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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第二章 リュミエール編
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リュミエール編 第十四話 花火

≪リョウ視点≫

『うっわ……思ったより酷いね』


 地下一階に降りた時、———が言っていた言葉だ。これは俺の心情にそのまま重なる。


 ……酷い。先に来ていた精鋭たちの活躍によってこの部屋は既に血の海に成り果てていたが、それでも尚残った人々が戦い続けている。それも数名ではなく、数十名だ。さっきの部屋の総員と同じくらいの人が戦っていた。見ると、返り血で赤く染まったアスペンやレイジなどの姿も確認できた。


(……やるか)

『無理はしないでね……ってさっきも言ったか』


 俺はさっきとは比べ物にならない程巨大な刀を右手に作り出した。二刀流ではなく、一本を両手で構える形で振り回す。俺が創造する刀は通常の刀より軽く、楽々振り回せた。


「……おい、危ないからやめてくれ!」


 あまりにも肥大化させすぎたので味方陣営(ボロネア)からクレームが来た。「文句言うなよ」と返そうとした俺だったが、自分の刀に血が殆ど付着していないことに気が付いて辞めた。


 ……どうやら、敵は俺の攻撃を避けたらしい。


『さっきの階層より敵が強力になってるよ』

(だな)

「くくく……効きませんよ、そんな貧弱な攻撃!」

「雑魚」


 俺の攻撃に反応してか敵が二人、俺の方ににじり寄ってきた。アスペン達では無く俺を狙ったという事は、少なくとも単細胞ではないのだろう。事実、この二人は脳筋ってよりも知能派のように見えた。


 ……筋肉が他より貧弱だし。


「んじゃあ、かかってこいよ」


 俺は挑発に乗った、ニ対一は不利だとか、こいつらは自分より年上だとか、そういう雑念は不思議と湧いてこなかった。理由としては、卑怯に金稼ぐような盗賊に負ける気がしなかったから……だろうか。


「遠慮なくいかせていただきます!」

「軽挙妄動極まりない」


 まず、口数が多い方の攻撃が俺を襲った。武器はラメラが使っていたのと同じようなコピスでスピードがウリの武器なのだが……


「遅いッ!」

「……馬鹿なっ!?」


 流石にグレイやラメラのようにはいかなかった。軌道が目で追えるレベルのスピードなんて、物の数ではない。俺は最低限の動きだけで攻撃をかわした。そして手に持っていた刀を消し、代わりに小ぶりな刀を生成した。スピードを追い求めた結果、形状が相手と同じコピスになる。


「スピードってのはな、こういうのの事を言うんだ! 小さいからってナメんな!」


 俺は、連続で相手を突きまくった。反応速度が遅い事は目に見えていたので、一か所だけを集中的に狙う。自己ベスト更新待ったなしのスピードで刀は血肉を裂き、相手の腹部に風穴をあけた。


 多分、死んだだろう。


『あーあ、内臓出てきてるよ……』

(そういうこと言うな! また吐きそうになるから!)

「他言無用!」


 ほっと一息つくまでもなく、敵の片割れが俺を襲った。手裏剣のような暗器を連続して投げてくる。慌てて体を硬化したが、うち数本は俺の肩に刺さった。


「脳の無い鷹……笑止千万!」


 なんか聞く人によっては「大丈夫?」となりそうなことを、彼は言い始めた。ひょろがりの体質と相まってかなり気持ち悪い。そもそも致命傷を負わしたわけでもないのだ。『刺さった』といっても浅く刺さったというだけなのだから、大した痛手もなってない。


『大丈夫!?』

(見れば分かるだろ? 全ッ然余裕だ! 一撃一撃が弱いから、あんまり奥まで刺さってない)


 俺は滑らかに手裏剣を抜くと、相手に投げ返した。「シュッ」と音を立てて虚無を切り裂き、持ち主の頭蓋に深く突き刺さる。数秒の時を経て、彼は倒れ込んだ。


「死にたい奴からかかってこい!」


 俺は一声叫ぶと、近くにいたアスペンに合流した。


「ハァーッハァ☆ や~っと僕を頼る気になったかい?」

「違……いや、そうとっていただいて結構です」


 アスペンの周りを、約十名の敵が取り囲んでいた。一見すると四面楚歌に見えるが、アスペンの服に付着している血は全て、返り血のようだった。体中、どこを探しても怪我は見当たらない。


「じゃあ、やっちゃおうか☆」

「怪しく聞こえる……」


 俺は目の前の敵を斬ることに集中した。使うのは短刀のみで、貪欲に首を狙う。相手に攻撃させる隙さえ与えなければ、スピードは最強のステータスとも言えた。


 しかし、俺には一撃で首を飛ばすだけの技術は無かった。そうしてあげた方が痛みは少ないのだろう。が、無理な物は無理だ。


 故に俺は敵を倒すまでに時間がかかった。その上、人数が多いせいか俺もいくらか傷を負った。二人目で右腕を、三人目で足を斬られている。が、それ以上の被害は出なかった。なぜかって?それは……


「ハァーッハァ☆ 弱いね、君達☆ リョウ君を見ならいなY☆O」


 ……それは、他でもないアスペンが奮闘してくれたからである。十人中の六人を同時に相手にしていたのだ。彼が一撃を放つたび、断末魔が響き渡る。その断末魔の前奏の中、ただ一人動き続ける彼は、美しい舞を演じているようにも見えた。俺はただ、呆けてその様子を眺めていた。


「アスペンさんって強いんだ……」

「君もね☆」


 ただ強いだけではなく、彼には返事をするだけの余裕まであった。


「男をナンパする趣味でもあるんですか」

「あ……いや、無かったはずだね☆ っていうかリョウ、後ろ!」


 はっと我に返り、俺は背中を硬化した。直後に重い一撃を、俺は背後に感じた。硬化が間に合ったお陰でなんとか「衝撃」だけで済んだが、あと一秒でも遅かったら俺は重傷を負っていただろう。


「はっはっは!」


 笑い声に振り向こうとしたが、その暇もなく追撃が来た。今度は正面から斬りかかってくる。俺はすんでの所でコピス似の武器で防いだ。


「気を付けて☆ 彼、属性付与がなされている! 危険だ!」


 その言葉を最後に、アスペンは敵陣に飲まれて見えなくなった。援軍を使って、アスペンを集団で倒そうという敵の魂胆が見え隠れしている。


「はっはっは、正解!」


 アスペンが発言している間にも彼は俺を斬り続けた。右、左、後ろ、前……四方八方から攻撃が来る。風を切って飛ぶ矢さながらの攻撃を、生成した鎧と武器でひたすらに防ぎ続けた。


 がしかし彼は、俺が攻撃を防ぐたびにその弛緩に付け入り、鎧の隙間から俺を斬りつけるのだ。何と器用な芸当だろう。


 そしてある時、ふっと攻撃の手が止んだ。


「……俺が攻め続けるだけじゃつまらない。お前もちゃんと反撃しろ」


 息も絶え絶えになりながら俺は、初めて彼の顔を見た。大真面目な顔つきにはまだどこか幼さが残っており、瞳には殺意……いや、喜びが浮かんでいる。サイコパスだ。


 そしてその武器である刀には、うっすらとオーラのようなものが確認できた。武器を振ってる訳でもないのに、何故か常に風切り音が聞こえる。


 これが『属性付与』ってやつか。


「ふざけんな!」

 

 俺は鎧と武器に使用していた鉄を引っ込め、その分で新たな武器を生成した(俺の生成量に限界があるのは、感覚で分かった)。十本、全ての指先に鉄の爪(スチールネール)を生成し、斬りかかった。


『コピスとかよりスピードが出せる……考えたね』

(……)


 突然の猛攻に、彼は完全には反応できなかったようで、腕部分に切り傷を負った。俺はこれはチャンスと踏んで連続で切りつけた。がしかし二発目以降の攻撃は、電光石火の勢いで敵の刀にはじき返されてしまった。


「はっはっは」


 しかし、俺はそれでもなお手を動かすのを辞めなかった。相手の動きの弛緩を作ろうと、必死で切りつけ続ける。腹部から足首へ、足首から腕へと、俺の攻撃が一か所にとどまることは無い。大きく、時に小さく。必死で動き続けた。


 しかし敵の方が数枚上手で機敏に対応して俺の攻撃を一切寄せ付けない。無理な体勢になりつつも、俺の攻撃を全て受け止めていた。


 ……ラメラとの訓練はこんなもんじゃなかったはずだ。素振り二千回とか普通にやらされていたから。だから、まだまだ余裕のはず……


「ハァ……ハァ……」


 しかし、息は切れてきていた。やっぱり根性論だけじゃ倒せないのか。敵は一切反撃せず、余裕の表情で俺を嘲笑っていた。あたかも、「諦めろ」と言うように。


「クッ……ソ! まだやれんぞ俺は!」

「はっはっはっ! 弱いね! この俺、フィランには不足しすぎていた!」


 言下に、(フィラン)の姿が忽然と消えた。後ろに微かな気配を感じて振り返ろうとする。はじめと同様に背中を硬化していれば助かったのだろうが、俺の心にそこまでの余裕はなかった。 

 

 己のミスに気付いたまさにその瞬間、俺の手が吹き飛んだ。恐ろしい事に彼は、俺の手を骨ごと一刀両断したのだ。痛みには慣れていたのでそこまで動揺はしなかった。が、俺はこれで片手で戦う事になったのだ。状況が悪化したのは言うまでもない。


「ぐっ……」

「ハァーッハァ☆ 待たせたね、リョウ君!」


 聞き覚えのある声が耳に入った。はっとして見上げるとそこにはアスペンが立っていた。途中でキャッチしたんのだろうか。手には俺の右手が優しく握られており、彼はそれを俺に押し付けた。


「途中から追加された造園に、思ったより手間取ってしまってねッ☆ ハァーッハァ☆ 遅れちゃったよ。ほら、これ。持っておいて」


 俺は自分の手を左手で受け取り、ポケットにしまった。ここまでは良い。俺にとっては紛れの無い朗報だ。だが…… 


「……」


 俺は、呆然とアスペンを眺めることしかできなかった。フィランも、驚いた様子でアスペンを見据えている。アスペンはついさっきまで無傷だったはずなのに。とても美しい顔だったはずなのに。


 今の彼は、美しさとは無縁だった。顔中斬り傷だらけで、瞼は腫れ上がっている。大量の血が滴り落ちており、今にもぶっ倒れそうだった。普通なのはお調子者さながらの口調のみ。


「ハァ……ハァ……大……丈夫ですか!? 死にそうですよ!」

「……? 何のことかな☆ 僕はまだまだ死なないよっ」


 アスペンは潰れた笑顔で俺にウィンクすると、フィランと斬り結んだ。属性付与されているフィランと、互角に……いや、それ以上に戦っているように見える。俺は手を出そうにも手を出せなかった。


「はっはっはっ! 風属性付与はスピード特化だ……しかし、お前はそのスピードを追えるている! 実に愉快だ!」

「まあ僕だからね。あたりまえサ☆ でも、時間も時間だし、そろそろおしまいにしようか!」


 アスペンは一声叫ぶと、何故かフィランと距離をとった。無防備にしか見えないガラ空きの胴体めがけて、フィランが加速する。俺は慌ててアスペンの盾になろうと走り出したが、アスペン本人が手で制し、再び叫んだ。


「燃え上がれ、ファイアフラワー!」


 言下に、アスペン周辺に色とりどりの炎が生成された。ぎょっとした様子でフィランの動きが鈍化する。しかし技の張本人であるアスペンは炎に微塵も関心を示さず、刀でそっと空を斬った。


 一見するとただの素振りだっただろう。しかし実際は違った。というのも、アスペンの周辺に浮かんでいた炎がアスペンが切った方向めがけて飛んで行ったのだ。当然その矛先にはフィランがいるので、炎はフィランに燃え移る。


「はっはっ……熱い……はっはっは……」


 色とりどりの炎が散っていく光景はまさしくファイアフラワー(花火)の様に美しかった。炎は段々収まって良き、最期には燃え尽きて灰となった。


『花火を操る能力かな……にしても強い……』


 ———が思わずといった様子で声を曇らせる。うん、やっぱりアスペンはただのお調子者ではなかったようだ。


「ハァーッハァ☆ さあ、ここからが本番さ! 出番だよ、グレイ!」


 言下に、破壊音が部屋に響き渡った。


 ……援軍だ。

≪能力紹介≫

アスペン……花火を操る能力。操れる花火の量に限界はなく、実質無限に生成できる。仲間には燃え移らず、敵には燃え移る都合のいい炎。攻撃と連携して動かすことも出来る。

アスペン「ハァーッハァ☆ 美しい僕にピッタリだ☆」


 余談・属性について

 この世界には『属性』という物があり、属性同士で得意不得意がある(火は水に弱い、など)。主に「火・風・土・水・物理」の五つに分類される。『風の動き』や『火の動き』などがあり、これらは『基本の動き』と呼ばれている。


 余談・属性付与について

 一部の術者や能力者は『属性を分け与える=属性付与する』ことが出来る。属性付与をすることによって対象者の動きが変化したり、対象者の武器の形状が変化したりする。戦いの場においてかなり重要。

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