っぽかった。


「『天界の太陽』最上位クラス、アスペンと……」

「中位クラスのリョウだ!」


 叫ぶなり俺は、両手から鉄の糸(スチールスレッド)を生成して敵たちに突っ込んだ。足やら手やらを拘束し、身動きを封じていく。でたらめに切りかかるよりもずっと効率が良かった。


「……な、なんだ、これは! 動きが取れん!」

「ハァーッハァ☆ リョウ君、流石だよ」


 しかし、アスペンだって負けていない。拳銃のような物をポケットから取り出すと、トリガーを引いた。無論、銃口から打ち出されるのは弾ではない。大量の花火だ。火というよりかは煙がメインで、敵たちの視界を次々に奪っていった。


 「花火」という能力の都合上、手加減が出来ないのだろう。煙で錯乱するから、捕獲は俺に任せるという事らしい。


「任せてくださいよ」


 俺は五本の指から糸を生成した。これまでずっと二本~三本だったけれど、この人数相手だと効率が悪かったのだ。


「クソ……鬱陶しい糸だ! お前ら、こんなのは斬ればいい……っ!?」

「これ鉄の糸だぞ? 斬れる訳ねえだろ、馬鹿」


 俺は暴言を吐くと、今発言した男の糸の強度を二倍にした。まあ一倍だけでも普通に斬れないだろうけれど、念には念を入れておくのだ。


「リョウ君☆ もう制圧完了だよ☆」


 突然、アスペンの声が煙の中から聞こえた。銃を乱射するのをやめているようで、段々と煙が薄くなってくる。それと共にアスペンの姿も見えてきた……って


「動けないんだけど……☆」


 なんでアスペンまで糸に絡まってるの? 


「あ、ごめんなさい! 今解きますんで」

「よろしく頼むY☆O」


 俺はアスペンが絡まっている部分を素手で解いた。俺の能力はすごく使い勝手が良いのだけれど、いくつか欠点もある。そのうちの一つがこれだ。俺が生成した鉄は途中で切断することが出来ない。つまり盗賊達が繋がれている糸とアスペンが繋がれている糸は同じ糸である。なので今出来ることは、盗賊達と一緒にアスペンを開放するか、それとも面倒だけど手で解くかの二択しかないのだった。


(面倒くさい……)


 手を動かしながら俺はそう感じていた。素材が鉄だから、少し間違えただけでアスペンの事を切ってしまう。どこぞの転生モノみたいに、それこそちょっとミスっただけでみじん切りだ。


『せっかく複数ほんの糸を生成したんだから、小指から出した糸はあの人に、薬指から出した糸はこっちの人に……って使い分けておけばよかったのに。そうすればアスペンの開放も楽だったと思う』

(あんま意味わかんねえけど、取り敢えず次回からそうしとくわ)


 鉄の糸(スチールスレッド)を使い始めたのは割と最近だし、これから試行錯誤して自分に最も合ったスタイルを見つけていければいいだろう。そんな事を話しているうちに、アスペンを封じていた糸を解けた。


「ハァーッハァ☆ ありがとう、リョウ君っ! それじゃあここにいる人たちの後始末をしようか」

「そうですね」


 それから俺達は、盗賊達をギルドの本部へと連行した。手や足に鉄の糸(スチールスレッド)を巻き付けているお陰で、抵抗らしい抵抗はされなかった。しいて言うなら暴言や野次くらいだろうか。しかしそれらも「クソが」「消えろ」「失せろ」みたいなもので、『抵抗』というにはあまりにもお粗末だった。


「いやあ、リョウ君の能力は本当に羨ましいねェ。強さと可能性で言ったら無限大だよ、インフィニティ」


 街中を歩いている時、アスペンからそんな事を言われた。街中で人を捕虜みたいにして連れて歩いたら明らかに不審者扱いだが、俺達の場合髪留め(天界の太陽の証)があるので特に変な目では見られないのだ。


 ……アスペンの喋り方、格好の所為か沢山の視線を感じたが。


「ありがとうございます……でも、アスペンさんの能力も派手でかっこいいですよ」

「そりゃあ僕の能力だからね。あたり前サ☆」


 言われると思った。アスペンに向けて諂うのは、面倒くさくなるからやめた方が良いかもしれない。


「にしても今日は楽でした。能力行使される間もなく終わっちゃいましたよ」

「そうだね☆ 奇襲に近いから、向こうの人達もびっくりしたんだよ」


 アスペンがそういうと、後ろから付いて来ていた盗賊が同調した。


「リョウもアスペンさんも、強かったですから。彼らも対応できなかったのですよ」


 アスペン……「さん」? 捕虜にされた者としては落ち着いた物腰に、俺は少なからず驚いた。が、すぐに「間諜」の存在を思い出して納得する。そうか、彼が間諜か。


「ハァーッハァ☆ 間諜君っ、お疲れ様。帰ってから何がしたい? 食事が良ければ作るし、風呂が良いならお湯をためておくよ?」


 アスペンが気前よく話を持ち掛けた。あんな下水道で数日(いや、数か月以上いたのかもしれない)過ごした後だ、こういう待遇が成されて当然だろう。


「そうですねー……ご飯が欲しいです。魚が良いかな」


 リュミエールは内陸国であるため、魚は高級食材の部類に入る。調達するのは至難の業なのだが、アスペンは気前よく了承した。


「良いよ! 後何か欲しいものは?」


 うん、心が広いな。最上位クラスの人たちがみんなこんな感じだったらいいのにって常々思う。ボロネアとか酷いから……


 がしかし、そんな達観も次のセリフで終了した。


「晩飯はハヤシライスでお願いします……」


 へぇ、ハヤシか……俺の前でそういうこと言っちゃうか……


 俺は腕をゴキゴキ鳴らした。怒りで体温が三度上がった気がする。そうか、カレーじゃなくてハヤシを要求するか……


「お前、覚悟は……」

「ハァーッハァ☆ ストップだよ、リョウ君!」

『落ち着いて、ね?』


 がしかし、俺の事を良く知っている人たちにちゃんと止められた。

余談・リュミエールの人口について

リュミエールは他と比べると小国だが、人口は多い。幸いなことに衣食住はギルドを利用しているので問題ないが、治安が悪いので盗賊が比較的多く、犯罪が横行している。故に『天界の太陽』のような組織は、現在需要が高まってきている。

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